竜喚び聖女は捨てられた竜騎士を救いたい!

待鳥園子

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004 ご提案①

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「これは、企業秘密なんですが! 私たちの『竜喚び』はですね、聖女と竜騎士の触れている面が大きいほど、能力が強くなるんです。竜騎士の皆さんと手のひらを合わせるでしょう? 接触面を広げると、比例して喚ぶ力も強くなるんです!」

「え? あ、いや……待て待て待て」

 驚いた表情のジェイドさんは一歩後ずさったので、私はにっこり微笑んで、一歩彼へと近付いた。

「それでは、私も服を脱ぎますので、出来れば後ろからぎゅーっと! 私の身体の肌に密着するように抱きしめて頂いて、よろしいですか? 確かに初対面で肌を合わせるなんて、通常ではありえないことですが私は覚悟を決めて来ましたので、どうか気にしないでください!」

「いやいや、それを気にするなは、無理があるだろう……」

 あら。引き攣った整った顔も……良いわね。そして、私はここで美味しい獲物を逃すつもりはない。

 絶対に彼の竜を喚び出して、アスティ公爵家へ、普通の貴族令嬢として帰るのよ!

「これは緊急事態による特別処置で、私もこれで以後の自由を手に入れます。ですから、その後の報酬を思えば、安いものなんですよ」

 胸のリボンを解きながら、私がもう一歩近付けば、彼はバッと両手を挙げて牽制した。

「ま、待ってくれ! 今ここですぐには、それは無理だ! ……心の準備の時間が欲しい」

 その時のジェイドさんの整った顔に浮かんだ表情は、完全に焦っていた。

 私は事前に考えそうしようと覚悟し、そうするしかないと決意し、ここまでやって来たわけだけれども、彼はほんの少し前に聞かされたばかり。

 時間が必要と言われれば、それはそうなのかもしれない。

 私だけの判断ではいかない。先方の同意がなければ、これってただの犯罪行為にあたるし……。

「え? あ、はい……わかりました。心の準備の方を整えていただいて大丈夫です。どうぞ」

 私はとりあえず解いていたリボンを結び直し、ジェイドさんの真向かいにある椅子へと腰掛けた……いけない。

 今、気が付いてしまったけれど、私挨拶してから要件しか話していなくて、落ち着いて雑談する時間も取っていないわ。

 あまりにも普通の女の子に戻りた過ぎて、彼の気持ちを考えられていなかったわ。聖女失格よ。仕事を持つ成人失格。反省するしかない。

 私たちは向かい合って小さな机を挟んで座り、しばし、無言のままで時を過ごした。

 ジェイドさんは突然初対面の女とよくわからないことをしなければいけないことについて、色々と考えているのか、頬杖をついて明後日の方向を見つめていた。

 ……無理もないわ。

 だって、初対面の女に素肌を合わせましょうと提案されるのよ。しかも、職場で。信じられないわよね。この私が提案したんだけど。

 けれど、竜喚びの能力を高めるには、そうするしかない。

 私以外の聖女がこれを言い出さなかったのは『どうしても彼の竜を喚び出さねばいけない理由』がなかった。私にはある。それに、尽きてしまうだろう。

 ジェイドさんの心の準備とやらを待つために、私も長方形の窓をぼんやりと見て、飛行する鳥の数を数えていた。
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