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第一章
第二話
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第二話「焚書の午後」
未明書房の扉が、カランと鳴った。
「また、お越しいただけましたね」
店主の声は、前と変わらず穏やかだった。だが彼女の表情には、どこか緊張が漂っていた。
「前回……あの本を読んでから、夢を見るようになったんです。あの日のこと……火の匂いがするのに、何が燃えたのか思い出せない」
店主は何も言わず、棚の奥に目を向けた。すると、一冊の文庫が、するりと音もなく抜け落ちた。
背表紙には、灰のような模様が滲んでいる。
「焚書録と、呼ばれていたものの一部かもしれません。読みますか?」
彼女はうなずいた。その瞬間、書店の空気がわずかに乾いた。
ページを開くと、見開きに淡く焼け跡があった。そこには、手書きの走り書きが残っていた。
『読まれたくなかった本が、ひとつある。けれど、それは捨てられなかった』
「……私、あのとき……誰かの本を、燃やした?」
彼女の声は震えていた。だが、ページをめくる手は止まらない。ふいに、あるフレーズが目に飛び込む。
“ごめん。あの本を読んだら、君が壊れてしまいそうだった”
そして隣には、同じ筆跡でこうあった。
“でも、君がそれを知らないまま壊れていくのを、もっと見ていられなかった”
彼女は言葉を失った。記憶の奥で、炎の向こうに立つ誰かの輪郭が浮かんだ。その人は、本を手にしていた。泣いていた。それを奪ったのは――自分だった。
「……あの子は、私を守ろうとしていた」
「記憶は、忘れたことよりもなぜ忘れたかの方に、本質があります」
店主の言葉に、彼女は静かに本を閉じた。
「読みきれなかったです。でも……ここに来てよかった」
帰り際、彼女は振り返った。
「店主さん……あの子も、ここに来たことがある気がするんです」
店主はゆっくりと微笑んだ。
「ではまた、ページの向こうで会えるかもしれませんね」
扉が閉まると、空気が少しだけ静かに、そして確かに揺れた。
未明書房の扉が、カランと鳴った。
「また、お越しいただけましたね」
店主の声は、前と変わらず穏やかだった。だが彼女の表情には、どこか緊張が漂っていた。
「前回……あの本を読んでから、夢を見るようになったんです。あの日のこと……火の匂いがするのに、何が燃えたのか思い出せない」
店主は何も言わず、棚の奥に目を向けた。すると、一冊の文庫が、するりと音もなく抜け落ちた。
背表紙には、灰のような模様が滲んでいる。
「焚書録と、呼ばれていたものの一部かもしれません。読みますか?」
彼女はうなずいた。その瞬間、書店の空気がわずかに乾いた。
ページを開くと、見開きに淡く焼け跡があった。そこには、手書きの走り書きが残っていた。
『読まれたくなかった本が、ひとつある。けれど、それは捨てられなかった』
「……私、あのとき……誰かの本を、燃やした?」
彼女の声は震えていた。だが、ページをめくる手は止まらない。ふいに、あるフレーズが目に飛び込む。
“ごめん。あの本を読んだら、君が壊れてしまいそうだった”
そして隣には、同じ筆跡でこうあった。
“でも、君がそれを知らないまま壊れていくのを、もっと見ていられなかった”
彼女は言葉を失った。記憶の奥で、炎の向こうに立つ誰かの輪郭が浮かんだ。その人は、本を手にしていた。泣いていた。それを奪ったのは――自分だった。
「……あの子は、私を守ろうとしていた」
「記憶は、忘れたことよりもなぜ忘れたかの方に、本質があります」
店主の言葉に、彼女は静かに本を閉じた。
「読みきれなかったです。でも……ここに来てよかった」
帰り際、彼女は振り返った。
「店主さん……あの子も、ここに来たことがある気がするんです」
店主はゆっくりと微笑んだ。
「ではまた、ページの向こうで会えるかもしれませんね」
扉が閉まると、空気が少しだけ静かに、そして確かに揺れた。
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