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圧倒
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デュラウは真っ直ぐとドラゴンを見上げた。
しっかりと大地を踏み締める彼の姿には、恐怖など微塵も感じられない。
大剣を構えて一言だけ発する。
「一戦願おう」
途端にドラゴンの眼力が増した。
「驕るなよ──人間ッ!」
深く息を吸い込み、一気に吐き出す。
口から放たれたのは風などではなく、炎だった。
大量の火炎が空気を焼き尽くしながら、デュラウに向かっていく。
「ドラゴンの炎か。噂では熱に強い鉱石をも容易く溶かすそうだな。しかし、この剣を溶かすことが出来るかな?」
デュラウは大剣を地面に突き刺す。その影に隠れた。
大剣は盾のように、襲い掛かる猛火からデュラウを守る。
灼熱の焔。あまりの熱に地面が溶けるほどだった。しかしながら、大剣は溶けるどころか、わずかにも造形を変えずに主人を守り続けた。
炎の熱で刃がオレンジ色に発光していく。
やがて火炎放射は出し尽くされ、止まった。
辺りを焼き尽くし、黒煙が上がっている。
煙は徐々に晴れていき、ドラゴンはその先に立つ人影を見て目を見開いた。
「馬鹿な!? 我が炎でも焼けぬだと!?」
デュラウは火傷一つしていない。
「不変を謳う我が愛剣を嘗めないことだ」
デュラウは高温となっている大剣を、何の躊躇も無く手に取って構え直した。手は悲鳴を上げるように音を鳴らし、煙を発する。それでもデュラウは手を離さなかった。
「俺は剣士だ、魔法など使えん。ゆえに炎を吐いた貴様に炎を返すことも出来ない。だがな、この刃に移った熱を斬撃に乗せることは出来る。お返しだ」
大剣を大きく振りかぶり、
「うぉぉぉぉぉぉぉッ!」
オレンジ色の刃を全力で振り下ろした。
熱を帯びた斬撃が飛ぶ。まるで空間を裂くようなその一撃は、勢いを落とすことなくドラゴンに向かっていく。
斬撃音が鳴った。
遅れて、空から何か大きな物が落ちたような音と衝撃が轟く。ドラゴンの左腕だ。肩から下が綺麗に斬り落とされている。
そして、重い水音が響いた。 赤い液体。言わずもがな、ドラゴンの傷口から噴き出した大量の血だ。
グギャァァァァッ────。
ドラゴンが凄まじい悲鳴を上げた。
驚愕。困惑。恐怖。憤怒。
あらゆる強い感情が眼光に宿っていた。
『よくも──よくもやってくれたなッ、人間ッ!』
怒りを露わにしたドラゴンは翼を広げ、猛然たる勢いで滑空し、巨躯を活かして突進する。
デュラウは紙一重で回避し、躱しざまに太い首に一太刀入れた。だが、あまりの硬さに刃は通らず、大剣が弾き返されてしまう。巨体の中で最も細かった腕とは違い、首は──他の部位は全て見た目以上に強靭だった。
すかさず飛び退いて距離を取り、体勢を立て直す。
「さすがに硬い。ドラゴンの鱗はあらゆる鉱石よりも硬いと聞いたが、これもまた噂通りだな。いや、噂以上か。回避しながらではまともに刃が通らん」
ドラゴンは勢いそのままに方向転換し、再びデュラウに向かって突進する。
迫り来るドラゴンに、デュラウは大剣を下ろした。降参とばかりに。しかし、その眼には力強い気迫が込められている。
「ならば簡単だ。鱗の無い部分──」
デュラウは、突進してくるドラゴンに向かって自らも走り出した。
あっという間に距離が縮まる。
ドラゴンは、無謀にも駆けてくるデュラウを喰らわんと、人など容易く飲み込める大きな口を開いた。大口の奥は炎で赤く煌々と照らされており、人体など容易に溶けてしまうほどの熱を放っている。
確実な死がデュラウの眼前に広がっていた。
だが、死神は鎌を振り下ろさなかった。
食われようかという瞬間、デュラウがスライディングした。
迫る大口を避け、低く滑空するドラゴンの下に潜り込んだ。
「土手っ腹を裂いてやる!」
ドラゴンは慌てて高度を上げようとする。
しかし、デュラウはそれを許さなかった。地面を滑ったまま全力で大剣を振るう。
ドラゴンの発する羽ばたき音を、大剣が放つ鈍くも力強い風切り音が斬り裂く。
あまりにも強力な一撃が、ドラゴンの大きな腹部に傷を負わせてみせた。
『────ッ!』
ドラゴンの悲鳴が辺りに轟く。
痛みに負け、空を飛ぶドラゴンは地に落ちた。
巨体が落ちた衝撃で、また大きな地震が襲った。常人では立っていられないほどの揺れだが、デュラウはゆらりも立ち上がり、体勢を崩すどころか大剣を構える。
ドラゴンも、腹に刻まれた一文字から血を垂れ流しながらも、何とかして立ち上がった。
再び両者の眼が合う。
静寂が訪れ、過ぎ去っていった。
ドラゴンが口を開け、炎を吐こうとする。けれど、デュラウの一太刀が阻止した。ドラゴンが大きく体勢を崩す。今度は片足を斬り裂いてみせたのだ。切り落とすことは叶わなかったものの、立てなくなるには十分だった。
もう片方の足で踏ん張ろうとするが、そちらの足も斬り裂く。
ドラゴンは数秒で両足を奪われ、堪らず前に倒れ込んだ。
せめてとデュラウに向かって倒れるが、回避される。
俯せに横たわる巨竜。
すぐさま羽を広げるも、時すでに遅し。
首元へ移動したデュラウが大剣を振り上げた。
今度の死神の鎌は、決して違えず振り下ろされる 。
「終わりだ」
持ち主と同じく大きな体をした刃が振り下ろされ、眼前のドラゴンの首をバッサリと両断してみせた。
傷口から溢れんばかりの血が噴き出し、デュラウの銀色の鎧や兜を黒く染め上げていく。
しっかりと大地を踏み締める彼の姿には、恐怖など微塵も感じられない。
大剣を構えて一言だけ発する。
「一戦願おう」
途端にドラゴンの眼力が増した。
「驕るなよ──人間ッ!」
深く息を吸い込み、一気に吐き出す。
口から放たれたのは風などではなく、炎だった。
大量の火炎が空気を焼き尽くしながら、デュラウに向かっていく。
「ドラゴンの炎か。噂では熱に強い鉱石をも容易く溶かすそうだな。しかし、この剣を溶かすことが出来るかな?」
デュラウは大剣を地面に突き刺す。その影に隠れた。
大剣は盾のように、襲い掛かる猛火からデュラウを守る。
灼熱の焔。あまりの熱に地面が溶けるほどだった。しかしながら、大剣は溶けるどころか、わずかにも造形を変えずに主人を守り続けた。
炎の熱で刃がオレンジ色に発光していく。
やがて火炎放射は出し尽くされ、止まった。
辺りを焼き尽くし、黒煙が上がっている。
煙は徐々に晴れていき、ドラゴンはその先に立つ人影を見て目を見開いた。
「馬鹿な!? 我が炎でも焼けぬだと!?」
デュラウは火傷一つしていない。
「不変を謳う我が愛剣を嘗めないことだ」
デュラウは高温となっている大剣を、何の躊躇も無く手に取って構え直した。手は悲鳴を上げるように音を鳴らし、煙を発する。それでもデュラウは手を離さなかった。
「俺は剣士だ、魔法など使えん。ゆえに炎を吐いた貴様に炎を返すことも出来ない。だがな、この刃に移った熱を斬撃に乗せることは出来る。お返しだ」
大剣を大きく振りかぶり、
「うぉぉぉぉぉぉぉッ!」
オレンジ色の刃を全力で振り下ろした。
熱を帯びた斬撃が飛ぶ。まるで空間を裂くようなその一撃は、勢いを落とすことなくドラゴンに向かっていく。
斬撃音が鳴った。
遅れて、空から何か大きな物が落ちたような音と衝撃が轟く。ドラゴンの左腕だ。肩から下が綺麗に斬り落とされている。
そして、重い水音が響いた。 赤い液体。言わずもがな、ドラゴンの傷口から噴き出した大量の血だ。
グギャァァァァッ────。
ドラゴンが凄まじい悲鳴を上げた。
驚愕。困惑。恐怖。憤怒。
あらゆる強い感情が眼光に宿っていた。
『よくも──よくもやってくれたなッ、人間ッ!』
怒りを露わにしたドラゴンは翼を広げ、猛然たる勢いで滑空し、巨躯を活かして突進する。
デュラウは紙一重で回避し、躱しざまに太い首に一太刀入れた。だが、あまりの硬さに刃は通らず、大剣が弾き返されてしまう。巨体の中で最も細かった腕とは違い、首は──他の部位は全て見た目以上に強靭だった。
すかさず飛び退いて距離を取り、体勢を立て直す。
「さすがに硬い。ドラゴンの鱗はあらゆる鉱石よりも硬いと聞いたが、これもまた噂通りだな。いや、噂以上か。回避しながらではまともに刃が通らん」
ドラゴンは勢いそのままに方向転換し、再びデュラウに向かって突進する。
迫り来るドラゴンに、デュラウは大剣を下ろした。降参とばかりに。しかし、その眼には力強い気迫が込められている。
「ならば簡単だ。鱗の無い部分──」
デュラウは、突進してくるドラゴンに向かって自らも走り出した。
あっという間に距離が縮まる。
ドラゴンは、無謀にも駆けてくるデュラウを喰らわんと、人など容易く飲み込める大きな口を開いた。大口の奥は炎で赤く煌々と照らされており、人体など容易に溶けてしまうほどの熱を放っている。
確実な死がデュラウの眼前に広がっていた。
だが、死神は鎌を振り下ろさなかった。
食われようかという瞬間、デュラウがスライディングした。
迫る大口を避け、低く滑空するドラゴンの下に潜り込んだ。
「土手っ腹を裂いてやる!」
ドラゴンは慌てて高度を上げようとする。
しかし、デュラウはそれを許さなかった。地面を滑ったまま全力で大剣を振るう。
ドラゴンの発する羽ばたき音を、大剣が放つ鈍くも力強い風切り音が斬り裂く。
あまりにも強力な一撃が、ドラゴンの大きな腹部に傷を負わせてみせた。
『────ッ!』
ドラゴンの悲鳴が辺りに轟く。
痛みに負け、空を飛ぶドラゴンは地に落ちた。
巨体が落ちた衝撃で、また大きな地震が襲った。常人では立っていられないほどの揺れだが、デュラウはゆらりも立ち上がり、体勢を崩すどころか大剣を構える。
ドラゴンも、腹に刻まれた一文字から血を垂れ流しながらも、何とかして立ち上がった。
再び両者の眼が合う。
静寂が訪れ、過ぎ去っていった。
ドラゴンが口を開け、炎を吐こうとする。けれど、デュラウの一太刀が阻止した。ドラゴンが大きく体勢を崩す。今度は片足を斬り裂いてみせたのだ。切り落とすことは叶わなかったものの、立てなくなるには十分だった。
もう片方の足で踏ん張ろうとするが、そちらの足も斬り裂く。
ドラゴンは数秒で両足を奪われ、堪らず前に倒れ込んだ。
せめてとデュラウに向かって倒れるが、回避される。
俯せに横たわる巨竜。
すぐさま羽を広げるも、時すでに遅し。
首元へ移動したデュラウが大剣を振り上げた。
今度の死神の鎌は、決して違えず振り下ろされる 。
「終わりだ」
持ち主と同じく大きな体をした刃が振り下ろされ、眼前のドラゴンの首をバッサリと両断してみせた。
傷口から溢れんばかりの血が噴き出し、デュラウの銀色の鎧や兜を黒く染め上げていく。
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