限界王子様に「構ってくれないと、女遊びするぞ!」と脅され、塩対応令嬢は「お好きにどうぞ」と悪気なくオーバーキルする。

待鳥園子

文字の大きさ
26 / 60

26 庭園

しおりを挟む
 王妃アニータ様からの手紙に書かれた、わかりやすいお達しはこうだ。

 『現状維持せよ』

 待って。この状態で、私はあと半年過ごせということ? 嘘でしょう。

 今年だけ特別に、デビュタントの時期が早まらないかしら……難しいわよね。それって私しか望んでないと思うし、難しいことはわかってはいるけど。

 このままギャレット様との仲を、深める訳にもいかない。だって、本当の婚約者でもないもの。

 まるで彼に騙すつもりで近付いたのに、被害者に惚れてしまった馬鹿な詐欺師みたいだわ。

 それに、すぐに逃げ出す訳にもいかない。私には、彼の婚約者である期間が定められている。短いようで、とても長い半年間になりそうだった。

 住んでいる宮にほど近い庭園にある長いベンチに座っていた私は、差出人の書かれていない手紙を封筒に仕舞うとため息をつき、季節の花々が花咲く公園へ目を向けた。

 このベンチが用意されているということは、ここを世話する庭師はきっとこの美しい風景を見て欲しいということだろう。確かに、綺麗だわ。

 抜けるような青空だったのに、いきなり視界に影が出来て、私は何気なく左上を見上げた。

「……ギャレット様? どうしたのですか?」

「いや、この前調子を崩していただろう? ローレンがここに居るのを見たから、日傘を持って来たんだ」

 確か闘技大会の時に……本当は金が肌に合わなくて気分を悪くしたんだけど、日差しが強すぎて体調を崩してしまったようだと言った。

 ギャレット様はあんな嘘を、律儀に覚えていてくれたんだ。

「ありがとう……ございます……」

「どういたしまして……その手紙は? 何か良い知らせでも?」

 ギャレット様は白いレースで出来た日傘を私へと差し掛け、私は慌てて手に持っていた手紙を小さく折りたたみ、隠しポケットへとそれを隠した。

「いいえ。親しい友人からですわ。ギャレット様は……今日は?」

 王太子は、特にご多忙なのでは? という意味で聞いたのだけど、どうやら彼はそうは思わなかったようだ。

「ああ。少しだけ時間が出来たので、ローレンに会いに来た。庭園に居ると聞いたから、以前に作らせていた日傘を持って来たんだ。どう? 気に入った?」

「そうなんですね……はい。軽くて可愛くて、ありがとうございます」

 私は彼から日傘を受け取り、ギャレット様は隣に腰掛けた。私のドレスの裾はパニエで広がり、それに触れまいとするなら、少し距離を必要とする。

 それなのに、ギャレット様は完全に触れているし、息が掛かりそうなほどほど近くに居る。

 私はそれとなく彼が居る逆方向に移動すれば、ギャレット様も同じようにそうする。

「あの……」

「何?」

 素知らぬ顔のギャレット様だって、私の言いたいことがわかっているはずだ。近過ぎるって思うから、こうして離れようとしているのに。

 移動しては彼が近付いて、何度かそれを繰り返して、いよいよ私はベンチの美しく装飾された手すりにまで辿り着いてしまった。

「……ギャレット様。もう。近過ぎます」

 無言の応酬に我慢が出来なくなって私がそう言うと、ギャレット様は肩を竦めた。

「そうだね。なんで、ローレンは俺から離れようとするの?」

「な、なんで? えっと……」

 離れるべき理由に、どう言うべきか困ってしまった。ギャレット様が好きで彼も好きで……ええ。そうよね。そんな二人に、離れる理由って、もしかしてないかも。

 王妃様……これって、私は……本当に、このまま現状維持は無理があり過ぎないですか……? 一時的に席を埋めておくためだけなのに、本当に良くわからない関係になってしまった。

 混乱して黙ったままの私の顎を掴み、ギャレット様は触れるだけの軽いキスをした。驚きに目を見開いた私を見て、ギャレット様は照れたように言った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

『階段対策会議(※恋愛)――年上騎士団長の健康管理が過剰です』

星乃和花
恋愛
【完結済:全9話】 経理兼給仕のクラリスは、騎士団で働くただの事務員――のはずだった。 なのに、年上で情緒に欠ける騎士団長グラントにある日突然こう言われる。 「君は転倒する可能性がある。――健康管理対象にする」 階段対策会議、動線の変更、手をつなぐのは転倒防止、ストール支給は防寒対策。 全部合理的、全部正しい。……正しいはずなのに! 「頬が赤い。必要だ」 「君を、大事にしたい」 真顔で“強い言葉”を投下してくる団長に、乙女心を隠すクラリスの心拍数は業務超過。 さらに副団長ローレンは胃薬片手に「恋は会議にするな!!」と絶叫中!? これは健康管理?それとも恋愛? ――答え合わせの前に、まず“階段(概念)“をご確認ください。

田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜

侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」  十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。  弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。  お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。  七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!  以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。  その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。  一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。

虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~

日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。 十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。 さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。 異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』

放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」 王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。 しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!? 「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!) 怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

処理中です...