死ねない少女は異世界を彷徨う

べちてん

文字の大きさ
34 / 53
第2章

第34話

しおりを挟む
 暗く、どんよりとした空気のなかを、1歩1歩進んでいく。
 はじめはいつ騎士に襲われるか分からず、警戒しながら歩いていたが、どうやら城の外に1度でも出た時点で、攻撃対象から外れているらしい。
 騎士たちの横を堂々と通っていく。

 不気味な静けさに包まれる帝都に、私の下駄の奏でるカラコロという音が響き渡る。
 人々は皆一度は振り返るが、構っていられる余裕などないといった感じで、すぐに作業に戻ってしまう。
 帝国という機械を動かすための歯車のようだ。



 城へ近づくにつれ、すれ違う騎士の数が多くなっていく。

 そしてついた城門の前には、多数の騎士がいるようだ。
 鉄で出来たよっぽど壊れなさそうな大きな扉。高い城壁の上には騎士たちが弓を持って控えている。

『どうするんですか』

 そう、教えた念話魔法でマイヤが聞いてくる。
 魔人化した人間は、魔力によって様々な感覚が強化されている。
 もちろんそれは聴覚も例外ではない。

 この前裏道でこそこそ話していて、騎士が来てしまったのはそれが理由だ。

『突撃する。壁内に入ればそこは敵の本陣だ。何があるか分からない。気を引き締めて』
『はい』

 城壁の中に入った瞬間、大量の騎士に囲われるだろう。
 魔力吸収は使えない。なんとか倒すしかない。

 魔人は死後、放置しておけば魔力が抜けて魔人化していない人の死体と同様になる。
 ただ、故意の魔人化であり、常に魔力が供給されているため、おそらく1日ほど放置していればゾンビ化してしまうだろう。
 城壁内に入ってからそのタイマーが始まる。
 時間は1日。余裕を持って20時間ほどで終わらせたい。

『いくよマイヤ』
『はいっ』

 先手必勝。
 ブレスレットにためた魔力をふんだんに使い、確実に脳内で詠唱及びイメージを固めていく。

「いけッ!!!」

 私の手から放たれたのは、直撃寸前の隕石のように重く熱い巨大な岩だ。
 その岩は城門に直撃し、辺りを軽く吹き飛ばして小さなクレーターを作った。

「いくよ!」

 身体強化を足に集中して発動し、こちらに向かって襲いかかってくる騎士たちの隙間を縫うように、時にはその上を高く飛び上がって舞うように、一気に城壁内へと入っていく。
 それに必死に食らいつくマイヤ。
 同じように騎士の隙間をくぐり抜け、2人して城壁内へと侵入できた。

「マイヤ」
「今やります!」

 最初の攻撃によって城壁にあいた穴をマイヤが塞ぐ。
 その間に、私はあらかじめ魔法で確認しておいた城壁内への入り口を塞いでいく。
 これで完全に城壁の中と外で分断できた。

 城壁の外では、騎士たちがこちらへ向かって走ってきているのか、鎧の擦れるカチャカチャという音が鳴っている。
 ……誰一人として声を出していない。非常に気味が悪い。

 異変に気がついた壁内の騎士たちがどんどん集まってくる。
 魔力として吸収しやすい水、火、風系の魔法は使わない方が良いだろう。
 となると、先ほど使ったようにここから先は土系の魔法を使っていく。

「マイヤ、これを使って」
「分かりました!」

 アイテムボックスから、ベリネクスベルフェリネ王国国王から貰った剣を取り出し、マイヤへと投げる。
 マイヤはそれをノールックで受け取ると、重さを確認するように上から下へと一度振り下ろす。
 不気味に静かな辺りに、ヒュンッという風を切る音が響く。
 そして剣を軽く握り直して、近づいてきていた騎士の1人の首元に突き刺した。
 刺さった首から真っ赤な血が舞う。
 剣を引き抜くと、命を失った体は重力に従って倒れていった。

 その光景を横目に見ながら、土魔法で剣を作り出す。
 ベリネクスから貰った剣も手になじんで使いやすい。それに切れ味も良いし、私の魔力と相性が良い。
 ただ、やはり自身で作り出したものに比べれば使いやすさは劣る。
 多少の申し訳なさは感じるが、ここで無理に貰った剣を使って傷つくより、自分で作り出した剣を使った方がベリネクスも喜ぶだろう。

 私は魔法に長けている。
 それはもうご存じだろう。
 私が作り出した剣は、私の思考1つで形を変える。
 時には片手剣。時には両手剣になり、短剣になる。

 さて、目の前に鍵がなくて開かない扉があったとする。
 その鍵穴に剣を近づけて少しくにくにするだけであらびっくり。扉は開きます。
 とまぁ、使い勝手が良いわけだ。



 近づいてきた騎士をバタバタと倒していく。

「やっぱりこの形が使いやすいんだよなぁ」

 湾曲している短めの剣の柄をにぎにぎとしながらつぶやく。
 曲がっていると、相手と剣との接点が小さくなって少ない力で切れる気がするのだ。
 だからこの形を愛用している。

 魔法製の刀は便利だ。
 血がついても捨てて新しく作り直せば切れ味も良いままだ。

「マイヤ、そっちは大丈夫?」
「大丈夫です。全員片付けました」

 流れ作業のように首を狩っていたら、いつの間にか刈り尽くしてしまったらしい。
 地面にはたくさんの死体が転がっている。

 やはり人が死んでいる光景は辛い。
 私が元々いた国が、人の死体なんてまず見ない様な平和な国だったからだろう。
 傷ついた者を見るだけで胸がざわつく。吐き気を催す。

 でも、ここで吐くわけにはいかない。

 湧き上がる胃酸を押さえながらマイヤの方を向く。

「あ!? マイヤ怪我してるじゃん。大丈夫?」
「平気です」
「回復魔法は?」
「……それが、発動しようとすると魔力を吸われてしまって、うまく出来ないんです」

 アイテムボックスから椅子を取り出して、そこにマイヤを座らせる。
 脇腹に一本刀傷が入っていて、そこから血が垂れている。
 肉がえぐれるほどの傷ではないものの、相当痛いはずだ。絶対平気ではない。

 試しに回復魔法を発動してみる。

「ほんとだ。できないね」

 マイヤが言ったとおり魔力を吸い取られてしまう。

 回復魔法は魔力を放出し、空気を介して治療をするものだ。
 患部に手を当てれば発動するだろうけど、……きっと痛がるだろう。
 方法はあるっちゃあるけど……、まあ、マイヤならいいかな?
 いいや、やっちゃおう。怪我を治すためだからね。

「ごめんね」
「っん?!」

 マイヤの頬に手を当て、そっと唇を重ねる。
 やはり、こういうのは直接魔力を流して回復した方が良い。
 マイヤには申し訳ないけど、傷を治すためだと思って我慢してほしい。

 ゆっくりと時間を掛け、粘膜を介して確実に回復魔法を傷口に送り込んだ。

「よし。失った血液は回復しないから、これでも飲んどいて」

 唇に手の甲を当て、真っ赤に顔を染め上げているマイヤに、アイテムボックスから血液増量剤を取り出して渡す。
 脇腹に目をやると、傷は完全に塞がっている。



「ほら、いつまでもふわふわしてないで、早く進むよ」
「だって、だって……、ふぁぁああ……」
「もう! 早く行くよ!」

 ……ちゃんと説明してからやれば良かった。
 思ったよりマイヤは乙女らしい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

処理中です...