私たちの関係に、名前はまだない。

待鳥園子

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05 真実

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◇◆◇


「あ。お姉さん。また会いましたね……え。どうか、したんですか?」

 涙を堪えきれずに、ハンカチで目を押さえていた私が視線を上げれば、そこに居たのは、傘を差し制服姿の七瀬くんだった。

 彼は心配そうに、顔をグチャクチャにして泣いてしまった私を顔を覗き込んでいた。

 仕事中は耐えたけど、バス停で待っている時間は、気が抜けてしまった。

 あ。また……また、彼と会えたんだ。あの時も、過去だとしても、好きな人に会えて……嬉しかった。

 今ではもう、彼は何処に居るかもわからなくて、二度と会えない人だとしても。

「なっ……っ君……あ。雨の日に良く会うね」

 私が涙目で笑うと、七瀬くんは眉を寄せた。

 なんだか、ひどい顔をしていたのかもしれない。そして、私はそれを嫌だと思った。

 不思議なものだ。過去の好きな人だけど、七瀬くんの前では少しでも良く見られたい思いがあって。

 私はまだ七瀬くんのことを、好きな人から普通の人に戻せていない。

 会えなくなって……もう、何年も経っているのに。

「お姉さん。どうしたんですか? 良かったら、言ってください。話すだけでも、きっと楽になると思いますし……」

 七瀬くんって、本当に優しい……今更だけど、告白しておけば良かった。こんなにも将来有望な異性、私の人生の中で一番だと思う。

「元婚約者の彼が……女性と腕を組んで歩いているところを、偶然見かけてしまったの。私も仕事の客先で、いつもなら通らない沿線の駅で……」

 本来の生活をしていれば、決して見ることもなかった。先輩の仕事のフォローで違う駅に行った。これは、稀な偶然だ。

 本当に偶然、元婚約者の彼を見かけてしまった。

 けれど、それは……答え合わせをするための、必然だったようにも、今では思える。

「……え? もしかして、事故に遭った女性が、意識を取り戻したとか?」

 ……そうだったら、どんなにか良かったか。

「ううん。違うの。なんだか、様子がおかしいと胸騒ぎがして……彼に連絡を取ったの」

「そうですよね。聞かないと……始まらないですから」

「電話をかけて、訳を聞こうとした。けど、もう良いかって、うんざりして言われたの。親に言われてお見合いをしたけど、私のことを、ずっとつまらないと思っていたんだって、お前なんか、どう考えても女に見えないって……婚約解消したのは、違う女性上手く行ったから、私はもう要らなくなったから……面倒だし良い話の嘘をついて、婚約解消したんだって……これ以外にもいっぱい言われた……酷いこと……たくさん」

「お姉さん……」

 七瀬くんは泣き崩れた私の背中を、大きな手でゆっくりさすってくれた。

 あ。この七瀬くん私のこと、触れるんだ……なんだか、そのことが私にはとても意外だった。

 どう考えても、過去と未来の私たちなのに……不思議。
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