ルンルン気分な悪役令嬢、パンをくわえた騎士と曲がり角でぶつかる。

待鳥園子

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03 曲がり角

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 卒業式で公然と婚約破棄するなんて、本来ならば許されることではない。

 あまりないことだけど、明確な契約違反である婚約者以外の婚前交渉があったとしても、双方ともにこれから先を考えて、穏便に済ませるために金銭のやりとりで済ませてしまうくらいなのである。

 婚約者に近付く女性に少々嫌がらせしたところで『え。普通の反応よね?』と、愛し合う二人以外は思うのだから。

 だから、私はお互いの両親を呼び出した。

 デニス殿下の両親、両陛下は息子が聖女を王妃にと考えていることを聞いて、信じられないご様子だったけれど、私の両親は証拠の品や公平な第三者である教師たちの証言を聞き非常に怒っていた。

 今頃、貴族学校の卒業式パーティで婚約破棄を宣言した詳細の聞き取りがなされているはず。

 けれど、私はデニス殿下はエリカ様と結婚されれば良いと思っていた。だって、デニス王子から婚約破棄されて、私は心よく受け入れた。

 それを、今から覆されても。

「……あんな、クズ男。聖女様に熨斗を付けてくれてやるところだけど、今夜の卒業式までほんっとうに私は我慢したわ。少々の仕返しはさせてもらって、当然よね」

 正直に言えば、あまりにも意見を聞いてもらえずに、心折れかけた日もあった。悪役令嬢が不登校になるところだったのよ。今日の日のために耐えたけれど。

 そんなこんなあり、三年間通った貴族学校も、いよいよ今夜で終わり。

 明日の朝には寮からも出て行けるし、既に荷造りだって済ませて準備済だ。

 婚約破棄を宣言されたと言っても、これはデニス王子の思い込みによる独断。

 何かしら法的根拠のあるものでもないし、悪事を理由にと言われても、既にデニス王子よりも立場が上の方々が私が無実であることを知っている。

 だから、『婚約破棄された貴族令嬢』と言われても、された私ではなく、したデニス殿下の噂で持ちきりになりそう。

 そんな人たちを横目に、私はスカーレット公爵邸へと帰るわ。だって、私は何も悪くないもの。

 ……ああ。今夜はとっても良い夢が、見られそうだわ。

 私はルンルン気分で鼻歌を歌いながら、女子寮への道を進んだ。

「っわ!」

「キャッ!」

 私は曲がり角を曲がろうとして、パンを口にくわえている背の高い男性をぶつかりそうになった。
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