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寄せ鍋は案の定やたらにおいしかった。だしがいいのか何がいいのか、前と同じに何がおいしさの主要因なのか判然としないおいしさだ。箸休めの切り干し大根と人参がまたおいしい。さすが本職だ。
「どうやったらこんなに料理上手になるんですか?」
「時々言われるけどねえ、俺普通にやってるだけだからな」
「できる人は皆そう言うのよね」
「分かります」
「百合はやろうとも思ってないだろ」
「やれる人がやればいいと思う」
智哉、百合、紗季、正午と時計回りに座っていて、紗季は右手に智哉たちのやり取りを見ている。智哉も百合もふたりで話す時はちょっとぞんざいで子供っぽくて、妙になごんだ。
「…え、正午くんおかわり早くない?」
「そう?」
紗季の彼氏の方はまずは飯、といったふうで黙々と食べていて(正午用に肉野菜炒めがあった。高校生か何かか)早々にご飯をよそいに立っていった。
「食うよなああいつ」
「若いですもんね。職業的なものもあるんですかね?」
「いや、正午はずっとあんな感じ。あの細さでめちゃくちゃ食うからね。気がついたら食いもん消えてる」
「栄養全部縦に伸びる方にいっちゃったんですね」
それを聞いて智哉はげらげら笑っていた。戻ってきた正午は自分の話だと思っていないのか、特段変わらず席につく。
「千紘駅ついたって」
「おっまじで?じゃあふたりとも、騒がしいのが来るんで覚悟して」
ずっと百合と紗季に会いたがっていたのだというから、やはりこの会の裏目的は会いたい会いたいとうるさい千紘を静かにさせることのようだ。
「紗季ちゃん、飲み物作ってもらったら?」
「えっ百合、いつの間にそんな仲良くなったの?」コミュ障なのにと言って智哉は肩をはたかれていた。やはりそうか。
「…さっき噛んだの!紗季さんって言おうとして!そしたらいいって言ってくれるから…」
「紗季さんって呼ばれることないから私も慣れなくて。百合さんは百合さんって感じですよね」
にこにこしながらグラスを渡したら、横から二杯で止めておくようにと牽制された。
「明日仕事やろ」
「うう、仕事です…」残念なことに。
しかしありがたいことに、正午が言ったのかビールと日本酒の他に店で飲んだ柑橘サワーの準備がしてあって、紗季は歓喜したのだった。種類が分からないのだがとにかくレモンとオレンジっぽいものとオレンジとレモンの間の色の柑橘があって、絞ってブレンドしている。読みは当たっていた。
「これ、あるもの使うから毎回味が違うんだけどね」
「えー、それは逆に毎回頼んじゃうやつじゃないですか」
今日だってそれを聞いたら試したくなる。
「また飲みに来てよ」
「ぜひ!」
「いつも護衛がいるのも窮屈でしょ?良かったらこの人連れてきて。ほっとくとなーんにも食わないから」
「誰が護衛や」
智哉が水を向けたということはおそらく大丈夫だと踏んで、連絡先を交換しないか訊いてみると照れたように頷くので(チャーミングな照れ方!)にやにやしてしまいそうな頬の内側を噛んだ。
ふっと正午が顔を上げて、千紘やと言って立ち上がった。
「たーだいまー」
群を抜いて明るい声がして、正午が立っていって襖を開ける。
「さっむかったー!」
「おう」智哉が軽く手を上げる。
「遅れてごめん!初めまして、小嶋千紘です!」元気だ。そしてきらきらしている。顔が小さい。
「よかったらクリストファーって呼んでやって」
「役名やめて!」
「そうやぞ智哉、ラミなんとかもあるやろ」
「やめろよもー!」
一気に場が賑やかになった。外気の冷たさをまとった彼はシャンパンを出してきて、さすが芸能人といじられている。
「いや本当ごめん、これ時間なくてマネージャーさんに頼んだら、なんか違う鍋パーティー想像しちゃったらしくてセレブなセレクトに」
まあ座れ、と智哉がテーブルの上を整理し始めて彼の座る場所を作っている。が、立ったままだった正午が何を考えているのか紗季の後ろに腰を下ろした。並んで座るわけではもちろんない、真後ろだ。いつものやつだ、いつもの、後ろから抱き込むあれだ。さすがに腕は回してこなかったが。
「ちょっ…!」
「千紘そこな」
「マジでラブラブなんじゃん」
「やろ」
やろ、ではない。
自分の取皿やらグラスやらを紗季の側へ寄せ、正午は平然としている。智哉と千紘は面白そうに、百合はあらあらといった表情で見ている。いつもはこんなことないんですとも言い訳できないところが重ねて気恥ずかしい。
「…もうほんと恥ずかしい…!」
「座椅子や」
しゃあしゃあと何を言うか。振り向いて頬を引っ張ってやった。
「私もやる?」
「百合はなんかずれてんだよな」
「あー、その発言超百合さんぽい」
想像はついていたが頑として引かないので、一人だけ座椅子がいるまま仕切り直しの乾杯をした。
「そういえば、お二人は全然方言ないんですね」
こちらに住んで八年と正午は言っていたが、それにしては彼だけが訛っている。地元が一緒なのではなかっただろうか。
「僕らは出身こっちなんですよ」
「そうそう。親の仕事で引っ越して。そんで正午と席が後ろ前で、そこからずっと一緒」
子鹿と小嶋か。
「卒業アルバムの正午くん可愛らしいですよ、紗季ちゃん見せてもらったことある?」
「百合さんストップ」
「あっ正午が動揺してる」
「やめろ」
これはチャンスを狙って見せてもらうほかあるまい。
「でもお前可愛かったの小学校までだったよな。背が伸びると同時にまー…」
「俺すごい置いてかれたもんね、大体一緒ぐらいの背だったのに」
「そうなの?」
「知らん」
後ろを向こうとしたが阻止された。どんな顔をしているのか気になるが、あまり追及すると後で仕返しがひどそうだから深追いはやめておこう。背が伸びた方を取って無難な範囲の小中高の話題に向けて、そこそこ正午の子供の頃のエピソードを聞けたのでよしとした。
「どうやったらこんなに料理上手になるんですか?」
「時々言われるけどねえ、俺普通にやってるだけだからな」
「できる人は皆そう言うのよね」
「分かります」
「百合はやろうとも思ってないだろ」
「やれる人がやればいいと思う」
智哉、百合、紗季、正午と時計回りに座っていて、紗季は右手に智哉たちのやり取りを見ている。智哉も百合もふたりで話す時はちょっとぞんざいで子供っぽくて、妙になごんだ。
「…え、正午くんおかわり早くない?」
「そう?」
紗季の彼氏の方はまずは飯、といったふうで黙々と食べていて(正午用に肉野菜炒めがあった。高校生か何かか)早々にご飯をよそいに立っていった。
「食うよなああいつ」
「若いですもんね。職業的なものもあるんですかね?」
「いや、正午はずっとあんな感じ。あの細さでめちゃくちゃ食うからね。気がついたら食いもん消えてる」
「栄養全部縦に伸びる方にいっちゃったんですね」
それを聞いて智哉はげらげら笑っていた。戻ってきた正午は自分の話だと思っていないのか、特段変わらず席につく。
「千紘駅ついたって」
「おっまじで?じゃあふたりとも、騒がしいのが来るんで覚悟して」
ずっと百合と紗季に会いたがっていたのだというから、やはりこの会の裏目的は会いたい会いたいとうるさい千紘を静かにさせることのようだ。
「紗季ちゃん、飲み物作ってもらったら?」
「えっ百合、いつの間にそんな仲良くなったの?」コミュ障なのにと言って智哉は肩をはたかれていた。やはりそうか。
「…さっき噛んだの!紗季さんって言おうとして!そしたらいいって言ってくれるから…」
「紗季さんって呼ばれることないから私も慣れなくて。百合さんは百合さんって感じですよね」
にこにこしながらグラスを渡したら、横から二杯で止めておくようにと牽制された。
「明日仕事やろ」
「うう、仕事です…」残念なことに。
しかしありがたいことに、正午が言ったのかビールと日本酒の他に店で飲んだ柑橘サワーの準備がしてあって、紗季は歓喜したのだった。種類が分からないのだがとにかくレモンとオレンジっぽいものとオレンジとレモンの間の色の柑橘があって、絞ってブレンドしている。読みは当たっていた。
「これ、あるもの使うから毎回味が違うんだけどね」
「えー、それは逆に毎回頼んじゃうやつじゃないですか」
今日だってそれを聞いたら試したくなる。
「また飲みに来てよ」
「ぜひ!」
「いつも護衛がいるのも窮屈でしょ?良かったらこの人連れてきて。ほっとくとなーんにも食わないから」
「誰が護衛や」
智哉が水を向けたということはおそらく大丈夫だと踏んで、連絡先を交換しないか訊いてみると照れたように頷くので(チャーミングな照れ方!)にやにやしてしまいそうな頬の内側を噛んだ。
ふっと正午が顔を上げて、千紘やと言って立ち上がった。
「たーだいまー」
群を抜いて明るい声がして、正午が立っていって襖を開ける。
「さっむかったー!」
「おう」智哉が軽く手を上げる。
「遅れてごめん!初めまして、小嶋千紘です!」元気だ。そしてきらきらしている。顔が小さい。
「よかったらクリストファーって呼んでやって」
「役名やめて!」
「そうやぞ智哉、ラミなんとかもあるやろ」
「やめろよもー!」
一気に場が賑やかになった。外気の冷たさをまとった彼はシャンパンを出してきて、さすが芸能人といじられている。
「いや本当ごめん、これ時間なくてマネージャーさんに頼んだら、なんか違う鍋パーティー想像しちゃったらしくてセレブなセレクトに」
まあ座れ、と智哉がテーブルの上を整理し始めて彼の座る場所を作っている。が、立ったままだった正午が何を考えているのか紗季の後ろに腰を下ろした。並んで座るわけではもちろんない、真後ろだ。いつものやつだ、いつもの、後ろから抱き込むあれだ。さすがに腕は回してこなかったが。
「ちょっ…!」
「千紘そこな」
「マジでラブラブなんじゃん」
「やろ」
やろ、ではない。
自分の取皿やらグラスやらを紗季の側へ寄せ、正午は平然としている。智哉と千紘は面白そうに、百合はあらあらといった表情で見ている。いつもはこんなことないんですとも言い訳できないところが重ねて気恥ずかしい。
「…もうほんと恥ずかしい…!」
「座椅子や」
しゃあしゃあと何を言うか。振り向いて頬を引っ張ってやった。
「私もやる?」
「百合はなんかずれてんだよな」
「あー、その発言超百合さんぽい」
想像はついていたが頑として引かないので、一人だけ座椅子がいるまま仕切り直しの乾杯をした。
「そういえば、お二人は全然方言ないんですね」
こちらに住んで八年と正午は言っていたが、それにしては彼だけが訛っている。地元が一緒なのではなかっただろうか。
「僕らは出身こっちなんですよ」
「そうそう。親の仕事で引っ越して。そんで正午と席が後ろ前で、そこからずっと一緒」
子鹿と小嶋か。
「卒業アルバムの正午くん可愛らしいですよ、紗季ちゃん見せてもらったことある?」
「百合さんストップ」
「あっ正午が動揺してる」
「やめろ」
これはチャンスを狙って見せてもらうほかあるまい。
「でもお前可愛かったの小学校までだったよな。背が伸びると同時にまー…」
「俺すごい置いてかれたもんね、大体一緒ぐらいの背だったのに」
「そうなの?」
「知らん」
後ろを向こうとしたが阻止された。どんな顔をしているのか気になるが、あまり追及すると後で仕返しがひどそうだから深追いはやめておこう。背が伸びた方を取って無難な範囲の小中高の話題に向けて、そこそこ正午の子供の頃のエピソードを聞けたのでよしとした。
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