私は貴女に魅せられた。

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ある日のこと

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とある魔法帝国で王女の執事として働く、黒川。彼は世界中の人から愛される王女を密かに愛していた。それはその王女とこんなことがあったからだった…。

   王宮内
彼女は執務室で、国民からの要望が載った書類を眺めていた。
「うーん…結界の緩和が過ぎる。食料の生産が追いつかないため、王宮の食料を分けて欲しい。…妾の専門外ではないか!」
憤慨した彼女は書類が置いてある机を強くた叩いた。
「はあ…また回されたのか」
そこに私は紅茶を持って入った。
「お疲れ様でございます」
「…黒川か。おい、なぜ妾の専門外の要望が妾の方に回っているのだ」
「ほかの王族の方々がバカンスに出かけているのでどこにも行っていない殿下に全て回ったからです」
「全て!?…妾も出掛けてしまおうか」
「やめてください。貴女までいなくなってしまうと、大変なことになります」
「…わかってるよ。でもこのままじゃ過労死してしまう。」
そう言って彼女は、机に肘を乗せて頬杖をついた。
「頑張ってください。私も支えますから」
「はあ…お前も苦労が絶えないな。最近寝ていないだろう?」
どうしてわかったのだろうか。心を見られた気配もないのに。
「なぜわかったのか。か?お前の顔を見ればわかる。クマを隠しきれていないぞ」
そうだろうか。他の使用人たちには何も言われなかったのに。彼らは私が働いている様子を見て判断していた。
「他の王族がバカンスに行ってるってことはその分、彼らの使用人も其方に向かっておるからな」
「…」
その通りだ。彼女には全て筒抜けなのだろうか。
「まあ、仕方あるまい。お前も大変ならば頑張らねばな」
彼女は壁にかかった時計を見る。
「こんな時間だ。そろそろ寝るか、お前も仕事は程々にな。」
私は彼女を寝室に送り、彼女が眠ったのを見計らって寝室を出た。

    驚いた。今日の仕事はほとんど残っていなかった。そのおかげで私は早めに自分の寝室に向かうことができた。
ベッドに寝っ転がり、まぶたを閉じる。
…寝られない。
考え事でもするか。
   私はまだ余り彼女の事を心から忠誠していないと思う。いつも何処かで手を抜いてしまうからだ。彼女は私に尽くしてくれているというのに。その美しさも強さも、民からの信頼も全て忠誠するに足る物であるはずなのに。
   

彼女は私をよく見てくれているのに。

翌日。
どうやら考え込んでいるうちに眠ってしまったようだ。あまり楽になっていないが。
朝、彼女を起こすと彼女は国王の謁見に向かった。彼女の話によると、王族達が帰ってきて仕事が楽になるとのこと。
実は彼女は本来、離宮で暮らしているのだ。なぜなら彼女の担当地区は東地区であり、王都の本宮ではないからだ。今回は他の王族が出かけていて、居ないから臨時できているだけなのだ。

  ようやく肩を降ろすことができる。もちろん、本宮はどの離宮よりも絢爛豪華で美しい。だがその美しさでどうしても力が入ってしまう。情けない話だが、やはり離宮の方が落ち着くのだ。

彼女は箒に跨り、先頭を切って飛んだ。
我々も後に続く。目下には王都が広がる。民の街。護って行かなければな。といつもここに来るたびに思う。私はこの国が好きなのだと、自覚させられる。
目の前を行く彼女。彼女はとても優しい。過去にあんな事があってもそれを言い訳にせず、ひたすら努力している姿に私は魅せられたのだろうか。ならば私は彼女に魅せているのだろうか。

そんなことを考えていると、突然前を行く彼女が止まった。辺りを見渡している。
「如何されました?」
思わず私は尋ねた。
「天使の気配がする」
そう言って彼女は、拳を握って額に当てた。遠くの方を見るときに使う術だ。
「やっぱり…お前達、地上で民を守れ」
『はっ!』
後ろにいる使用人達は揃って返事を返した。彼女は真っ直ぐ王都へ向かって飛んだ。
そして、殿下と我々は散り散りになった。

     彼女の言葉通り、天使はまばゆい羽を広げて舞い降りた。
天使は皇族達と熱い戦いを繰り広げた。
我々は民を飛び散った岩や、火が降りかからないように守るのだ。全員必死だ。
なのに何故だろう。体が重い。飛ぶことすらままならない。どうしたのだろう。

すると大きな羽を持つ天使が巨大な槍を持って舞い降りた。
天使は槍を我々に向けて振り上げた。
私は愚かにも目を閉じて死を待っていた。

     その時、槍は遥か遠くへ弾き飛ばされた。そして天使は黒い闇に包まれて、消えてしまった。
そして、黒き魔女が舞い降りた。
「指揮官が王都から離れるなんてとんでもないことだぞ」
そう言って現れたのはあの王女だった。
王都からここまで飛んできたのだ。
私を助けるために。
「王都には妾の分身を置いてきた。まあ、もうすぐ妾達の勝ちだからそこまで気にするな」
「あの…なぜ?」
「お前は妾の執事だ。当然だろう」
さも当たり前のように言った。
彼女は遠方透し魔法を使って、戦況を確認し、勝利を確認した。
「さあ、離宮に戻るぞ。他の者はもう戻っている。」
「はい…」
私はふらつきながら、王女とともに離宮に戻った。


    その日の夜。彼女は私の寝室にやってきた。
私のそばに来て手を取った。
「やはりな…お前、魔力が全然ないぞ」
彼女はそう言った。私は驚いた。これまでの不調は魔力不足が原因だったのか。
「お前のことだ。体力を使い果たして魔力で補強して居たのだろう。しかも知らぬうちに」
「…」
「仕方あるまい。お前は妾の執事。多忙だものな。だが少しは妾を頼ってくれ」
そう言って、彼女は私を抱きしめた。
私は思わず涙をこぼした。
そしてキスをした。
「んっ…」
だんだんと熱くなる寝室。
私は彼女の優しさがたまらなく嬉しい。
魔力の補充には主に三つの方法がある。

    一つは狂気的に血を浴びること。
    二つは他の魔法使いから魔力を貰う事
    三つは互いの性欲を満たすこと。

夜は魔法使いが昂ぶる時。夜は魔法使いが魅せる時。夜は魔法使いが一番美しい。

私は彼女の腕に口付ける。優しく、滑らかに。
そういえば、彼女はいつも腕に魔力タンクの役割を持つ宝石を身につけていたが、どこにもない。それを彼女に言うと気まずそうにそっぽを向いた。

   全く…この人はなんて優しいのだろう。自分だって魔力が足りないくせに。
私はより強い力で彼女を抱きしめた。
「あっ……あぁ……ん、、…ぁぁ」
彼女の声は甘く響く。


     


   これは後から知った話だが、私の仕事が軽くなったそれはあの日、殿下が秘密裏に私の仕事を進めていてくれていたから、らしい。



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