限界王子様に「構ってくれないと、女遊びするぞ!」と脅され、塩対応令嬢は「お好きにどうぞ」と悪気なくオーバーキルする。

待鳥園子

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40 好きです

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 でも、こうして彼に会って良かった。私はどうしても……嫌われていたとしても、ギャレット様に会いたかった。

「ローレン。泣かないでくれ……おい。彼女を離せ。見ただろう。今、彼女が叫んでくれなければ、俺の命は危なかった」

 ギャレット様は泣いている私に近付き、何も言わずに自由になった私の手を取ると歩き出した。

 私はある程度、ここで彼に何かを言われることを覚悟はしていた。

 ギャレット様は素晴らしい男性だけど、王太子だからと言って、聖人でもなんでもない。

 数ヶ月、彼のすぐ近くに居た私が思うのは、苛立ったり傷つくことだってある普通の人だった。

 ギャレット様は離宮の人気のない場所まで移動すると、私の涙を指で拭って、長身をかがめて顔を近づけた。

「……ローレン。君を使って義母上が俺にしたことは、もうわかっている。あの人は俺が剣を振るしか能のない馬鹿に見えているのかもしれないが、君は俺のことを好きなのに……良くわからない理由で、ベッドフォートの元に行くと言ったから、これはさすがにおかしいと気がついた」

「えっ! ええ。すっ……好きです。そうなんです。好きです。私……演技ではなくて、本当に、ギャレット様が好きなんですっ」

「知っている」

 ギャレット様は躊躇なく私を抱きしめて、私はおそるおそる彼の背に手をまわし、大きな胸に顔を埋めた。

 ああ。私は帰って来たんだと思った。彼の元へ。

「ギャレット様。ごめんなさい。傷つけて、ごめんなさい」

「……謝ることはない。君が苦しんでいることに気がつかず、本当に悪かった。ここ最近君のことばかり考えて、そこまで至らなかった馬鹿な男だ。許してくれ。ローレンが俺から離れて行って、冷静によくよく考えた。君の言動や行動には、ローレンが俺に伝えたかっただろうこと、いくつものヒントが隠されていた」

「そんな! ギャレット様は、悪くないです。私が……貴方を信じて、すべてを話せば良かった。けど、怖かったんです……嫌われてしまうのが、きっと怖くて」

「いいや、ローレン。どうか、自分を責めないでくれ……今回のことで、良くわかった。義母上が良からぬことを企てているのは、間違いないようだ。今、俺が城を離れているのも、向こうを油断させるためだ。父も知っている。護衛騎士のガレスが調べている。わかりやすい襲撃は予想外だったが、ここで俺を殺し王太子がアイゼアになれば、何もかも有耶無耶にするつもりだったのかもしれない」

「そ、そうだったん……ですね」

「すべて片付けてから、君を迎えに行こうと思っていた」

 ギャレット様が、アニータ様の企みに既に気がついていたと聞いて、私は顔を上げた。

「……え?」

「大丈夫だ。可愛いローレン。何もかも、上手くいくよ。ああ……だが、君はちゃんと俺の期間限定の婚約者を演じる依頼を遂行したんだから、あの女から報酬は貰っておくが良い。クインのことも、気にしなくて良い。俺の義理の弟になるというのに、この先あの子に不利益になるようなことはならない」

「え……え? え? あのっ……その、どういう……?」

 一体、何を言い出すのかと混乱した私に、ギャレット様は微笑んで言った。

「王族と、取引しないか。ローレン。どうやら君はこれが二回目で慣れているようだけど。もし君が俺と結婚してくれるなら、メートランド侯爵家は安泰だ。どうやら君は家族想いの優しい女性だから、それで釣るのが一番良いと俺は判断した」

「で、でも! ギャレット様……私、国民に嫌われてます」

 悲しい現実だけど事実なので、仕方ない。

「王になる王太子の俺を、捨てたからだ。すぐに拾えば、機嫌も直るだろ……なあ、ローレン。キスをしても良いか?」

 真面目な顔をして聞いた彼に、私は自分が以前言ったことを思い出して笑ってしまった。

「それは、私が……ごめんなさい。もうそれは、聞かなくて良いですよ。ギャレット様が顔を近づけて嫌って言わなかったら、良いよってことっ」

 その先の言葉を、私の唇は紡ぐことは叶わなかった。

 これまでの会話を聞けば、誰もがお察しの、とてもわかりやすい理由によって。

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