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第1章 存在の意義
36話 音無し笛
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☆
ー 北の森 最深部 ー
温かな空気が頬を撫でる。意識がゆっくりと覚醒していく。目をゆっくりと開けると満天の星空が広がる。どうやら横になっている様だ。
すぐ側には焚き火が焚かれ、体にはローブの様なものが掛けられている。
どうやら気を失っていた様だ。
辺りを見回すとペンネが反対側に見えた。うつらうつらしている彼女の腰回りには何着見えたがよく見えなかった。
「ペンネ、此処は?」
声を掛けると彼女はパッと起きこちらに駆け寄った。
「アイルさん、起きたのね?身体の様子はどう?痛まない?」
記憶が徐々に蘇る。紅狼の魔力を吸いすぎて右腕が炭化し始めていたことを思い出す。
しかし、今は小さな裂傷がある程度で痛みはなかった。
「怪我は大丈夫だよ、それよりも彼は・・・?」
「私は無事だ」
焚き火の影から紅狼が出てきた。紅目は影を潜め、両目とも金色になっていた。柔らかな色を出している。
「大変世話になった。瘴気に溢れていたのが嘘の様に身体が軽い。改めてお礼を言わせてほしい」
「ご無事で何よりです。紅狼になったのに瘴気が感じられないのですが何かあったのですか?」
「貴方にその棒の様なものを刺されたためと言われました。何はともあれ助かりました」
棒の様なもの・・・?あぁ、タクトのことか。咄嗟の策だったが想定した通りのものだったか。
彼は瘴気に侵されていた。瘴気は大気中の魔力が貯まる溜まり場で生成される。もしくは龍脈の様に魔力の噴出が活発な大地で見られる。
理由はわからないが彼も魔力を過剰に吸収してしまった結果が紅狼へ変態を遂げてしまったのだろう。
「この森には他にも瘴気に侵されたモノは居るんですか?」
「いえ、この森は私が最後でしょう。2週間ほど前までは獣人が侵されたという話は聞きました」
「瘴気に侵された場合の対処はどうしているのですか?」
「ここは今まで瘴気に侵されることがなかった平和な森。まだ何も決まっていないのです」
ここ北の森は木こりが随伴に冒険者を連れてこなくても仕事ができるほど平和な場所だ。必要最低限の木を森の外縁から少し頂く。
生態系を破壊したくない故の村の決まりである。
「先週、ここより村側で瘴気に侵された狼獣人と闘い、討ちました。恐らく大丈夫なはずでしょう」
「おぉ、何から何までありがとうございます。魔物は逐次、私が討伐していたので恐らくはいないと思われます」
「最近、ここより南で魔物や魔獣が異常に出没しているんだ。この森も出るかもしれないから気をつけてね」
「承知しました。それより、お礼と言っては何ですが・・・」
そういうと彼は、滝の傍にあった洞窟の中へ入っていく。すぐに出てきたが何か咥えている様だ。
其れを僕の手前に置いた。
「これは?」
「これは、人と共生することを選んだ理性あるモノに呼びかけることのできる笛です。ちょっと吹いてみて下さい」
そう言われ手に取る。凄く小さな骨を加工してある様だ。外観は白く綺麗で、何かが彫られている。
一息吹いてみる。手元からは息が出ていく音しか聞こえない。何か音が出たとは思えないくらい静かであった。
「これ、本当に音が出てるの?」
「し、静かに・・・」
辺りの茂みがざわめく。少しして何か出てきた。少年を模したとても小さな小人が出てきた。手には鎚の様なものを持ち、頭にはとんがりハットを被っている。
紅狼が頭を下げる。小人が両手を上げてピョンピョン飛んでいる。なんか可愛いな・・・。
紅狼が振り返りこちらをじっと見ている。何の視線かは分からなかったが嫌な視線ではない。寧ろ驚きの方が強いであろう。
「紅狼、彼は一体?」
「彼とは失礼ですぞ。このお方は大地の精霊、ノーム様です。失礼のない様に」
そう紹介された手のひらサイズの少年は声もなく両手を上げて喜んでいた。何がそんなに嬉しいのだろうか?
よくよくみると口はなく、つぶらな瞳が覗いている。
ノームが茂みを指さす。其方を見ると茂みからは何百のノームがこちらを見ていた。着ている服は色は違えど形は似ていて男性はジャケットスタイル。女性はドレスの様だ。
彼らの前に膝を突き、頭を下げる。
「どうぞこれからもよろしくお願いします」
そう言った瞬間、彼らは僕の体によじ登り、喜んでいる様子だ。
賑やかになったと頭の上で飛び跳ねる彼らを見て安堵した。
ー 同時刻 ー ペンネ視点
アイルさんが地面に横たわりノーム様達と戯れている中、私は考え事をしていた。
昼の彼は以前助けてもらった時よりも禍々しく、魔力も桁がさらに違っていた。精密な魔力精製により出される形すら認識できるほどの真空の一撃。対象から瘴気を奪ったとしか言えない彼のタクト。
何よりも最後に見た彼の身体から出てきた蒼の波紋。彼はまるで感情を現実に顕現できるかの様に魔術を使う。
攻撃魔術でもなければ防御魔術でもない。ましてはバフやデバフでもない。
彼の魔術はどの資料にも載っていないだろう。いうならば″感情の魔術師″。
そうとしか表現できなかった。
彼についていけば更に面白い景色が観れるだろう。
焚き火に照らされた彼の横顔を見ながらそう思った。
ー 北の森 最深部 ー
温かな空気が頬を撫でる。意識がゆっくりと覚醒していく。目をゆっくりと開けると満天の星空が広がる。どうやら横になっている様だ。
すぐ側には焚き火が焚かれ、体にはローブの様なものが掛けられている。
どうやら気を失っていた様だ。
辺りを見回すとペンネが反対側に見えた。うつらうつらしている彼女の腰回りには何着見えたがよく見えなかった。
「ペンネ、此処は?」
声を掛けると彼女はパッと起きこちらに駆け寄った。
「アイルさん、起きたのね?身体の様子はどう?痛まない?」
記憶が徐々に蘇る。紅狼の魔力を吸いすぎて右腕が炭化し始めていたことを思い出す。
しかし、今は小さな裂傷がある程度で痛みはなかった。
「怪我は大丈夫だよ、それよりも彼は・・・?」
「私は無事だ」
焚き火の影から紅狼が出てきた。紅目は影を潜め、両目とも金色になっていた。柔らかな色を出している。
「大変世話になった。瘴気に溢れていたのが嘘の様に身体が軽い。改めてお礼を言わせてほしい」
「ご無事で何よりです。紅狼になったのに瘴気が感じられないのですが何かあったのですか?」
「貴方にその棒の様なものを刺されたためと言われました。何はともあれ助かりました」
棒の様なもの・・・?あぁ、タクトのことか。咄嗟の策だったが想定した通りのものだったか。
彼は瘴気に侵されていた。瘴気は大気中の魔力が貯まる溜まり場で生成される。もしくは龍脈の様に魔力の噴出が活発な大地で見られる。
理由はわからないが彼も魔力を過剰に吸収してしまった結果が紅狼へ変態を遂げてしまったのだろう。
「この森には他にも瘴気に侵されたモノは居るんですか?」
「いえ、この森は私が最後でしょう。2週間ほど前までは獣人が侵されたという話は聞きました」
「瘴気に侵された場合の対処はどうしているのですか?」
「ここは今まで瘴気に侵されることがなかった平和な森。まだ何も決まっていないのです」
ここ北の森は木こりが随伴に冒険者を連れてこなくても仕事ができるほど平和な場所だ。必要最低限の木を森の外縁から少し頂く。
生態系を破壊したくない故の村の決まりである。
「先週、ここより村側で瘴気に侵された狼獣人と闘い、討ちました。恐らく大丈夫なはずでしょう」
「おぉ、何から何までありがとうございます。魔物は逐次、私が討伐していたので恐らくはいないと思われます」
「最近、ここより南で魔物や魔獣が異常に出没しているんだ。この森も出るかもしれないから気をつけてね」
「承知しました。それより、お礼と言っては何ですが・・・」
そういうと彼は、滝の傍にあった洞窟の中へ入っていく。すぐに出てきたが何か咥えている様だ。
其れを僕の手前に置いた。
「これは?」
「これは、人と共生することを選んだ理性あるモノに呼びかけることのできる笛です。ちょっと吹いてみて下さい」
そう言われ手に取る。凄く小さな骨を加工してある様だ。外観は白く綺麗で、何かが彫られている。
一息吹いてみる。手元からは息が出ていく音しか聞こえない。何か音が出たとは思えないくらい静かであった。
「これ、本当に音が出てるの?」
「し、静かに・・・」
辺りの茂みがざわめく。少しして何か出てきた。少年を模したとても小さな小人が出てきた。手には鎚の様なものを持ち、頭にはとんがりハットを被っている。
紅狼が頭を下げる。小人が両手を上げてピョンピョン飛んでいる。なんか可愛いな・・・。
紅狼が振り返りこちらをじっと見ている。何の視線かは分からなかったが嫌な視線ではない。寧ろ驚きの方が強いであろう。
「紅狼、彼は一体?」
「彼とは失礼ですぞ。このお方は大地の精霊、ノーム様です。失礼のない様に」
そう紹介された手のひらサイズの少年は声もなく両手を上げて喜んでいた。何がそんなに嬉しいのだろうか?
よくよくみると口はなく、つぶらな瞳が覗いている。
ノームが茂みを指さす。其方を見ると茂みからは何百のノームがこちらを見ていた。着ている服は色は違えど形は似ていて男性はジャケットスタイル。女性はドレスの様だ。
彼らの前に膝を突き、頭を下げる。
「どうぞこれからもよろしくお願いします」
そう言った瞬間、彼らは僕の体によじ登り、喜んでいる様子だ。
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昼の彼は以前助けてもらった時よりも禍々しく、魔力も桁がさらに違っていた。精密な魔力精製により出される形すら認識できるほどの真空の一撃。対象から瘴気を奪ったとしか言えない彼のタクト。
何よりも最後に見た彼の身体から出てきた蒼の波紋。彼はまるで感情を現実に顕現できるかの様に魔術を使う。
攻撃魔術でもなければ防御魔術でもない。ましてはバフやデバフでもない。
彼の魔術はどの資料にも載っていないだろう。いうならば″感情の魔術師″。
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