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3.注目
余裕
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「もしもしハルキ?
店なんだけどさ、先月行ったバルにしようと思うんだけどいいかな?」
「おつかれ。いいと思う。
タクシーで向かうよ。」
電話越しの妙な間から無言の圧力を感じる。
「…どうした?」
「なぁ、お前ってミラノのこと狙ってんの?」
狙ってるってそんな獲物みたいに言うもんじゃないだろ。
自分のことじゃないのにちょっとカチンと来た。
「狙ってるとかそういうんじゃなく今日は友達として試合に招待しただけだよ。」
「友達をVIPに招待…か。」
…ジャンのファン心理とは違うんだよ。
そんなこと言えないけど。
「火遊びしたいとかガキじゃねぇし、学生時代とはもう違うんだよ。
今そんなことしたらすぐ叩かれる。」
このご時世すぐにSNSでなんでも広まるし、女性ファンが多い選手はコーチと監督に呼び出されて、特に気をつけろなんて釘も刺されているんだ。
「…わかった。変なこと言ってごめん。
じゃあ店で。」
スーツじゃ堅すぎると思ってグレーのセットアップを選んだ。
二十歳の誕生日に父さんがプレゼントしてくれたちょっといいブランドの腕時計を左腕につける。
ふと、そういえば、と思いある人に電話をかける。
「もしもし。」
『おう、南沢。』
電話の相手はフェルナンドだ。
「今日は本当にありがとうございました。
早くトップチームでフェルナンドと再戦したいです。」
『こちらこそありがとう。
来季楽しみにしてる。
それで?本題はなんだ?』
…普通にお礼したかっただけなんだけどな。
「いや…え?」
『さては女か?』
う、うーん?
これは言ってもいいことなのかな…。
「ぶっちゃけるといまから南沢浩志の娘とチームメイトのジャンとでメシ行くんですけど…。
まあちょっとその子が気になるっていうか。」
『南沢浩志の娘!?
確かにそれはVIP席にも招待したくなるな。』
「見てたんですか!?」
フェルナンドは愉快だとでもいうように豪快に笑った。
『リムジン呼んでエスコートくらいしてみたらどうだ?
1時間借りるくらいだったらお前の今財布にある金で足りると思うぞ。』
フェルナンドが一方的に電話を切ってくるのでそれ以上は何も聞けなかった。
リムジンねぇ…。
スター選手は考えることが違うな。
…調べてみると案外安い。
とりあえず電話をかけてみると車も空きがあって運転手もいるということで俺は人生初のリムジンで未蘭乃を迎えに行くことになった、というわけだ。
「…すごい、シートがふかふか。
今日ふかふかのところにしかあたし座ってない。」
「ぶっちゃけ俺もリムジン乗るの初めてだから内装が豪華すぎてびびってる。」
…やっぱりスマートに、とか俺には装えないな。
未蘭乃の家から店までは約十分くらいだと聞いたからアイスペールで冷やしてあった瓶のジンジャーエールをグラスに注いで二人で先に乾杯した。
「今日の勝利に乾杯、だね。」
未蘭乃が口元を緩ませながらそういうことをいうのは新鮮で思わず笑ってしまった。
ニヤニヤしてる未蘭乃…可愛いな…。
「ははっ、ありがとう。
乾杯。」
「あたし今日こんなに幸せでいいのかな。」
予想以上に喜んでもらえてこっちまで嬉しくなった。
「南沢様。
そろそろ到着でございます。」
「あ、はい!」
車が店の前に停まり、運転手がドアを開けてくれた。
「帰りはまた連絡します。」
運転手にチップを渡すと俺の座っている側のドアが開いた。
「おいで。」
俺が手を差し出すと未蘭乃の白くて柔らかい手がふわっと手の平にのった。
「いってらっしゃいませ。」
軽く会釈して店の入り口まで行くとすでにジャンが待っていた。
「こんばんは。」
未蘭乃がジャンに声をかけるとハッとしたようにスマホから顔を上げた。
「来てくれてありがとう!
今日は俺のおごりだから好きなもの食べてよ。」
「本当にいいんですか?
ありがとうございます。」
俺達がリムジンで店まで来たのは見てないみたいだ。
店に入ると、店員が俺達を個室に案内してくれた。
「ハルキ、何飲む?」
「あー、そうだな…。
ドイツビールかハイボールにするかな。」
ジャンと未蘭乃が向かい合って座り、俺はジャンの隣に座った。
席についてすぐにドリンクのオーダー。
「俺はハイボールで。」
「ミラノちゃんは?」
「あたしは…オレンジジュースで。」
「そうだよねぇ、まだ未成年だから飲めないんだもんねぇ。」
おいおいなんだその猫撫で声…。
おじさんみたいな話し方するなよ。
「じゃあ俺はジンジャーエール。」
「ジャンさんは結構お酒飲むんですか?」
「たまーにだね。
週に一回あるかないか。
今日は車できてるからノンアル。」
良かったら帰りは送っていこうか?というジャンの言葉に未蘭乃は苦笑い。
「あんまり未蘭乃のこと困らせないでくれよ。」
「ははっ、ごめんごめん。」
ウエイターがドリンクを持ってきて三人で乾杯。
話題は今日の試合に移った。
「フェルナンドとバチバチにやりあえるの二部リーグじゃハルキくらいしかいないよな。」
「いやいや…あれは相手のパスが悪かっただけ。
俺はいつも通りプレーしただけだよ。」
「ハルキがボール持ったら観客席すごく盛り上がってたよ。
試合のあともハルキの名前ちらほら出てたし。」
これ美味しい。と未蘭乃がパクパクとポテトを食べる様子をジャンが気持ち悪いほどの笑顔で見ている。
「この顔立ちで日本人の割に背はでけーし。
女性ファンが多いのなんの…。
ハルキ身長何センチだっけ?」
「180ってプロフィールに書いてるけど先週測ったら182行くか行かないかのとこだった。」
注文用のタブレット端末を操作して肉やらカルパッチョやら好きなものをオーダーして未蘭乃に渡す。
「ミラノちゃんはさ、やっぱ付き合うなら日本人?」
「へっ?」
未蘭乃が間の抜けた声を出す。
タブレットに目線を落とし小声で何か言った。
「…ない。」
「?なんだって?」
「男の人と付き合ったこと…ない。」
妙ななんとも言えない空気が個室に流れた。
…未蘭乃、マジか。
「えっ!?そんな可愛いのに…処っ!?
なんだよハルキ!」
「…絶対言うと思った黙れよジャン。」
ジャンの口を塞ぎ思わずため息をついた。
店なんだけどさ、先月行ったバルにしようと思うんだけどいいかな?」
「おつかれ。いいと思う。
タクシーで向かうよ。」
電話越しの妙な間から無言の圧力を感じる。
「…どうした?」
「なぁ、お前ってミラノのこと狙ってんの?」
狙ってるってそんな獲物みたいに言うもんじゃないだろ。
自分のことじゃないのにちょっとカチンと来た。
「狙ってるとかそういうんじゃなく今日は友達として試合に招待しただけだよ。」
「友達をVIPに招待…か。」
…ジャンのファン心理とは違うんだよ。
そんなこと言えないけど。
「火遊びしたいとかガキじゃねぇし、学生時代とはもう違うんだよ。
今そんなことしたらすぐ叩かれる。」
このご時世すぐにSNSでなんでも広まるし、女性ファンが多い選手はコーチと監督に呼び出されて、特に気をつけろなんて釘も刺されているんだ。
「…わかった。変なこと言ってごめん。
じゃあ店で。」
スーツじゃ堅すぎると思ってグレーのセットアップを選んだ。
二十歳の誕生日に父さんがプレゼントしてくれたちょっといいブランドの腕時計を左腕につける。
ふと、そういえば、と思いある人に電話をかける。
「もしもし。」
『おう、南沢。』
電話の相手はフェルナンドだ。
「今日は本当にありがとうございました。
早くトップチームでフェルナンドと再戦したいです。」
『こちらこそありがとう。
来季楽しみにしてる。
それで?本題はなんだ?』
…普通にお礼したかっただけなんだけどな。
「いや…え?」
『さては女か?』
う、うーん?
これは言ってもいいことなのかな…。
「ぶっちゃけるといまから南沢浩志の娘とチームメイトのジャンとでメシ行くんですけど…。
まあちょっとその子が気になるっていうか。」
『南沢浩志の娘!?
確かにそれはVIP席にも招待したくなるな。』
「見てたんですか!?」
フェルナンドは愉快だとでもいうように豪快に笑った。
『リムジン呼んでエスコートくらいしてみたらどうだ?
1時間借りるくらいだったらお前の今財布にある金で足りると思うぞ。』
フェルナンドが一方的に電話を切ってくるのでそれ以上は何も聞けなかった。
リムジンねぇ…。
スター選手は考えることが違うな。
…調べてみると案外安い。
とりあえず電話をかけてみると車も空きがあって運転手もいるということで俺は人生初のリムジンで未蘭乃を迎えに行くことになった、というわけだ。
「…すごい、シートがふかふか。
今日ふかふかのところにしかあたし座ってない。」
「ぶっちゃけ俺もリムジン乗るの初めてだから内装が豪華すぎてびびってる。」
…やっぱりスマートに、とか俺には装えないな。
未蘭乃の家から店までは約十分くらいだと聞いたからアイスペールで冷やしてあった瓶のジンジャーエールをグラスに注いで二人で先に乾杯した。
「今日の勝利に乾杯、だね。」
未蘭乃が口元を緩ませながらそういうことをいうのは新鮮で思わず笑ってしまった。
ニヤニヤしてる未蘭乃…可愛いな…。
「ははっ、ありがとう。
乾杯。」
「あたし今日こんなに幸せでいいのかな。」
予想以上に喜んでもらえてこっちまで嬉しくなった。
「南沢様。
そろそろ到着でございます。」
「あ、はい!」
車が店の前に停まり、運転手がドアを開けてくれた。
「帰りはまた連絡します。」
運転手にチップを渡すと俺の座っている側のドアが開いた。
「おいで。」
俺が手を差し出すと未蘭乃の白くて柔らかい手がふわっと手の平にのった。
「いってらっしゃいませ。」
軽く会釈して店の入り口まで行くとすでにジャンが待っていた。
「こんばんは。」
未蘭乃がジャンに声をかけるとハッとしたようにスマホから顔を上げた。
「来てくれてありがとう!
今日は俺のおごりだから好きなもの食べてよ。」
「本当にいいんですか?
ありがとうございます。」
俺達がリムジンで店まで来たのは見てないみたいだ。
店に入ると、店員が俺達を個室に案内してくれた。
「ハルキ、何飲む?」
「あー、そうだな…。
ドイツビールかハイボールにするかな。」
ジャンと未蘭乃が向かい合って座り、俺はジャンの隣に座った。
席についてすぐにドリンクのオーダー。
「俺はハイボールで。」
「ミラノちゃんは?」
「あたしは…オレンジジュースで。」
「そうだよねぇ、まだ未成年だから飲めないんだもんねぇ。」
おいおいなんだその猫撫で声…。
おじさんみたいな話し方するなよ。
「じゃあ俺はジンジャーエール。」
「ジャンさんは結構お酒飲むんですか?」
「たまーにだね。
週に一回あるかないか。
今日は車できてるからノンアル。」
良かったら帰りは送っていこうか?というジャンの言葉に未蘭乃は苦笑い。
「あんまり未蘭乃のこと困らせないでくれよ。」
「ははっ、ごめんごめん。」
ウエイターがドリンクを持ってきて三人で乾杯。
話題は今日の試合に移った。
「フェルナンドとバチバチにやりあえるの二部リーグじゃハルキくらいしかいないよな。」
「いやいや…あれは相手のパスが悪かっただけ。
俺はいつも通りプレーしただけだよ。」
「ハルキがボール持ったら観客席すごく盛り上がってたよ。
試合のあともハルキの名前ちらほら出てたし。」
これ美味しい。と未蘭乃がパクパクとポテトを食べる様子をジャンが気持ち悪いほどの笑顔で見ている。
「この顔立ちで日本人の割に背はでけーし。
女性ファンが多いのなんの…。
ハルキ身長何センチだっけ?」
「180ってプロフィールに書いてるけど先週測ったら182行くか行かないかのとこだった。」
注文用のタブレット端末を操作して肉やらカルパッチョやら好きなものをオーダーして未蘭乃に渡す。
「ミラノちゃんはさ、やっぱ付き合うなら日本人?」
「へっ?」
未蘭乃が間の抜けた声を出す。
タブレットに目線を落とし小声で何か言った。
「…ない。」
「?なんだって?」
「男の人と付き合ったこと…ない。」
妙ななんとも言えない空気が個室に流れた。
…未蘭乃、マジか。
「えっ!?そんな可愛いのに…処っ!?
なんだよハルキ!」
「…絶対言うと思った黙れよジャン。」
ジャンの口を塞ぎ思わずため息をついた。
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