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 ギャレット様は私が改めて気がつくまでもなく、素敵な人だった。

 久しぶりに時間が空いたからと遠出をする予定で私が迎えに行くことになっていたんだけど、城内で話し合っている様子の彼を見た。彼は何人かの臣下に囲まれ、和気藹々と楽しげに話しているようだ。

 こういう開けた場所で話しているくらいだから、別に重大な何かを会議している訳でもないだろうけど、やはり自分の婚約者が臣下から慕われているのをこうして見掛けられると嬉しくなってしまうものだ。

 父王イエルク様は仕事には厳格で厳しいらしいけれど、私事は温厚でお茶目なところがある人だった。ギャレット様もああして見えて、仕事は仕事として切り分ける人なのかもしれない。

 彼の護衛騎士、体の大きなガレスが通路で立ち止まっている私を見て、談笑していたギャレット様に耳打ちしたようだ。 

「……ローレン! すまない。もうそんな時間だったか」

「お邪魔でしたか? ギャレット様。もし……お忙しいのなら、出直して来ます」

「いいや、仕事の話は既に終わり、少し世間話をしていただけなんだ。悪い。それでは俺は、可愛い婚約者とこれから出かけてくるよ」

 ギャレット様の周囲に集っていた面々は、次々に私に挨拶をして去って行った。

 ここで私が安心したのは、いかにもギャレット様の側近の彼らは私を悪く思っていなさそうだと思えたこと……ギャレット様本人の前で、そういう態度が出せなかった臆病者ばかりなのかもしれないけど。

「……ローレン。ローレンが恐れているより、君の状況は悪いものではないと思う」

 私の思っていたことを見透かしたように、彼はそう言った。

「どっ……どうして、そう思うんですか……私……誰かに指示されたのだとしても、ギャレット様のことを裏切ったことは、変わりません」

 どうしても欲しいと望んでいた報酬を約束されていたとしても、彼という人を裏切ったことに変わりはない。それは、私自身が一番良くわかっていた。

 誰かに何故そんなことをしたんだと責められたとしても、何も言えないだろう。
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