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38 襲撃
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仕事の出来るイーサンは私が行くべき場所を、御者へと既に指示を出してくれていたようだ。早足の馬は迷いなく、止まることはない。
ということは、私は彼に大富豪の妻になる未来を捨て、無謀な道を選ぶことを読まれていたことになる。未練がましい私があけすけに見られているとしたら、嫌だ。
イーサンはそういえば、前にも王妃も王には逆らえまいと言っていたような気がする。
私がギャレット様を好きになってしまったことも、共犯者の彼にはお見通しだったんだ。
ギャレット様が現在居るという離宮は、そう離れてはいなかった。
王族の急な遠出ならば、警備の問題もある。そうするのなら、選択肢は少なかったのかもしれない。
平民なら思いつけば、すぐ外国にまで旅行に行けてしまうのに、何でもその手にしている王太子の彼にとってはそれは気軽に出来るものではなかった。
未来の王となる王太子ギャレット様は、その手に持つ権力は人の人生を狂わせることも出来る大きなものだ。きっと、誰もに羨まれるだろう。
その代わり、彼は常に人目に晒され、いろんなものに雁字搦めに縛られ続ける。何が良いか悪いか、それはその人が選ぶことだけど。
ギャレット様は剣で身を立てて生きていく方が、自分に向いていると言っていた。
あの人は私にだけ、秘密だと教えてくれた。
望まぬ道を行くとしても、彼は周囲にそれを気がつかせなかったことになる。
離宮は馬車で、数時間掛かるだろう場所だ。この間に彼に何かあればと思うと、どうしようもないけど気が急いた。
馬車を降り慌てて飛び込んだ離宮の門番は、王太子を捨てた女として有名な私の顔を知っていたようだ。あからさまに嫌な表情になった後に、吐き捨てるようにして言った。
「ギャレット殿下に、何の用ですか。こんなに早く大富豪に捨てられて、王子に泣きつきにきたんですか?」
完全に馬鹿にして嘲るような言葉に、傷つかなかったと言われれば嘘になる。
そうなるだろうとは思っていたけど、私はイーサンの邸にずっと居て、国民たちが色々と噂している程度にしか聞いていなかった。
こうして、わかりやすい悪意を向けられ嫌われていることを知って、やはり傷ついた。一年ほど前から覚悟していたことだけど。
それより、早く命を狙われているというギャレット様に会いたかった。
「……いいえ。ですが、殿下にお伝えしたいことがあります。お願いします。急ぎ取り次いでください」
「殿下は……お会いにならないと思いますよ。貴女はご自分が国民の間でどう言われているのか、知っているんですか」
若い門番は眉を寄せて、とても不快そうだ。ええ。もちろん。それは、知っています。
自分から希望したくせに王太子妃の重圧に負けて、平民の大富豪の手を取った情けなくて弱くてだらしない、借金まで抱えていたという頭の弱い女。
別に良いの。
今の私は、ギャレット様が助かればそれで良い。
ということは、私は彼に大富豪の妻になる未来を捨て、無謀な道を選ぶことを読まれていたことになる。未練がましい私があけすけに見られているとしたら、嫌だ。
イーサンはそういえば、前にも王妃も王には逆らえまいと言っていたような気がする。
私がギャレット様を好きになってしまったことも、共犯者の彼にはお見通しだったんだ。
ギャレット様が現在居るという離宮は、そう離れてはいなかった。
王族の急な遠出ならば、警備の問題もある。そうするのなら、選択肢は少なかったのかもしれない。
平民なら思いつけば、すぐ外国にまで旅行に行けてしまうのに、何でもその手にしている王太子の彼にとってはそれは気軽に出来るものではなかった。
未来の王となる王太子ギャレット様は、その手に持つ権力は人の人生を狂わせることも出来る大きなものだ。きっと、誰もに羨まれるだろう。
その代わり、彼は常に人目に晒され、いろんなものに雁字搦めに縛られ続ける。何が良いか悪いか、それはその人が選ぶことだけど。
ギャレット様は剣で身を立てて生きていく方が、自分に向いていると言っていた。
あの人は私にだけ、秘密だと教えてくれた。
望まぬ道を行くとしても、彼は周囲にそれを気がつかせなかったことになる。
離宮は馬車で、数時間掛かるだろう場所だ。この間に彼に何かあればと思うと、どうしようもないけど気が急いた。
馬車を降り慌てて飛び込んだ離宮の門番は、王太子を捨てた女として有名な私の顔を知っていたようだ。あからさまに嫌な表情になった後に、吐き捨てるようにして言った。
「ギャレット殿下に、何の用ですか。こんなに早く大富豪に捨てられて、王子に泣きつきにきたんですか?」
完全に馬鹿にして嘲るような言葉に、傷つかなかったと言われれば嘘になる。
そうなるだろうとは思っていたけど、私はイーサンの邸にずっと居て、国民たちが色々と噂している程度にしか聞いていなかった。
こうして、わかりやすい悪意を向けられ嫌われていることを知って、やはり傷ついた。一年ほど前から覚悟していたことだけど。
それより、早く命を狙われているというギャレット様に会いたかった。
「……いいえ。ですが、殿下にお伝えしたいことがあります。お願いします。急ぎ取り次いでください」
「殿下は……お会いにならないと思いますよ。貴女はご自分が国民の間でどう言われているのか、知っているんですか」
若い門番は眉を寄せて、とても不快そうだ。ええ。もちろん。それは、知っています。
自分から希望したくせに王太子妃の重圧に負けて、平民の大富豪の手を取った情けなくて弱くてだらしない、借金まで抱えていたという頭の弱い女。
別に良いの。
今の私は、ギャレット様が助かればそれで良い。
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