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災厄の魔王~戯れ~

潜入

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そこは奴隷売買をするには、あまりにお粗末な寂れた居酒屋だった。
ヴェルスレム自身、聖王の膝元にこんな寂れた通りがあること自体、記憶の片隅に置かれていた。
幾つもの細い道を過ぎて、舗装もされてない煉瓦造りの道が轍の跡にそってへこんでいる、漂うのは汚れた匂いと安物の娼婦の纏う香水。
聖王が獣人たちに攫われて急速に治安が悪化した弊害が民の末端には既に影響しているのだ。
″海賊殺し・レッタンダム″からの報告がなければ、地下コロッセオを改装した奴隷売買が行われていること等、掴めなかっただろう、もともと兵士たちも足を踏み入れたがらない場所だ。
“目的”がなければ、とうてい足を向けないだろうと思われた。

普通貴族なら馬車を使うが、ヴェルスレムは馬を使って、その居酒屋まで部下たちと足を向けた。
貴族のお忍びに見える様に仮面をつけて、馬を進めれば貧しい者たちが薄汚れた服に目だけはギラギラとこちらを見上げてくる。肌も服も汚れている彼等であるから白目の輝きだけが、やけに突き刺さってくる。
それは施政側であるヴェルスレムを批判しているようですらある。
だがヴェルスレムはこういう者は最近、聖都に着いた者たちが殆どだと知ってる。
聖都は奴隷売買は禁止されている。それだけでも彼等には救いなのだ。まして聖王は流民に対して慈悲深く、順に家や仕事が出来る様に法を整え、都市を開発し続けている…彼等はまだ慈悲を受けれない本当に数日前などに来た者たちなのだろう。

「彼等だけではない」
ここで自分が彼等に何かをすることは簡単だ。
けれどそれは根本的な解決にはならない…が、それでも騎士として聖王の留守を預かる身でそれは良いのだろうかと声がした。
(王よ―…)
こんな時、王であるならば何をしただろう…白亜の城で光り輝く王の姿が浮かぶ。ギュッと握りしめた手綱を握りしめる。思考は永遠とも思えた…だがヴェルスレムはそこで馬蹄を止めることは無かった。

(騎士とは王のための者-…なにより我らの全ては王のために)
それは、彼の中での残酷な真実であった―…だからこそ偶に彼は分からなくなるのだ。

(自分の意志が罅割れる。)

アーサー王に執着し、彼を死にすら追いやったランスロットと、アーサー王の聖性を欲し、彼を裏切ったモルドレット。二人の魂の欠片は時にヴェルスレムという人格すら焼きつくそうとする。

【王よ、王よ。我が王よ―…何処に在らせられるのか】

焼き付くような二人の執着はアーサー王へと絡みつき、ヴェルスレムがシュレイザードに感じている感情すら引き摺られる。だが、その中でも決して変わらないのは、

(俺が命をかけて守るべき人は、俺の剣の主だということだ-…)

***

やがて寂れた宿屋に辿りついたヴェルスレム達は聖騎士一人に馬の世話を任せ、住人で中に入り込むことにした。
「奴隷売買をするような連中に大事な馬を預けられるとも思えん」
そう発したヴェルスレムに部下たちも同感な様だった。鍛えられた軍馬はそれだけで逃走用の足として使われれば厄介だ。奴隷売買を後々に摘発する意味でも、奴隷商人に馬をくすねられる訳にはいかなかった。
ヴェルスレムは宿の造りの雑な木の扉の前に立ち、その扉を開いた。瞬間、薄暗さの中で埃と安っぽい酒の沈み込んだような匂いがする。
目が暗がりに慣れないながらも視線を隙無く動かせば部屋の中に大勢の人がいることがわかった。

顔が此処聖都で売れているヴェルスレムは今は〝姿変えの魔法″で銀髪とオッドアイのランスロット卿の姿をしているが、その容姿に周囲の人々が息を飲んでいるのが分かる。
別に他の姿でもいいのだが魂の欠片を持っている人間の姿であると魔法が安定しやすい。
騒がれることよりも実用を選んだ。

そしてフッと視界の隅にフードを深く被った青年を映す、なにか惹かれるものを感じるが青年の隣に佇む二人の男が只人ではない風情だったので、どこかの“貴族”かと視線を流した。余計な揉め事は御免だ。
 
そして視界を流した先に見知った者を見つけた。アギール商会のアギール。聖王の幼馴染でもある凄腕の商人だ。金がかった茶髪に、金のピアス、やや釣り目がちだが鋭い美貌の八重歯が覗く男。
(この男は奴隷売買といった薄汚い商売はしないと謳っていた筈…)
なにか理由があるのかもしれないと、ヴェルスレムは彼を通り過ぎながら思う…姿変えの魔法故かアギールにはヴェルスレムとばれていないようだった。



それよりも奥へ足を進め、カウンター越しに店員と視線を合わす。
「いらっしゃいませ」
「特別なものを購入するために来た」
濁った眼の男だった。その目でこちらを値踏みするようにジロリッと見て、俺の言葉を聞くと、ニッと黄ばんだ歯を見せて嗤った。どうやらお眼鏡にかなった様だ。
銀のマスクに、服も武器も、後ろの部下たちも“貴族とその護衛”と見えるようにしているから、さもあらん。

やがて時間になって、他の客や俺達も奥の地下に通じる階段からすり鉢状の闘技場の一部を改装したようなオークション会場に案内された。俺達は上客と判断されたのだろう。真っ先に「どうぞ旦那様方」と声をかけられた。

歩く間も見張りの位置や、魔法の有無を確認しておく。ランタンを持った先導の男は武器は持っていない。
煉瓦作りの広い階段には落石防止用の魔法がかけられているところを見ると、この地下コロッセオは古いものだろう。
やがて巨大で鉄鋲が打ち付けられた扉と仮面を被った警備員がいる広間へ出る。警備員の腰には剣。切れ味は悪そうだ。そして男が「客だ」と告げれば、ギギッと重い音をあげて扉が開かれ、その扉の向こうに豪奢な円形状の舞台が光をあびて存在感を放っていた。

「ではここら辺にしよう」
そういって俺達が陣取ったのは出入り口に近い場所の右側。
万が一、奴隷商人たちを捕らえる事態になったときは彼らが逃げ出そうとしても入口を塞げ、また自分たちが扉を突破して逃げやすい位置だった。
暫くすると反対側の左側の席に、先程気になったフードを被った青年が座っているのが見えたので、何となく目で追っているとフッと顔を上げた青年のフードの奥の顔がチラリッと見えた。
それは見事な深緑の瞳が煌めいている…かつてのアーサー王と同じ切ない色の瞳。
追おうと思っても直ぐに伏せられたので顔をハッキリとは見ることは無かった。


―…そして、醜悪な奴隷売買の幕が上がった


(話は聞いていたが奴隷売買とは、こんなにも酷いのか。)

ヴェルスレムは仮面の奥から醜悪な見世物が始まった舞台上を睨みつけていた、周囲の部下たちも一様に眉をひそめている。
聖王の片腕として国の重鎮として、獣人たちが〝種族″として置かれている現状は知っていたし、聖王の旗下に入る以前。〝流れの風の者″だったときに奴隷は見たことがあったが購入場所に行ったこと等なかったから知らなかった。

舞台上では“隷属の首輪”をつけられた男の獣人が、知り合いとも見れる女の獣人を嬲ろうとしている場面。
(こんなものを見て喜ぶような悪趣味さは持ち合わせていない!)
沸々と湧くのは怒りだ。きっと女の方は男の獣人と親しかったのだろう泣きじゃくっている。切れ切れに男の名を呼んでいるのが分かった。たとえ彼女が猿轡をしていても切々と響く声は消せるものではない。

「この女も良い声で啼きますので、どうぞ旦那様方の手で鳴かせてやって下さい」

舞台上の奴隷商人のおぞましい声音が頭にガンガンと響く。
怒りで目の前が真っ赤に染まりそうになった時、聞こえてきたのは周りにいた部下の声だった。

「ヴェルスレム様、こんなことは許されぬべきですっ」
「騎士の誇りの為、彼女を救いましょう」

聖都を守る聖騎士たる彼らは、ここまでの光景を見たことが無かったかもしれない。
彼らの目には不条理に対する強い怒りがあった。真っ直ぐで曇らぬ瞳の光にヴェルスレムはすぐに心を決める。

(辛い思いをしているものは多くいる、自分がここで彼女一人助けてなんになる。
騎士は王の為のもの…けれどやはり動かなければ何も変わらないのだと。)

さっき貧民を見て思ったことも、また同じように思うが、今はこの手に助けられる力があるのだ。
だからこそヴェルスレムは立ち上がり声をあげた、まさにそれは騎士たる者の姿だった。



獣人の奴隷を買い占め、コミュニティ同士の繋がりが深い彼等から聖王シュレイザードを攫った“夜鷹の盗賊団”の情報を集める。それが課された使命であることは忘れていない。
だからこそ獣人たちは奴隷商人から買わなければならないし、その延長線上で獣人の女性を助けになるのなら、それは喜ばしいことだ。

だが俺達とは反対側の席で凛と響く声が、俺と奴隷商人との間で纏まりそうだった商談を引き留めた。
視線を向ければ、あの深くフードを被った男だった、悠然と足を組み替えている…まだ顔は見れない。
だがそんな男の余裕さも次に出た奴隷商人の“貴方達には売れない”という言葉に驚いたようだった…どうやら彼等は俺達が奴隷売買に参加する前日に奴隷を全て買い占めたらしい。今日の初セリでは奴隷を他の客に譲るのは筋だろう。だが条理すらねじ伏せる様に、フードを被った男が立ち上がる。
そして朗々と響く声でコロッセオの人々に言ったのだ。



「5000000リラでどうだ?」

相場よりも1000倍高い提示価格。それににコロッセオに集まった人々が色めき立つ。
奴隷商人もまさかそこまで出すと思っていなかったのだろう、ヴェルスレムとフードの男とを困ったように交互に見た…それにクツッと笑う。フードを被った男に興味がそそられる。

「…なにか別に理由でもあるような提示の額だな」

静まり返ったコロッセオでやけに大きくヴェルスレムの声は響いた。
自分に視線が集まっていることを利用しながら彼はなおも言葉を続ける。

「奴隷を前日から買い占め、その奴隷を何に使うつもりだ…盗賊にでもなるつもりか?」

獣人は“流浪の民”…彼等には安息の地など無い。
故郷を奪われ、奴隷商人に駆られながら彼等は生きるために盗賊へ落ちてゆく…それを知っているからこそヴェルスレムが敢えて選んだ言葉。
それにフードを被った青年はヴェルスレムに凛と顔を向けた、フードの奥からキラリッと緑色の瞳が宝石のように光って、そしてそのフードを取り払う。
ふわりっと柔らかなそれがなくなって二人の視線を遮るものがなくなり…ヴェルスレムは驚愕した。

「彼等は好きで盗賊になるわけでは無い。
私も“首輪の主”として彼等に相応しく仕事と生活と希望を与えた…人を買うとは、そういうことだ。」

神の御手によって造られたような完璧な美貌。
金髪と深緑の瞳…それは古のアーサー王の姿だとヴェルスレムは一目で分かってしまう。
心臓が掴まれたような衝撃にヴェルスレムは時間が止まったかのような錯覚すら感じた。
図らずも自分も今は過去世の姿でいる―…嗚呼、抱きしめて攫ってしまいたいと瞬間、想った。

銀髪にオッドアイの騎士と、金髪碧眼の王。
二人が並ぶ姿は一枚の宗教画のように美しい。

「ヴェルスレム様、如何しますか」
そんな彼を引き戻したのは押し殺して彼を呼ぶ部下たちの声だ。
いまだ席に着きながらも急に黙ってしまったヴェルスレムを気遣い見上げてくる彼らの言葉に心が落ち着いてくる。自分のなすべきことをしなければならない。ヴェルスレムは自分の心を揺さぶる青年に向き直った。

「そういうつもりで言ったわけでは無い。だが買い占めて他の者に奴隷が行き渡らぬのは不公平だろう。
貴殿と同じ理由で奴隷を欲している者がいるのだから。」
その言葉に周囲から賛同の声があがる、どうやら昨日買い占めたせいで彼等は敵を作っているようだった。
そしてその周りからの圧力は奴隷商人たちがヴェルスレム側に回らせるのに十分な威力があった。

「皆様、ではお客様である皆様の声を汲み取りまして、初回買い付けのお客様に優先的に商品を販売いたします!!」
コロッセオの舞台上で奴隷商人がそう朗々と明言したのだ。
法外な利益よりも、聖都の富豪たちに目を付けられることを恐れたのがありありと分かる。
それはフードを被った青年の敗北であり、ヴェルスレムの勝利で…奴隷商人は続けてこう言った。
「この獣人の女は、銀髪のそちらの旦那様へお譲り致します」と。


舞台でカンカンと木槌が打ち鳴らされ“初セリの終了”を告げる音がいやに大きく響く。
視界の端で銀髪の青年がこちらを見つめているのが分かったが俺はざわつく心を抑えるのに必死だった。
隣のレガンとフルレトは救えなかった同胞を思い、拳を白くなるまで握りしめている。
言葉は無かった…ただ三人で奴隷オークションにかけられた仲間を救えなかった無力感を噛みしめる。

壇上では既にマスカレードを付けた奴隷商人が「次は最終日から移動になった魔族の男の落札を開始いたします!!」と客たちを煽っている。醜悪な人身売買の世界が目の前にある。
(そういえばこの魔族の男を助けようか迷っていたんだった。)
でもそれを行動に起こすことは獣人の女性を助けられなかった俺には憚られた。
それに魔族の男とあって“戦闘奴隷”にでもするつもりなのか、続々と手が上がっている。
昨日、大量に奴隷を買った俺達でない〝初めて買い付けの客″であるから、俺が手をあげても彼は助けられないだろうことは分かっていた。

「30000リラで開始いたします!」
だから俺はスッと席を立ち、訝しむレガンとフルレトに向き直った

「少し動いてくる」
そして彼らの返事を聞かずに、するりっと足を動かして“彼”の元へと向かう。何か言おうとしたフルレトをレガンが押しとどめているのを横目に。
“彼”はまるで予見でもしていたかのように俺をジッと見ていた。輝くような銀髪にオッドアイの瞳。
一歩踏みしめる俺の動きを全て彼が見通すようにその瞳に映している。

遠くで奴隷オークションのセリの声が響いているのに、自分の心臓の音がドクドクと聞こえた。
俺のこれからの動きで奴隷の彼女の運命がかわるのだ、〝人の人生を取り戻しに行く″のは勇気がいった。

「失礼、貴殿に折り入ってお話があるのですが。」

頭の先から爪先まで貴族のような出で立ちでありながら男はまるで武人のような雰囲気を持っている。
彼の周りの男たちが一斉に俺に警戒を払い、さり気無く剣をいつでも抜ける体勢になったことがわかった。
素人であったなら絶対に気付かないようなさり気無さで、彼等はよく訓練された兵士のようですらある。

そんな男たちを頷き一つで抑えた男はスッと優雅に立ち上がると、銀髪をサラリッと揺らして俺に視線を投げかけ「場所を変えようか?」と言った。

◆◆◆
コロッセオ内の壁にかけられている炎が揺らめくように辺りを照らし、先を行く銀髪の青年と連れだって歩けば硬質な石畳の音が反響した。
オークション会場から場所を変えてコロッセオの複雑に入り組んだ回廊に回り込む。ここは客に解放されているエリアだがオークション解放中の今は人目は無い。

そんなことを思っていると先を歩いていた彼がクルッと振り返った。
引き込まれそうなオッドアイ。文化的にこの世界では二色を持つ瞳を持つ者は忌まれる傾向にあるので彼の姿は珍しいが…それを補って余りあるほどに美しい。
青年は隙無く辺りに目を走らせると俺の話を促すように頷いたので俺は口を開く、

「…貴方は何の為に彼女を買い求めた?…こんなことを言うのは失礼かもしれないが奴隷のような扱いはして欲しくない」
青年は俺の言葉に微笑んだ。見るものをとかすような柔らかい光を宿している。

「私の主の誇りにかけて、そのようなことはしない誓おう」

声音から伺える主への深い親愛に俺は瞳を見開く。青年は一目で〝人の上に立つもの″だと分かる。
彼ほどの人物を従える〝主″とは―…。

◆◆◆

目の前の相手の緑色の瞳が零れ落ちそうなぐらい見開かれて…喘ぐように、目の前の青年の唇が薄く開けられるの見た。それにヴェルスレムは思わず白手袋をはめた手を伸ばして撫ぜれば布越しですら、その唇は柔らかい。
男なら吸い付いてみたいと思わせるような感触だと、ふと思えて直ぐにその考えを打ち消した。
(なにを不埒なことを)
だがそう思った矢先に、相手の金髪が壁の炎に照らされて絹のように輝く様が美しくて、相手がその透明感ある瞳を瞬けば、ドクッと心臓が高鳴った。こんなこと不躾だと思いながらも、動かす手を止めることなく頬をつつむ。

「俺は、貴方に逢ったことがなかったか?」

(遠い、遠い昔―…それこそ伝説にもなるような遠い昔に―…)
ヴェルスレムの中のランスロット卿とモードレッド卿の魂が揺さぶられる。胸が痛い。
記憶の遥かむこうの、遠い昔に逢った気がした。

「まさか―…」

仮面が外される。俺の姿を青年が見つめて息を詰めるのを見ていた。
―…まさにその瞬間、人々は音を聞いた。
―…死を齎す強大な音を。

◆◆◆
がぁぁぁぎゅあああああああっ

骨が軋むような音がして、落石防止の魔法がかかっていた筈のコロッセオの石が崩れてゆく。
目の前の青年を庇い抱きとめるヴェルスレムは天井を見上げた。圧倒的な力によって地面が裂け、コロッセオのあちこちに石が崩落してゆく様は悪夢の様だった。ましてや此処は〝地下″につくられた闘技場。
地を切り裂き、圧倒的力で何者かが此処へ侵入しようとしている―…そう判断したヴェルスレムの行動は早かった。青年の肩を抱き寄せると「離れるなっ」とだけ告げ、さっき歩いた回廊を今度は物凄い速さで走り抜けた。
まるで地面すら震えているようだった。
「危ないっ」
思わずヴェルスレムに庇われていた青年が目の前に落ちてきた石に声をあげる。
だがその石はヴェルスレムが手を振るえば粉々に砕け散った。
「つっ」
腕の中で青年が驚きで身じろぎするのも感じながら、ヴェルスレムはだが足を止めることは無かった。
◆◆◆

やがて奴隷オークションが開かれていた会場へと二人は辿りつく…だがその会場は凄惨な状態だった。
円形状だったから特に落石が酷い。入り口付近に陣取っていたヴェルスレムの仲間の聖騎士たちが必死に場の〝要″となって落石防止の魔法で防いでいるが、倒れ伏した人々や、悲鳴を上げる奴隷たち、逃げ惑う奴隷商人や奴隷買い付けの客たちが秩序なく入り乱れていた。

がぁぁぁぎゅあああああああっ

その時、より一層、人の悲鳴のような何かを磨り潰すような大音声が響き渡り、ギリギリと何か白いものが8本天井から地下へと生えてきた、まるで地面をこじ開ける様なそれは何故がところどころ節くれだっている。

「あれはっ!!!」
ギリギリっと開けられた隙間から赤い瞳孔が覗いた。まるで赤い満月のようなそれ。
ぎょろりとコロッセオの人々を見渡した赤い目。それによって力ない者たちはバタバタと意識をなくしていくのをヴェルスレムは視界の端に収めながらも…それとハッキリと目線を合わせた

「弱い者は目を伏せろっ!デスウォーカーだ!!!!」
〝死の上を歩く者(デスウォーカー)″人を見下ろす巨大な髑髏の姿をしており、その髑髏に嵌まった赤い瞳は弱い者を気絶するだけの力を持っている。そしてデスウォーカーが何より恐ろしいのは、その気絶させた者達が聖職者に意識を引き上げてもらわなければ、そのまま死へと至るということだ。

「なぜこんなところに!!!!」

ヴェルスレムの叫びは、苦痛に彩られていた。
なぜならデスウォーカーは〝目線を合わせる者が多い人口密集地“であればあるほどに被害が甚大になるからだ。
聖都であればその被害は計り知れない。
やがてデスウォーカーはコロッセオ地下へと貫いた、その巨大な指を力任せにこじ開けた。
だからこそコロッセオを構築していた石が雨の様に中にいた者たちを襲ったのだ。
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