重いと言われても、止められないこの想い。~素敵過ぎる黒獅子騎士団長様への言い尽くせぬ愛~

待鳥園子

文字の大きさ
68 / 73

67婚約★①

しおりを挟む
 私の念願が叶い、デューク・ナッシュ伯爵と結婚することが決まった。

 私の夫となる人なので、現在は王が直轄地として管理している王都近くの広い領地をナッシュ伯爵領として与えられた。

 こういった直轄地は、罪を犯した貴族より返還されたものが多い。それは、二代前に王族を暗殺しようと企んだ一族の領地で、いつ誰に与えられるのだろうと思われていた土地だ。

 何故、叙爵されたばかりの彼が伯爵位だというと、王族の臣籍降嫁が許されている爵位が伯爵位以上なのだ。だから、それ以下の爵位では許されないので、私と結婚するからと与えられるものであれば、それは一番下で妥当な爵位なのだ。

 私の父から爵位を与えられたデュークは、王都にもタウンハウスも与えられ、休日はそこでついでにあれもこれもと与えられた物を整理したりと忙しい日々を過ごしている。

 今だってタウンハウスの主寝室で、書類の山に埋もれているところに、私がやって来たのだ。

 執務室だってあるはずだけど、ここはお祖父様が造らせた別邸だそうなので、デュークは部屋が多すぎて回りきれていないのかも知れない。

 ここは私と一緒に住むようにと与えられているから、結婚式までに手配したりと、色々と準備することも多い。

 デュークがそれを一人でこなそうと言うのだから、無理がありすぎるのだ。

 そして、彼が城に住んでいた頃とは格段に会える機会が減って、私はとても不満だった。

「私。すぐにでも、貴方と結婚したいわ。デューク」

 私はそう思うのだけど、王侯貴族には公示期間と言うものが存在し、しかも私は王族だ。手本となる存在なので、短縮してしまう訳にもいかない。

「……とは、言ってもっすよ。俺も貴族位貰ったばかりで、領地経営とかにも慣れなきゃいけないし……邸で雇う人だって、集めなきゃいけない。正直言うと、いっぱいいっぱいっす。一年あったって足りるかどうか」

  彼の部屋に入るなりそう言った私に、見るからに事務作業が苦手そうなデュークは、ため息をついて言った。

 これは騎士団の業務でもないので、頼りになるマティアスだってお尻を叩いてくれない。

 デュークが一人で片付けるしかないと思っているのだ。

 これまで庶民としてのんびりと過ごしてきたデュークはこうした貴族としての生活に、強い違和感を持っているのかも知れない。

 それも、仕方ないこと。私だって今から庶民として過ごせと言われれば、きっとそうなると思うもの。

「まあ、何のために私が居ると思ってるの。私はデュークを一人だけ働かせるつもりなんてないわ」

 前々から私はそのつもりだったと言うのに、デュークは忙しい忙しいとこれまで取り合ってくれず、手伝うと言う機会もなかった。

「どういうことっすか」

 デュークは眉を寄せて言った。また私が変なことを言い出したのかと、思っているのかも知れない。

 けれど、ユンカナン王国では共働きが多いし、女性が仕事を出来るなら歓迎される場合が多い……と教えてくれたのは、彼なのだ。

「私だって王族として十分な教育は受けているし、なんならどこかの王妃にだってなれるのよ」

「すみません……忘れてました」

 デュークはこちらへと立ち上がって近づいて来たので、私はベッドの上に座って彼を待った。

「デューク。ねえ。お願い。私と結婚して」

 彼に向けて両手を伸ばすと、デュークは苦笑をして私をそのまま押し倒した。

「頼もしいっすね。お姫様。良いっすよ。俺は獣人なので、番を決めたらやっぱりナシはもう無理ですけど。もし、考えを翻すなら……いや、それはダメです。もう……何もかも遅いですけどね」

 そして、微笑んだデュークは私と唇を合わせて、舌を絡めた。彼の舌は表面はざらざらしていて猫科独特のものらしいので、私は普通の口付けを知らずに死んでしまうと思う。

 口端をたらりと唾液が落ちて、見上げたら私を見ている黒い目と合った。

「……どうして、デュークはいつも余裕な態度なの」

 私はそう思った。本当に憎らしいくらいに、彼からは余裕しか感じない。

 そういうところが好きだと思うけど、こっちは恥ずかしいくらい余裕がないのに、なんだか不公平な気がするのだ。

「そう見えるだけだと……言ったでょう。今でもこんなに必死なのに、わかります?」

 デュークは私の手を取って、胸の左上へと当てた。どくどくと力強い心臓の速い鼓動。

「もしかして……緊張してる?」

「そうです。必死で隠していたんですけど、仕方ないっすね」

 私の胸もとへと唇を寄せると、デイドレスを締め付けるリボンの編み上げを解いた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する

雨香
恋愛
【完結済】美醜の感覚のズレた異世界に落ちたリリがスパダリイケメン達に溺愛されていく。 ヒーロー大好きな主人公と、どう受け止めていいかわからないヒーローのもだもだ話です。  「シェイド様、大好き!!」 「〜〜〜〜っっっ!!???」 逆ハーレム風の過保護な溺愛を楽しんで頂ければ。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

番探しにやって来た王子様に見初められました。逃げたらだめですか?

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はスミレ・デラウェア。伯爵令嬢だけど秘密がある。長閑なぶどう畑が広がる我がデラウェア領地で自警団に入っているのだ。騎士団に入れないのでコッソリと盗賊から領地を守ってます。 そんな領地に王都から番探しに王子がやって来るらしい。人が集まって来ると盗賊も来るから勘弁して欲しい。 お転婆令嬢が番から逃げ回るお話しです。 愛の花シリーズ第3弾です。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】

日下奈緒
恋愛
王家に仕える騎士の妹・リリアーナは、冷徹と噂される第3皇子アシュレイに密かに想いを寄せていた。戦の前夜、命を懸けた一戦を前に、彼のもとを訪ね純潔を捧げる。勝利の凱旋後も、皇子は毎夜彼女を呼び続け、やがてリリアーナは身籠る。正妃に拒まれていた皇子は離縁を決意し、すべてを捨ててリリアーナを正式な妃として迎える——これは、禁じられた愛が真実の絆へと変わる、激甘ロマンス。

処理中です...