花は風と共に散る【美醜逆転】

本編

優先順位

私は頬をぷくりと膨らませた。今日はイアンとのデートだ。楽しみにしてたはずだし、準備も怠りなかった。
イアンはそんな顔を見て戸惑い気味だ。彼が悪いわけじゃない。同じ顔をした人のしたことを思い出しちゃっただけ。

「え、ガードルート、どうかした？」
「なんでもない」
「なんでもない顔じゃなかったよ。…言って？」
長身のイアンはすこし屈みながら私の顔を覗き込んだ。不安なのか深い青い目が揺れている。私はふうっと息をついて彼の頬に手を置いた。

「ごめん。この前フィースがね。…また意地悪したから思い出しちゃって」
ほ、と息をついてイアンは抱きしめてきた。
「フィースは昔から好きな子いじめるんだよ」
「それ本人もよく言うけど、免罪符にはならないからね？」
また頬を膨らませると指で押されて空気を出されてしまう。ぷうっと間抜けな音が出て恥ずかしくなった。

「怒らないで、ガードルート。それで同じ顔した僕に当たっているの？」
「そういう訳じゃない…けどどうしても思い出しちゃったの。ごめん。イアン。イアンは何にも悪くないんだよ」
広い背中に手を回す。優しく私の背中を撫でるとイアンは殊更優しく耳に囁いた。
「良いよ。僕はフィースとガードルートを共有しているの、おかしいと思われるかもしれないけど、嬉しいんだ」
「…どういうこと？」
「生まれてからずっと一緒に居るフィースと同じ女の子を好きになった…選ばれる訳がないと思っていたけど、ガードルートは僕達を選んでくれたよね？」
「うん」
私は頷いた。けど、選んでくれたっていうのは語弊があるかも。はじめて爽やか美形な双子を見た瞬間恋に落ちたのはきっと私だ。

「…ガードルートは結局は僕達両方を選んでくれたんだけど、どちらかだったとしたらきっとどちらも死にたいくらい悩んでいたはずだ。だから、こうして2人とも救い上げてくれた君に感謝しかないよ」
「イアンは大袈裟だよ。私は2人を救い上げたなんて思ってないよ。…逆に私なんかを好きになってくれてありがとう。本当に私で良いのか、わからないけど」
彼は私をぎゅっと抱きしめると柔らかく耳を噛みながら言った。
「私なんか、なんか絶対言わないで。僕の恋人を悪く言ったら許さない」
ふふっと私は笑って言った。
「ありがとう。イアン大好きよ」
「僕もだ。ガードルート、血を分けたフィースより大事な人。愛してる。この想いは一生消えないよ」
「イアンはほんと大袈裟だなあ」
優しい恋人の言葉に微笑みながら私はふうっと息をついた。