俺らが好きなのはキミだけっ!

コハク

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第1話:加速していく勘違い、妄想、そして恋心

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 皆さんはじめまして!ぼくの名前は櫻木さくらぎ みどり星彩せいさい高等学校という男子校に通う、ごく普通の高校一年生です。
 ……あ、ごく普通というのは違うかもしれません。なんでって?……実はぼくには、友だちにも家族にも言えない趣味があるんです。

「櫻木くん、おはよう」

 校門をくぐった時、柔らかい声が聞こえてきた。振り向くと真面目な雰囲気の上級生が、ぼくに向かって笑みを浮かべている。
 黒い短髪とキリッとつり上がった目、そしてスラリとした体型が目につき、制服もカッチリと着込んでいる。

「友沢先輩!おはようございます!」

 この人は三年生で星彩高等学校の生徒会長、友沢ともざわ 幸人ゆきと先輩。図書室で探し物に困っている時に助けてくれたことがきっかけで、よく勉強を教えてもらっている。
 生徒会長の友沢先輩から親切にしてもらうというのは、ちょっと恐れ多いけど……ね。

「最近どう?授業で困っているところはないかい?」

「うーん……あ、昨日習った数学の問題でどうしてもわからないところが__」

 その時、友沢先輩の後ろから、褐色肌の大きな手がぬっ、と伸びて来るのが見えた。

「ゆーきとっ!おはようさん!」

「うわぁっ!?」

 人懐っこい声と共に、伸びた手はそのままがばっと友沢先輩の上半身を捕まえる。その手の持ち主……長い髪を後ろでくくり、制服を少し着崩した男を、友沢先輩は驚いた表情のまま見つめている。

「こら怜央!びっくりするじゃないか!」

「はは、わりぃわりぃ、お前があんまり櫻木ちゃんと楽しそうに話すから、妬けちまってな?」

 怜央……大神おおがみ 怜央れお先輩は、友沢先輩と同じく三年生で、バスケ部のエース的存在だ。
 友沢先輩曰く、2人は幼なじみの関係らしく、そのため一緒にいることが多いらしい。……一緒にいるというか、大神先輩が友沢先輩にちょっかいを出している感じだが。

「いやほんと、お前櫻木ちゃんばっかり構いすぎ。俺の方がお前と付き合い長いのにさー……」

「わかったわかった、子供みたいに拗ねるのはやめろ……」

 唇をとがらせる大神先輩を、呆れながらも友沢先輩が宥める。
 大神先輩が友沢先輩の隣に立つだけで、周囲にいた生徒はざわついている。
 それもそのはず、スポーツ万能な兄貴分・大神 怜央と、学校一秀才な王子様・友沢幸也は、星彩高等学校の所謂いわゆるツートップ。
 その評判は、よその学校でも噂になっているほどだ。

 ……そんな2人の間に、ごく普通の生徒……にしか見えないぼくが割って入るのはさすがに良くない。

「すいません、ぼく朝休みのうちに、教室の花瓶の水変えなきゃいけないので失礼しますね」

「あっ……うん、じゃあね……」

 儚げな笑みを浮かべながら手を振る友沢先輩に背を向けて、ぼくは昇降口を目指して駆け出した。

 ちなみに、花瓶の水を変えなくてはならないというのは2人から離れるための口実だ。
 なんでそんなことを言ったのかって?だって……。


 推したちの邪魔はしたくないじゃないか!!


 ……実を言うと、ぼく、櫻木 碧はBL……所謂男性同士の恋愛が大好きな腐男子なのです。BL漫画やアニメを見ることはもちろん、自分でBLもの小説を執筆するのも趣味にしています。
 ……友達や家族には隠してるけどね。

 そんなぼくの最近の推しが、友沢先輩と大神先輩。入学して間もない頃、学校のツートップである2人の噂を聞いた時から気になってはいた。
 けれど、実際に王子様イケメンと兄貴分イケメンの2人を目にした時、湧き上がる萌えとインスピレーションが止まらなくなってしまい、気づくと2人が話しているのを目で追ったり、2人が会っているのをこっそり見守るようになっていた。
 もちろん、2人を元にしたBL小説も書いちゃったりしている。

 ……とまあ、そういうわけで。2人が推しのぼくとしては、2人の時間を邪魔するというのは避けたいところ。
 あくまでも壁として、2人を見守る存在に徹していたいのだ。

 あぁちなみに、ぼくはこう見えて妄想と現実の区別はしっかりとつけるタイプ。小説にする時はあくまでも、登場人物は友沢先輩や大神先輩とは別の人物として書いている。
 ましてや、友沢先輩と大神先輩に、実際に付き合ってほしいだなんて思っていない。

 妄想は妄想、現実は現実。そこの線引きはきっちりと。

 ……と、思っていたのだけれど。





「……幸人、この後ちょっと校舎裏に来てくんない?」

「……え?」

「大事な話……あんだけど」

 なんて場面を偶然見てしまったら、期待せざるを得ないのだが……!?



 ……放課後、友沢先輩に借りていた参考書を返しに三年生の教室に来てみれば……とんでもない会話を聞いてしまった……。
 というだけですぐにと決めつけてしまうのは、腐男子のサガかもしれない。
 でも、大神先輩のあのいじらしい表情……もしかすると、もしかするのでは!?

 そうと決まれば、早速校舎裏へ!……邪魔をしないように、見守るだけなら、いいよね?
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