5 / 9
05 真実
しおりを挟む
◇◆◇
「あ。お姉さん。また会いましたね……え。どうか、したんですか?」
涙を堪えきれずに、ハンカチで目を押さえていた私が視線を上げれば、そこに居たのは、傘を差し制服姿の七瀬くんだった。
彼は心配そうに、顔をグチャクチャにして泣いてしまった私を顔を覗き込んでいた。
仕事中は耐えたけど、バス停で待っている時間は、気が抜けてしまった。
あ。また……また、彼と会えたんだ。あの時も、過去だとしても、好きな人に会えて……嬉しかった。
今ではもう、彼は何処に居るかもわからなくて、二度と会えない人だとしても。
「なっ……っ君……あ。雨の日に良く会うね」
私が涙目で笑うと、七瀬くんは眉を寄せた。
なんだか、ひどい顔をしていたのかもしれない。そして、私はそれを嫌だと思った。
不思議なものだ。過去の好きな人だけど、七瀬くんの前では少しでも良く見られたい思いがあって。
私はまだ七瀬くんのことを、好きな人から普通の人に戻せていない。
会えなくなって……もう、何年も経っているのに。
「お姉さん。どうしたんですか? 良かったら、言ってください。話すだけでも、きっと楽になると思いますし……」
七瀬くんって、本当に優しい……今更だけど、告白しておけば良かった。こんなにも将来有望な異性、私の人生の中で一番だと思う。
「元婚約者の彼が……女性と腕を組んで歩いているところを、偶然見かけてしまったの。私も仕事の客先で、いつもなら通らない沿線の駅で……」
本来の生活をしていれば、決して見ることもなかった。先輩の仕事のフォローで違う駅に行った。これは、稀な偶然だ。
本当に偶然、元婚約者の彼を見かけてしまった。
けれど、それは……答え合わせをするための、必然だったようにも、今では思える。
「……え? もしかして、事故に遭った女性が、意識を取り戻したとか?」
……そうだったら、どんなにか良かったか。
「ううん。違うの。なんだか、様子がおかしいと胸騒ぎがして……彼に連絡を取ったの」
「そうですよね。聞かないと……始まらないですから」
「電話をかけて、訳を聞こうとした。けど、もう良いかって、うんざりして言われたの。親に言われてお見合いをしたけど、私のことを、ずっとつまらないと思っていたんだって、お前なんか、どう考えても女に見えないって……婚約解消したのは、違う女性上手く行ったから、私はもう要らなくなったから……面倒だし良い話の嘘をついて、婚約解消したんだって……これ以外にもいっぱい言われた……酷いこと……たくさん」
「お姉さん……」
七瀬くんは泣き崩れた私の背中を、大きな手でゆっくりさすってくれた。
あ。この七瀬くん私のこと、触れるんだ……なんだか、そのことが私にはとても意外だった。
どう考えても、過去と未来の私たちなのに……不思議。
「あ。お姉さん。また会いましたね……え。どうか、したんですか?」
涙を堪えきれずに、ハンカチで目を押さえていた私が視線を上げれば、そこに居たのは、傘を差し制服姿の七瀬くんだった。
彼は心配そうに、顔をグチャクチャにして泣いてしまった私を顔を覗き込んでいた。
仕事中は耐えたけど、バス停で待っている時間は、気が抜けてしまった。
あ。また……また、彼と会えたんだ。あの時も、過去だとしても、好きな人に会えて……嬉しかった。
今ではもう、彼は何処に居るかもわからなくて、二度と会えない人だとしても。
「なっ……っ君……あ。雨の日に良く会うね」
私が涙目で笑うと、七瀬くんは眉を寄せた。
なんだか、ひどい顔をしていたのかもしれない。そして、私はそれを嫌だと思った。
不思議なものだ。過去の好きな人だけど、七瀬くんの前では少しでも良く見られたい思いがあって。
私はまだ七瀬くんのことを、好きな人から普通の人に戻せていない。
会えなくなって……もう、何年も経っているのに。
「お姉さん。どうしたんですか? 良かったら、言ってください。話すだけでも、きっと楽になると思いますし……」
七瀬くんって、本当に優しい……今更だけど、告白しておけば良かった。こんなにも将来有望な異性、私の人生の中で一番だと思う。
「元婚約者の彼が……女性と腕を組んで歩いているところを、偶然見かけてしまったの。私も仕事の客先で、いつもなら通らない沿線の駅で……」
本来の生活をしていれば、決して見ることもなかった。先輩の仕事のフォローで違う駅に行った。これは、稀な偶然だ。
本当に偶然、元婚約者の彼を見かけてしまった。
けれど、それは……答え合わせをするための、必然だったようにも、今では思える。
「……え? もしかして、事故に遭った女性が、意識を取り戻したとか?」
……そうだったら、どんなにか良かったか。
「ううん。違うの。なんだか、様子がおかしいと胸騒ぎがして……彼に連絡を取ったの」
「そうですよね。聞かないと……始まらないですから」
「電話をかけて、訳を聞こうとした。けど、もう良いかって、うんざりして言われたの。親に言われてお見合いをしたけど、私のことを、ずっとつまらないと思っていたんだって、お前なんか、どう考えても女に見えないって……婚約解消したのは、違う女性上手く行ったから、私はもう要らなくなったから……面倒だし良い話の嘘をついて、婚約解消したんだって……これ以外にもいっぱい言われた……酷いこと……たくさん」
「お姉さん……」
七瀬くんは泣き崩れた私の背中を、大きな手でゆっくりさすってくれた。
あ。この七瀬くん私のこと、触れるんだ……なんだか、そのことが私にはとても意外だった。
どう考えても、過去と未来の私たちなのに……不思議。
64
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
あの夜、あなたがくれた大切な宝物~御曹司はどうしようもないくらい愛おしく狂おしく愛を囁く~【after story】
けいこ
恋愛
あの夜、あなたがくれた大切な宝物~御曹司はどうしようもないくらい愛おしく狂おしく愛を囁く~
のafter storyです。
よろしくお願い致しますm(_ _)m
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
【完結】25年の人生に悔いがあるとしたら
緋水晶
恋愛
最長でも25歳までしか生きられないと言われた女性が20歳になって気づいたやり残したこと、それは…。
今回も猫戸針子様に表紙の文字入れのご協力をいただきました!
是非猫戸様の作品も応援よろしくお願いいたします(*ˊᗜˋ)
※イラスト部分はゲームアプリにて作成しております
もう一つの参加作品「私、一目惚れされるの死ぬほど嫌いなんです」もよろしくお願いします(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)”
記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛
三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。
「……ここは?」
か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。
顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。
私は一体、誰なのだろう?
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる