限界王子様に「構ってくれないと、女遊びするぞ!」と脅され、塩対応令嬢は「お好きにどうぞ」と悪気なくオーバーキルする。

待鳥園子

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37 祈った

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「さてね。目のくらむような大金を持っていると、近づいてくる誰も彼も金目当てに見える。俺にはもう簡単に見えなくなってしまったものを、どうかこの目に見せてくれよ。安全に幸せになれる道を捨ててでも、愛する人を守ろうとする女は……この世に、存在しているのだと」

 一代にして若い大富豪となったイーサン・ベッドフォートの名前は今や鳴り響き、彼と結婚したいと望む女性は世界中に多いだろう。

 けれど、彼はその中から自分のことを愛している人物がこの人だと判断するには、難しいはずだ。彼は言った。お金があれば、何でも買える。人の心も爵位だって、貴族の血を持つ妻でさえも。

 では、自分の利益のために嘘をつくことの出来る人間相手に、真実の愛を見つける方法とは?

 ……頭の切れるイーサンにもわからないのに、私になんてわかるはずもない。

 私がギャレット様に向ける感情は、真実の愛なのだろうか。自分にも、良くわからない。

 今感じているのは、激しい焦燥。彼の命を救えるのなら、今自分の持つものすべてを投げ出してでも、救いたいと心が叫んでいる。

「……イーサン。ありがとう。今まで気がつかなかったけど、貴方って……なかなか良い男だったのね」

 私の言葉を聞いて、イーサンは眉を寄せて一瞬変な顔をしたけど、苦笑して言った。

「ああ。ローレンは自分では気がついてなかったかもしれないが、あの王子以外、もう視界に入れてなかった……ああ。俺は良い男だ。だから、そういう俺の隣に居る女は常に幸せな女でなければならない。他の男を想ってベッドで泣いている女なんて、こっちからお断りだね」

「……ねえ。もし上手くいかなかったら、クインと一緒に貴方の商会で雇ってよ。イーサン」

「は? さっき俺は、二度と顔を見せるなと言ったはずだ。ローレン」

 面白くない顔をしてイーサンはそう言ったけど、私は笑って言った。

「イーサンは嘘は上手いけど、本当はさみしがり屋なんでしょう。私と弟のクインが傍に居れば、騒がしくなるけど、さみしくなくなるわ」

「……生意気を言うようになりやがって。さっさと行け。俺みたいな良い男を逃したことを後悔してこい」

 ベッドに座っていたままの私は、促されて立ち上がって、イーサンと向かい合った。

「ありがとう。イーサン。感謝してる。忘れないわ……もし、私がギャレット様を救うことが出来たら、貴方の願い事をなんでもひとつだけ叶えると約束する。私の出来る範囲で、だけど」

「これだから、世間知らずのお嬢様は。なんでも叶えるなんて、これから絶対に口にするな。さっさと行け……俺に良い女を逃したと思わせてくれ」

「ありがとう! イーサン!」

 私が邸の中を走っているのを見て、使用人たちは驚いているようだ。泣いて引きこもっているはずの女が廊下を爆走していたら、それは驚くと思う。

 本当にごめんなさい。

 仕事の出来るイーサンは、馬車を玄関に付けてくれていた。先読みの出来る良い男。それは、確かにそうなのかも。

 私はそれに飛び乗って、何度か息をついて、胸の前で両手を握り祈った。

 ギャレット様。どうか、何事もなく無事で居て。
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