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58 恋に落ちる①
ルシアは散々カミーユに啼かされて、ぐったりと倒れ込み気がついた時にはベッドの上だった。
目を開けば薄闇の中でうっすらと見えた彼の横顔を見て、ルシアは彼の名前を呼んだ。
「カミーユ……!」
新婚初夜に『なんてことをしてくれたんだ』という気持ちで、横になっていた彼女の隣に居たカミーユを睨み彼は肩を竦めて笑った。
「悪い悪い。許せ……あれは、冗談だ。ルシア。俺は妻の姿を誰にも見せる気はない。声も聞かせる気もない。王族の部屋には音漏れ防止の魔法が掛けられ、当番のヒューバートはその辺に居ただろうが、聞こえてはいないだろう」
護衛騎士ヒューバートは自分がそんな風に夫婦となった二人に利用されていることも知らずに、ただ単に自らの仕事をしていただけなのだ。
「え……そうなの?」
驚いたルシアはそう言い、カミーユは頷いた。
身体は丁寧に布で拭かれているのか、とてもさっぱりとしていた。カミーユがルシアが眠ってしまった後に、後処理をしてくれたのだろう。
(シャンペル卿に聞かれてしまうのが嫌で、必死で声を我慢していたのに……)
とは言え、あのヒューバートがそれを聞いても、すぐに忘れてしまうだろうとルシアは今では思って居た。彼は噂で聞くとおり女泣かせで、誰のものにはならない人なのだ。
だが、城の中にはそれでも彼と一夜を過ごしたいと望む女性は多い。
「まず……先に言っておくが、俺はお前が好きだ。その上で、言いたいことを言え。我慢をするな。夫婦は喧嘩するほどに仲が良いと聞くからな」
「その上で、喧嘩ですか? カミーユが私を好きだから?」
半信半疑のルシアの質問に頷いたカミーユは水差しにあった水をグラスへと汲み、不思議そうに首を傾げた彼女へ差し出した。
「……そうだ。お前は俺のことを、まるで自分とは何か違う生き物のように扱う。確かに王族として生まれたが、ルシアを良いと思い好きになったのはこの俺だ。それを否定するな」
「……ふふ。わかりました」
ルシアの前のカミーユは『氷の王子』と呼ばれていた頃など、まるでなかったように振る舞う。感情豊かだし怒りたい時に怒り、甘えたい時に甘えた。
それは、これまでにカミーユ自身が自分に禁じていたことなのかもしれない。
「そういえば……結婚して、少ししたら母に会いに行こうと思う。ルシアも共に来てくれるか?」
息子を王太子にしたいがために権力を持つ大臣へ捧げようとしたらしいカミーユの母は、今は離宮に幽閉されているらしい。
「あの、大丈夫なのですか……?」
カミーユ自身は大丈夫と思っても、会えばまた過去のトラウマがぶり返してしまうのかもしれないと、ルシアはそう思った。
(本当にとんでもないことをされたのだもの。あんな風に心や態度を凍らせてしまうのだって、無理はないわ)
「ああ……あれから、既に二十年以上経った。母には二度と会いたくないとは思って居たが、心の整理は付いたし、今では叔父との密通を疑われ、少々おかしくなっていたのだと思う。可哀想な人だったのだと」
「……そう。確かに、そうですね」
ルシアは頷いた。言う通りに成長を重ねた彼は、きっと過去のトラウマを乗り越えられる。
冷たい態度で誰もを威嚇し、心を凍らせて生きる必要もなくなるのだ。
「……ルシアも両親が居る海へ行ってみるか。ルブラン王国へ新婚旅行だ。誰も文句は言わぬだろう。亡き両親への報告と言えば……」
「そうですね。新婚旅行も楽しそうです……」
ルブラン王国は長い航路を辿るために、かなり長期間ウィスタリア王国を離れてしまうことになるが、それは仕方ない思ってもらえることだろう。
偽のユスターシュ伯爵夫婦は、ルシアが自分たちの仕事に使えると知り、旅行に連れて行くことはしなくなった。
(だんだんと、遠出の数も少なくて、そんなにしなくなったわね。今思うと、ただ疑われないために続けていたことだけど、もう面倒になってしなくなっただけなのかもしれない」
ユスターシュ伯爵家の持つ船団など経営には、彼ら二人はあまり関係なかった。
以前からの使用人が実務は担当していたし、ルシアが業務を効率化していたこともあり、ユスターシュ伯爵家は当主たちが居ずともまわりただ金を稼ぐだけだった。
「……私の居た異世界に、カミーユが居ればきっと大変でしょう」
カミーユの隣へと座ったルシアは、そう言って微笑んだ。
「何故だ?」
「……だって、こんなにも王子様然とした方は、あまり居ません。いえ。それは、こちらの世界でもそうなのですが」
(こんな王子様が、現代日本へそこら中に居ると大変だわ)
カミーユはしどけない裸体の今でも辺りを払うくらいに姿形が整っている。彼が歩けば、何をしなくても衆目が集まってしまうことだろう。
目を開けば薄闇の中でうっすらと見えた彼の横顔を見て、ルシアは彼の名前を呼んだ。
「カミーユ……!」
新婚初夜に『なんてことをしてくれたんだ』という気持ちで、横になっていた彼女の隣に居たカミーユを睨み彼は肩を竦めて笑った。
「悪い悪い。許せ……あれは、冗談だ。ルシア。俺は妻の姿を誰にも見せる気はない。声も聞かせる気もない。王族の部屋には音漏れ防止の魔法が掛けられ、当番のヒューバートはその辺に居ただろうが、聞こえてはいないだろう」
護衛騎士ヒューバートは自分がそんな風に夫婦となった二人に利用されていることも知らずに、ただ単に自らの仕事をしていただけなのだ。
「え……そうなの?」
驚いたルシアはそう言い、カミーユは頷いた。
身体は丁寧に布で拭かれているのか、とてもさっぱりとしていた。カミーユがルシアが眠ってしまった後に、後処理をしてくれたのだろう。
(シャンペル卿に聞かれてしまうのが嫌で、必死で声を我慢していたのに……)
とは言え、あのヒューバートがそれを聞いても、すぐに忘れてしまうだろうとルシアは今では思って居た。彼は噂で聞くとおり女泣かせで、誰のものにはならない人なのだ。
だが、城の中にはそれでも彼と一夜を過ごしたいと望む女性は多い。
「まず……先に言っておくが、俺はお前が好きだ。その上で、言いたいことを言え。我慢をするな。夫婦は喧嘩するほどに仲が良いと聞くからな」
「その上で、喧嘩ですか? カミーユが私を好きだから?」
半信半疑のルシアの質問に頷いたカミーユは水差しにあった水をグラスへと汲み、不思議そうに首を傾げた彼女へ差し出した。
「……そうだ。お前は俺のことを、まるで自分とは何か違う生き物のように扱う。確かに王族として生まれたが、ルシアを良いと思い好きになったのはこの俺だ。それを否定するな」
「……ふふ。わかりました」
ルシアの前のカミーユは『氷の王子』と呼ばれていた頃など、まるでなかったように振る舞う。感情豊かだし怒りたい時に怒り、甘えたい時に甘えた。
それは、これまでにカミーユ自身が自分に禁じていたことなのかもしれない。
「そういえば……結婚して、少ししたら母に会いに行こうと思う。ルシアも共に来てくれるか?」
息子を王太子にしたいがために権力を持つ大臣へ捧げようとしたらしいカミーユの母は、今は離宮に幽閉されているらしい。
「あの、大丈夫なのですか……?」
カミーユ自身は大丈夫と思っても、会えばまた過去のトラウマがぶり返してしまうのかもしれないと、ルシアはそう思った。
(本当にとんでもないことをされたのだもの。あんな風に心や態度を凍らせてしまうのだって、無理はないわ)
「ああ……あれから、既に二十年以上経った。母には二度と会いたくないとは思って居たが、心の整理は付いたし、今では叔父との密通を疑われ、少々おかしくなっていたのだと思う。可哀想な人だったのだと」
「……そう。確かに、そうですね」
ルシアは頷いた。言う通りに成長を重ねた彼は、きっと過去のトラウマを乗り越えられる。
冷たい態度で誰もを威嚇し、心を凍らせて生きる必要もなくなるのだ。
「……ルシアも両親が居る海へ行ってみるか。ルブラン王国へ新婚旅行だ。誰も文句は言わぬだろう。亡き両親への報告と言えば……」
「そうですね。新婚旅行も楽しそうです……」
ルブラン王国は長い航路を辿るために、かなり長期間ウィスタリア王国を離れてしまうことになるが、それは仕方ない思ってもらえることだろう。
偽のユスターシュ伯爵夫婦は、ルシアが自分たちの仕事に使えると知り、旅行に連れて行くことはしなくなった。
(だんだんと、遠出の数も少なくて、そんなにしなくなったわね。今思うと、ただ疑われないために続けていたことだけど、もう面倒になってしなくなっただけなのかもしれない」
ユスターシュ伯爵家の持つ船団など経営には、彼ら二人はあまり関係なかった。
以前からの使用人が実務は担当していたし、ルシアが業務を効率化していたこともあり、ユスターシュ伯爵家は当主たちが居ずともまわりただ金を稼ぐだけだった。
「……私の居た異世界に、カミーユが居ればきっと大変でしょう」
カミーユの隣へと座ったルシアは、そう言って微笑んだ。
「何故だ?」
「……だって、こんなにも王子様然とした方は、あまり居ません。いえ。それは、こちらの世界でもそうなのですが」
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