重いと言われても、止められないこの想い。~素敵過ぎる黒獅子騎士団長様への言い尽くせぬ愛~

待鳥園子

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04 守ってあげたい①

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 仏頂面しつつもちゃんと受け答えしてくれるデューク相手にひとしきり楽しく喋って満足してから、そろそろ帰る頃合いを見計らった私は、退出の挨拶をしてから彼の執務室を出た。

 私付きの侍女であるエボニーとアイボリーの二人も、歩く私の後に続く。

 私のような王族の姫が一人になれる時間など、産まれてからこれまでに、自らに与えられた宮以外ではほとんどないと言って良い。

 敵対している国からの暗殺や誘拐の危険。そして、自分では身を守る術を持たぬ姫であれば、より周囲は気を使ってしまうもの。

 侍女や召使い、護衛の騎士。一人になれるはずの入浴時だって、何かしらの理由を付けて、常に誰かが傍近くに居る。

——-本当に、嫌になってしまうくらいに。

 足音高く歩き廊下を曲がり、城へ帰る渡り廊下に出た私は、苦虫を噛み潰したような表情をした初老の男性に出くわした。

 騎士団長のデュークの執務室のある棟は、軍務大臣である彼が管轄しているから、この場に居たとしても何らおかしくはない。

 もしかしたら今朝は、朝の王族への謁見が早く終わったのかもしれない。

 確か……今日はお父様である陛下が珍しく城を出て視察に向かわれるという予定があったはずだ。

 だから、いつもより早めに重臣を集めた謁見を切り上げたという可能性は高そうだわ。

 お互いに立場ある私たちは、ここで相手を無視してしまう訳にはいかない……どんなに相手が、気に入らなかったとしてもね。

 挨拶と少々の嫌味の応酬なんてし慣れていて、なんとも思わないわよ。

「あら! ヘンドリック大臣。おはようございます。爽やかな、良い朝ですね」

 にっこりと微笑んだ私に、髪がそろそろ寂しくなりそうなヘンドリック大臣は殊更に恭しく礼をした。

「これはこれは。このような場所で高貴な姫君とお会いするとは、思いもよらず。おはようございます。アリエル様……また、お気に入りのところへと、遊びに行かれていたのですか?」

 顰めっ面の彼の口から発せられた言葉は、若き騎士団長デュークへとあからさまに懸想していることを隠さない私への、とてもわかりやすい嫌味ではある。

 確かにヘンドリック大臣の言葉の通りだったので、手に持っていた扇を開いた私は大きく頷いて肯定すると口元を隠して微笑んだ。

「ええ。こうして毎日でも自分が赴いて会いたいほどに、私はナッシュ団長が気に入っているもので……これは本当に単なる偶然ですがヘンドリック大臣にも、こうしてお会いすることが出来たので。私も、とっても光栄に思いますわ」

 要するに『貴方にはデュークに会いにここに来たついでに会っただけなので、別に会いたかった訳でもない』と、私は言った。

 笑顔の私の嫌味を聞いてヘンドリック大臣は、より不機嫌そうに顔を歪めた。

「……姫も、そろそろご自身の身分と立場を、弁えてください。奴は、庶民出身です。態度も大きくて言葉遣いも酷い。目上の者に対する礼儀も何もなっていない。この国でも最上位に高貴な姫様には、まったく相応しくありません」

「あら! どういうことかしら? 私はナッシュ団長のことなら、きっと上司の貴方よりも詳しく良く知っていてよ。もしかして、私がそれを知らないままに、彼をただ気に入っているとでも、思っていたのかしら?」

 あくまで悪気のない無邪気な様子でそう聞けば、ヘンドリック大臣は大きくため息をついた。

「いいえ。これは、決して自分の身内を薦める訳ではありませんが……出来れば我が息子のような、間違いのなく姫に合う伴侶を最終的にはお選びいただけますように。一臣下として、切に願っております」

「ヘンドリック公爵令息のサミュエル様は、この国の社交界でも人気でとても有名ですもの。もちろん、私も知っているわ。本当に素敵な息子さんですね。ヘンドリック大臣の奥様も、とても美しい方ですものね」

 デュークと馴れ合うのはよせと言ったので『自慢の息子さんは、母似で良かったですね』と、やり返した私に彼はギリっと奥歯を噛み締めた。

 ヘンドリック軍務大臣の息子は、うら若い令嬢たちから高い人気を誇る貴公子で、身分も釣り合い年齢の近い私の降嫁先候補の筆頭と噂されていた。

 彼は私に将来的に結ばれる望みの低いデュークになどにうつつを抜かさずに、さっさと自分の息子に心を決めて早く結婚しろと言いたいのだ。

ーーーーーーーー本当に。私本人にしてみれば、とてもとっても余計なお世話だけど。

「……それでは、私はこれで失礼します。急ぎの仕事がありますので」

「ええ。ご多忙なのに執務室に向かわれているところ、邪魔して悪かったわ。どうぞ、今日もお仕事頑張ってくださいね」

 ヘンドリック大臣は黙ったままで王家への忠誠を誓う礼を取り、深いお辞儀をしてから去って行った。

 背を向けて歩くヘンドリック大臣も良く理解はしていることだけど、私の後ろに居る双子の侍女は、すぐに彼女たちの兄へとこの出来事を報告するはずだ。

 エボニーとアイボリーの兄であるギュンター・ヴォルデマールは、王太子ラインハルトお兄様に重用されている有能で若き宰相候補だ。

 ギュンターへ伝われば、私のお兄様ラインハルトには、すぐに伝わる。真っ直ぐな筒に入れた玉が転がり、すぐに逆側の出口にたどり着くように。

 だから、王族の私の行動へ対し、要らぬ口を出した軍務大臣にはラインハルトお兄様から何らかの注意があるだろう。

 これから起こることは、単純なそういった流れ。

 とっても素敵な黒獅子の獣人の騎士団長様は、王家でも甘やかされている末姫のお気に入り。

 だから、人を育ちや性格などで安易に判断し、優秀な部下を平等に扱うことの出来ない器の小さな上司は、デュークには決して手を出さないで欲しいの。

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