30 / 60
30 敵対
しおりを挟む
私はそんな彼女と敵対したまま何食わぬ顔をして付き合えるとは、とても思えない。格が違いすぎるもの。
たとえ、メートランド侯爵家が潰れる寸前の窮状にあり、そうするしか選択肢がなかったとしても王太子を騙そうとした時点で、私はもう決められた道を突き進むしかないのだ。
「……そうか。まあ、良い。こうして過ごす時間を増やせば、君だって慣れていくはずだろう」
ギャレット様は割と楽天的な性格で、自分の思い通りにならないからと言って人を咎めることはない。自分勝手な傲慢さがあったとしても何をしても許されそうな立場なのに、彼はそうしない。
彼自身が元々持っている素質なのか、王太子という稀有な立場で生まれ育って来た人が受ける特有の教育の賜物ものなのか、私にはわからない。
彼のことは、これ以上知らない方が良いのだと思う。だって、知れば知るほど抜けられない沼に入っていく感覚がするから。
「そうですね」
私はなるべく感情を出さずに立ち上がると、手に持っていた本を本棚に戻そうとした。
この本が主役二人が決して結ばれぬ悲恋の物語だったから、先ほども変な夢を見てしまったのかもしれない。
とは言っても、大団円のハッピーエンドを楽しめる心境でもない。自分がそうならないことを知っているから。
本を元の棚に戻し終えると私の頭くらいの高さにはみ出ている一冊の本に気がつき、私はそれを棚に押し込もうとしたんだけど、何故かそこにあったはずなのに嵌まらない。
もしかしたら、それはそこにあるべき本ではないのかもしれない。今ここに居る私みたいに。
そう思って勝手に罪なき本に苛立ってしまった私は、それを力任せに引き抜こうとした。
その段の本がつられて一緒に棚から落ちて、しまったと思った。いかにも重そうな本で、別に怪我はしないだろうけど、当たったらとても痛そうだったから。
「っ……え……えっ? ギャレット様?」
痛みに耐えようと反射的に目を瞑って頭に手を当てた私は肩を引かれ体が反転して床に倒れ、彼がその身を持って落ちてくる本から庇ってくれたことに気がついた。
え。待って。ギャレット様、咄嗟の対応としては、身体能力が余りに高すぎない? 流石は、『雷の子』という二つ名のある人。
床に倒れていた私は感心して彼を見上げていたんだけど、何故か目に見えて狼狽して顔を赤くしていた。
「わっ……ごめんっ!」
ギャレット様はパッと手を上げて、まるで降参するかのような体勢になった。今、彼が謝るべき点が全くわからなかった私は、何故なのだろうと真剣に考えてしまった。
え。ギャレット様って、今謝るところあった?
……あ。さっき、胸に何かが当たっていた気がする。もしかして、庇った時に私の胸を触ってしまったのかもしれない。
ギャレット様が謝罪した理由を知り、私は大丈夫だと伝えるために微笑んで頷いた。
「庇ってくれて、ありがとうございます。あの、気にしないでください。ギャレット様が故意に触った訳ではないことは、私も理解しています」
たとえ、メートランド侯爵家が潰れる寸前の窮状にあり、そうするしか選択肢がなかったとしても王太子を騙そうとした時点で、私はもう決められた道を突き進むしかないのだ。
「……そうか。まあ、良い。こうして過ごす時間を増やせば、君だって慣れていくはずだろう」
ギャレット様は割と楽天的な性格で、自分の思い通りにならないからと言って人を咎めることはない。自分勝手な傲慢さがあったとしても何をしても許されそうな立場なのに、彼はそうしない。
彼自身が元々持っている素質なのか、王太子という稀有な立場で生まれ育って来た人が受ける特有の教育の賜物ものなのか、私にはわからない。
彼のことは、これ以上知らない方が良いのだと思う。だって、知れば知るほど抜けられない沼に入っていく感覚がするから。
「そうですね」
私はなるべく感情を出さずに立ち上がると、手に持っていた本を本棚に戻そうとした。
この本が主役二人が決して結ばれぬ悲恋の物語だったから、先ほども変な夢を見てしまったのかもしれない。
とは言っても、大団円のハッピーエンドを楽しめる心境でもない。自分がそうならないことを知っているから。
本を元の棚に戻し終えると私の頭くらいの高さにはみ出ている一冊の本に気がつき、私はそれを棚に押し込もうとしたんだけど、何故かそこにあったはずなのに嵌まらない。
もしかしたら、それはそこにあるべき本ではないのかもしれない。今ここに居る私みたいに。
そう思って勝手に罪なき本に苛立ってしまった私は、それを力任せに引き抜こうとした。
その段の本がつられて一緒に棚から落ちて、しまったと思った。いかにも重そうな本で、別に怪我はしないだろうけど、当たったらとても痛そうだったから。
「っ……え……えっ? ギャレット様?」
痛みに耐えようと反射的に目を瞑って頭に手を当てた私は肩を引かれ体が反転して床に倒れ、彼がその身を持って落ちてくる本から庇ってくれたことに気がついた。
え。待って。ギャレット様、咄嗟の対応としては、身体能力が余りに高すぎない? 流石は、『雷の子』という二つ名のある人。
床に倒れていた私は感心して彼を見上げていたんだけど、何故か目に見えて狼狽して顔を赤くしていた。
「わっ……ごめんっ!」
ギャレット様はパッと手を上げて、まるで降参するかのような体勢になった。今、彼が謝るべき点が全くわからなかった私は、何故なのだろうと真剣に考えてしまった。
え。ギャレット様って、今謝るところあった?
……あ。さっき、胸に何かが当たっていた気がする。もしかして、庇った時に私の胸を触ってしまったのかもしれない。
ギャレット様が謝罪した理由を知り、私は大丈夫だと伝えるために微笑んで頷いた。
「庇ってくれて、ありがとうございます。あの、気にしないでください。ギャレット様が故意に触った訳ではないことは、私も理解しています」
23
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜
伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。
ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。
健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。
事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。
気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。
そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。
やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。
【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?
雨宮羽那
恋愛
元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。
◇◇◇◇
名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。
自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。
運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!
なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!?
◇◇◇◇
お気に入り登録、エールありがとうございます♡
※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。
※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~
星森
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。
王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。
そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。
これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。
⚠️本作はAIとの共同製作です。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――
ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。
魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。
ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。
誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。
【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される
中山紡希
恋愛
父の再婚後、絶世の美女と名高きアイリーンは意地悪な継母と義妹に虐げられる日々を送っていた。
実は、彼女の目元にはある事件をキッカケに痛々しい傷ができてしまった。
それ以来「傷モノ」として扱われ、屋敷に軟禁されて過ごしてきた。
ある日、ひょんなことから仮面舞踏会に参加することに。
目元の傷を隠して参加するアイリーンだが、義妹のソニアによって仮面が剥がされてしまう。
すると、なぜか冷徹辺境伯と呼ばれているエドガーが跪まずき、アイリーンに「結婚してください」と求婚する。
抜群の容姿の良さで社交界で人気のあるエドガーだが、実はある重要な秘密を抱えていて……?
傷モノになったアイリーンが冷徹辺境伯のエドガーに
たっぷり愛され甘やかされるお話。
このお話は書き終えていますので、最後までお楽しみ頂けます。
修正をしながら順次更新していきます。
また、この作品は全年齢ですが、私の他の作品はRシーンありのものがあります。
もし御覧頂けた際にはご注意ください。
※注意※他サイトにも別名義で投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる