限界王子様に「構ってくれないと、女遊びするぞ!」と脅され、塩対応令嬢は「お好きにどうぞ」と悪気なくオーバーキルする。

待鳥園子

文字の大きさ
38 / 60

38 襲撃

しおりを挟む
 仕事の出来るイーサンは私が行くべき場所を、御者へと既に指示を出してくれていたようだ。早足の馬は迷いなく、止まることはない。

 ということは、私は彼に大富豪の妻になる未来を捨て、無謀な道を選ぶことを読まれていたことになる。未練がましい私があけすけに見られているとしたら、嫌だ。

 イーサンはそういえば、前にも王妃も王には逆らえまいと言っていたような気がする。

 私がギャレット様を好きになってしまったことも、共犯者の彼にはお見通しだったんだ。

 ギャレット様が現在居るという離宮は、そう離れてはいなかった。

 王族の急な遠出ならば、警備の問題もある。そうするのなら、選択肢は少なかったのかもしれない。

 平民なら思いつけば、すぐ外国にまで旅行に行けてしまうのに、何でもその手にしている王太子の彼にとってはそれは気軽に出来るものではなかった。

 未来の王となる王太子ギャレット様は、その手に持つ権力は人の人生を狂わせることも出来る大きなものだ。きっと、誰もに羨まれるだろう。

 その代わり、彼は常に人目に晒され、いろんなものに雁字搦めに縛られ続ける。何が良いか悪いか、それはその人が選ぶことだけど。

 ギャレット様は剣で身を立てて生きていく方が、自分に向いていると言っていた。

 あの人は私にだけ、秘密だと教えてくれた。

 望まぬ道を行くとしても、彼は周囲にそれを気がつかせなかったことになる。

 離宮は馬車で、数時間掛かるだろう場所だ。この間に彼に何かあればと思うと、どうしようもないけど気が急いた。

 馬車を降り慌てて飛び込んだ離宮の門番は、王太子を捨てた女として有名な私の顔を知っていたようだ。あからさまに嫌な表情になった後に、吐き捨てるようにして言った。

「ギャレット殿下に、何の用ですか。こんなに早く大富豪に捨てられて、王子に泣きつきにきたんですか?」

 完全に馬鹿にして嘲るような言葉に、傷つかなかったと言われれば嘘になる。

 そうなるだろうとは思っていたけど、私はイーサンの邸にずっと居て、国民たちが色々と噂している程度にしか聞いていなかった。

 こうして、わかりやすい悪意を向けられ嫌われていることを知って、やはり傷ついた。一年ほど前から覚悟していたことだけど。

 それより、早く命を狙われているというギャレット様に会いたかった。

「……いいえ。ですが、殿下にお伝えしたいことがあります。お願いします。急ぎ取り次いでください」

「殿下は……お会いにならないと思いますよ。貴女はご自分が国民の間でどう言われているのか、知っているんですか」

 若い門番は眉を寄せて、とても不快そうだ。ええ。もちろん。それは、知っています。

 自分から希望したくせに王太子妃の重圧に負けて、平民の大富豪の手を取った情けなくて弱くてだらしない、借金まで抱えていたという頭の弱い女。

 別に良いの。

 今の私は、ギャレット様が助かればそれで良い。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

契約妻に「愛さない」と言い放った冷酷騎士、一分後に彼女の健気さが性癖に刺さって理性が崩壊した件

水月
恋愛
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件の旦那様視点短編となります。 「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。

白い結婚で結構ですわ。殿下より、私の自由のほうが大事ですので

鍛高譚
恋愛
「第二王子との婚約? でも殿下には平民の恋人がいるらしいんですけど? ――なら、私たち“白い結婚”で結構ですわ。お好きになさってくださいな、殿下」 自由気ままに読書とお茶を楽しむのがモットーの侯爵令嬢・ルージュ。 ある日、突然“第二王子リオネルとの政略結婚”を押しつけられてしまう。 ところが当の殿下は平民の恋人に夢中で、 「形式上の夫婦だから干渉しないでほしい」などと言い出す始末。 むしろ好都合とばかりに、ルージュは優雅な“独身気分”を満喫するはずが…… いつしか、リナという愛人と妙に仲良くなり、 彼女を巡る宮廷スキャンダルに巻き込まれ、 しまいには婚約が白紙になってしまって――!? けれどこれは、ルージュが本当の幸せを掴む始まりにすぎなかった。 自分を心から大切にしてくれる“新しい旦那様”候補が現れて、 さあ、思い切り自由に愛されましょう! ……そして、かの王子様の結末は“ざまぁ”なのか“自業自得”なのか? 自由気ままな侯爵令嬢が切り開く、 “白い結婚破談”からの痛快ざまぁ&本当の恋愛譚、はじまります。

【完結】冷遇され続けた私、悪魔公爵と結婚して社交界の花形になりました~妹と継母の陰謀は全てお見通しです~

深山きらら
恋愛
名門貴族フォンティーヌ家の長女エリアナは、継母と美しい義妹リリアーナに虐げられ、自分の価値を見失っていた。ある日、「悪魔公爵」と恐れられるアレクシス・ヴァルモントとの縁談が持ち込まれる。厄介者を押し付けたい家族の思惑により、エリアナは北の城へ嫁ぐことに。 灰色だった薔薇が、愛によって真紅に咲く物語。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

死にキャラに転生したけど、仲間たちに全力で守られて溺愛されています。

藤原遊
恋愛
「死ぬはずだった運命なんて、冒険者たちが全力で覆してくれる!」 街を守るために「死ぬ役目」を覚悟した私。 だけど、未来をやり直す彼らに溺愛されて、手放してくれません――!? 街を守り「死ぬ役目」に転生したスフィア。 彼女が覚悟を決めたその時――冒険者たちが全力で守り抜くと誓った! 未来を変えるため、スフィアを何度でも守る彼らの執着は止まらない!? 「君が笑っているだけでいい。それが、俺たちのすべてだ。」 運命に抗う冒険者たちが織り成す、異世界溺愛ファンタジー!

愛されないはずの契約花嫁は、なぜか今宵も溺愛されています!

香取鞠里
恋愛
マリアは子爵家の長女。 ある日、父親から 「すまないが、二人のどちらかにウインド公爵家に嫁いでもらう必要がある」 と告げられる。 伯爵家でありながら家は貧しく、父親が事業に失敗してしまった。 その借金返済をウインド公爵家に伯爵家の借金返済を肩代わりしてもらったことから、 伯爵家の姉妹のうちどちらかを公爵家の一人息子、ライアンの嫁にほしいと要求されたのだそうだ。 親に溺愛されるワガママな妹、デイジーが心底嫌がったことから、姉のマリアは必然的に自分が嫁ぐことに決まってしまう。 ライアンは、冷酷と噂されている。 さらには、借金返済の肩代わりをしてもらったことから決まった契約結婚だ。 決して愛されることはないと思っていたのに、なぜか溺愛されて──!? そして、ライアンのマリアへの待遇が羨ましくなった妹のデイジーがライアンに突如アプローチをはじめて──!?

処理中です...