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59 改心①

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「ショーン……良く私の前に、顔が出せたわね。自分が私に何をしたか、覚えているの?」

 いきなり現れた男を見て、私は自分の言葉の単語ひとつひとつを、噛み締めるようにして言った。

 確かに私は以前、目の前に居るこの男、ショーンのことが好きだった。

 それなのに、公衆の面前でひどい振られ方をして、誤魔化したくて感情を裏返し、好きではない傷ついてもいない大嫌いだったと、何度も何度も数え切れないくらいに自分に言い聞かせてきた。

 あの頃は、好きだったはず……そう、今は確実に異性として好きではないけど。

 ショーンは黒の巻き髪に、意志の強そうな同色の瞳。少しだけ生意気そうな顔をした青年だ。

 背は高く以前の体型はひょろりとしていたけれど、騎士になったという話の通り、今は鍛えられた身体付きになり、貴族らしい服を纏っていた。

「レニエラ。悪かった。あの時のことは、俺は本当に後悔しているんだ」

 意気揚々と私へ婚約破棄を告げたあの時の姿なんて、今では想像もできないくらいにしおらしく反省の弁を述べたショーンに、まるで予想外だった反応をされた私は、あらと首を傾げた。

 ……どうしたのかしら。やけに大人しいわ。ここで私の言葉の十倍くらいの分量で、言い返されると思っていたのに。

 一年間に王都から離れて辺境で騎士として生活をしていて、何か思うところでもあったのかしらね。

 今思うとショーンは、周囲からとても甘やかされていたわ。両親からも婚約者の私からも。

「では、どうして私と未だに婚約継続しているなんて、両親に言い出したの? あまりにも、有り得なさすぎるわ。それに、お金で済むのなら私の夫が支払いたいと言っているの。私だって、もう貴方とのことを大事にはしたくないわ」

 あのジョサイアだって、オフィーリア様のことで、好奇の目に晒されるのは懲り懲りだと言っていた。

 私は大きくため息をつきつつ、何を思っているのか顔を顰めているショーンへ言った。

「レニエラが、モーベット侯爵と結婚していると聞いて、激しく動揺して……なんとか、抗議したいと考えて、あれは我慢が出来なかった。すまなかった。悪かったと今では思っているし、ドラジェ伯爵と夫人にも謝罪もするつもりだ」

「……私はもう既に、モーベット侯爵夫人なのよ。過去に婚約していたことがあったからと、貴方になんて構っている時間はないの。婚約は破棄が出来るけど、私たちの結婚は成立済で破棄も解消も出来ないんだから……悪いけど、もしお金で済むのなら、金額を言って欲しいわ」

「いいや……お金がいらない。どうかしていたんだ。わかってるよ……本当に、悪かった。とても反省しているんだ。レニエラ」

 ショーンは以前の偉そうな態度なんて、まるでなかったことみたいに、何度も謝罪の言葉を口にした。

 ……あら?

 何か罵り言葉の前振りかと思っていたんだけど、これは、本当に反省しているみたいね。

 さっきまでの私は正直に言ってしまうと、ここで大声で罵り合いでも始めるつもりなのかと思っていた。彼の態度と言葉に肩透かしを食らったようで、拍子抜けした。
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