Sorry Baby

ぴあす

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パンプス

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「ただいま…。」

玄関に入って目にしたものに謎の恐怖感を覚えた。

…女モノの靴。 

「は?」

もちろんあたしのじゃない。
こんな高いヒールなんて履いたら歩けないし。
 
パパがあたしとママのために建てたこの家に女を連れ込んだ。
そう考えるだけで吐き気がした。

どうしたらいいの?この状況…。

リビングでお楽しみ中?

それとも二人でバスタイム?

パパの部屋でピロートーク?

「素敵な家ね。」

リビングから女の声がした。

…あたしが帰ってきたことにも気づいてないくらい二人の世界にどっぷり漬かっているんだ。

「娘と猫一匹と住むには広すぎる家だよ。」

あたしが帰ってきたことにおもちは気づいて2階からにゃーんと鳴きながら降りてきた。
リビングから閉め出されて…かわいそう。

あたしもリビングを通らないと自分の部屋には行けない。

「でも…そのうち娘も出ていくだろうし、この家に君と一緒に住めたらと思うよ。」

…は?
何言ってんの?

「本当?
こんな素敵な家に住めるなんて…!」

パパが朝帰りしようが、何日も帰って来なかろうがずっと目をつぶってたし、付き合ってる女性がいるのだって薄々感じてた。

あたしが出ていく、出ていかないとかそういうのはどうだっていい。
いつか出ていくと思うのは親として普通のことだと思うし。

ママが亡くなってすぐはすごく荒れていたしママを愛していたから、ママがいなくてなってどうしようもなくなっちゃったんじゃないの?

…7年も経ったらどうでもよくなるの?
そんなの悲しすぎるよ。
ママがかわいそうだよ。

でも…今のパパにはあたしが邪魔だってこともなんとなくわかってしまった。

「おもち。こっち。」

名前を呼ぶとおもちはあたしを見上げた。
2階にはおもちのご飯やおやつ、それに病院とかに連れていくときに使うペットキャリーが置いてある。

ケータイと財布、今着てる制服。
着替えとかは…隙があるんなら取りに行きたいけど…。

おもちのご飯とおやつ、ペットシーツ、そのへんにあったおもちゃをリュックに入れて…。

「おもち、病院じゃないからね。」

おもちの頭をなでてそう言ったら、わかったよとでもいうように尻尾をぶんと大きく振って自分からペットキャリーに入ってくれた。

「おりこうさんだね。
早く出してあげるからね…。」

玄関まで戻ってリビングから二人の声がしなくなったのを見計らって自分の部屋に行く。

リビングには脱ぎ捨てられたバスローブ。 
どうやらパパの部屋でお楽しみみたいだね。

お気に入りの服と制服のシャツとソックス、メイク道具と下着3日分。
パンパンにボストンに詰めた。

ペットOKのホテルに泊まろう。

パパのカードで好き勝手遊んでやろう。

バイバイ。
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