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母親と、サースたちが集まる学園に来たのは、ついさっきの事だ。
サースとは、サクリファイスの略。異能力を持った人間の事。私も今日突然異能力を持ってしまったみたいで、国からこの学園に呼び出しを受けた。
今は校長室みたいなところで、母親が黒いスーツの人からなにか話を聞かされている。私もその隣にいるけど、話が難しくて全く理解できなかった。
「あの、結構難しいんですね」
どうやら理解出来ていないのは母も同じだったようだ。
「そうですかね。まあ簡単に説明させて頂きますと、娘さんは世界初の女性のサクリファイスであり、そして世界初の後天性サクリファイスなのです」
「世界初なの?私」
やっと話がわかりやすくなり、目の前に置かれたオレンジジュースをちゅーっとストローで吸って黒いスーツの人に尋ねた。
「はい。間違いなく」
「だってよお母さんどうするよ」
氷だけが残されたコップを机に置くとカランという気持ちのいい音が部屋に響く。お母さんは突然すぎる出来事に頭を悩ませていた。
「申し訳ありませんがお母様。悩む権利は無いのですよ。サクリファイスは国で厳重に預かることが決められています。娘さんにはこの学園に、男として入学して頂きます」
黒スーツは淡々と説明をこなす。私は机に足をドンと載せた。お母さんのと私の、ふたつのコップがぐらぐらと揺れる。
「急すぎんじゃねえの。考える権利もないって、どういう事だよ。自分の娘自由にさせねえって言いてえのかよ」
黒スーツは私の足を邪険な目で一瞥して、口を開いた。
「・・・・・・あなたはそれ程重要な人材なのです」
「はぁふざけんな。私はそうやって大人の都合で勝手に決めつけられるのが大嫌いなんだ!!」
そう叫ぶと、母がそっと私の足に触れた。
「娘の言う通りだと思います。家族の時間を引き裂く気ですか?」
母は真っ直ぐに黒スーツを見つめた。黒スーツは呆れた顔をしてため息をひとつ。そして、次のように言った。
「これは、強制なのです。まこと様。あなたはここにいなくてはいずれ母親にも迷惑がかかるのですよ」
「・・・・・・どういう事だよ」
「あなたの異能力は“カタストロフィ”といいます。これは、周りの人を不幸にする能力なのです。それは今日の朝の出来事で十分承知していると思っていました。あなたは母親をもあのような目に合わせる気ですか?」
「やめろ!言うなよ。思い出させるな、あれが私のせいなんて。言わないでくれ」
私は立ち上がり、拳を強く握りしめた。
「わかったよ。私入るよ」
「・・・・・・まこと?」
お母さんが寂しそうな目でこちらを見る。目を合わせていては、泣いてしまいそうだったからすぐに黒スーツに視線を移した。
ごめんね。お母さんだけは私が守るってお兄ちゃんと決めたの。
「・・・・・・うるせえ。さっさと帰れよ」
「まこと!」
お母さんも立ち上がった。今にもビンタされてしまいそうなほどお母さんは怒っていた。
「お母様、こういう事ですので。まことさんの意思を尊重して下さい」
母はぐっと下唇を噛む。そして泣いていた。私の手を掴んで。
「まこと。それがあなたの意思なら。私は帰るわ」
最後に少しだけ私の手を強く握って、お母さんは部屋を去っていった。
「・・・・・・良かったのですか?こんな言い方で」
「いいの。で、私はこれからどうすればいいの」
「そうですね・・・・・・。髪を切りましょうか」
黒スーツはくすりと笑った。
「は?なんでよ」
常備しているのか、腰あたりにあるポケットから散髪用のハサミを取り出す。
そして私にゆっくりと近づいてきた。
「先程も言いました通り。あなたには学園で男として生活していただきます。まあ詳しい理由は後ほど」
黒スーツは私を椅子へ誘導すると、さっそく容赦なく髪を切り始めた。
はらはらと茶色い髪が落ちていく。
「まあ別に髪なんかどうでもいいんだけどさ・・・・・・」
髪を切られながら、先程の自分の態度を反省した。
「私どうせここから出られないんでしょ」
「あら、よくわかっていらっしゃいますね」
もうしばらくお母さんには会えない。さすがに冷たくしすぎた。
「・・・・・・ならますます髪なんてどうでもいいわ」
今日は晴天。はらはらと舞う私の茶色と目から一滴溢れた涙が、太陽に照らされて明るく光った。
サースとは、サクリファイスの略。異能力を持った人間の事。私も今日突然異能力を持ってしまったみたいで、国からこの学園に呼び出しを受けた。
今は校長室みたいなところで、母親が黒いスーツの人からなにか話を聞かされている。私もその隣にいるけど、話が難しくて全く理解できなかった。
「あの、結構難しいんですね」
どうやら理解出来ていないのは母も同じだったようだ。
「そうですかね。まあ簡単に説明させて頂きますと、娘さんは世界初の女性のサクリファイスであり、そして世界初の後天性サクリファイスなのです」
「世界初なの?私」
やっと話がわかりやすくなり、目の前に置かれたオレンジジュースをちゅーっとストローで吸って黒いスーツの人に尋ねた。
「はい。間違いなく」
「だってよお母さんどうするよ」
氷だけが残されたコップを机に置くとカランという気持ちのいい音が部屋に響く。お母さんは突然すぎる出来事に頭を悩ませていた。
「申し訳ありませんがお母様。悩む権利は無いのですよ。サクリファイスは国で厳重に預かることが決められています。娘さんにはこの学園に、男として入学して頂きます」
黒スーツは淡々と説明をこなす。私は机に足をドンと載せた。お母さんのと私の、ふたつのコップがぐらぐらと揺れる。
「急すぎんじゃねえの。考える権利もないって、どういう事だよ。自分の娘自由にさせねえって言いてえのかよ」
黒スーツは私の足を邪険な目で一瞥して、口を開いた。
「・・・・・・あなたはそれ程重要な人材なのです」
「はぁふざけんな。私はそうやって大人の都合で勝手に決めつけられるのが大嫌いなんだ!!」
そう叫ぶと、母がそっと私の足に触れた。
「娘の言う通りだと思います。家族の時間を引き裂く気ですか?」
母は真っ直ぐに黒スーツを見つめた。黒スーツは呆れた顔をしてため息をひとつ。そして、次のように言った。
「これは、強制なのです。まこと様。あなたはここにいなくてはいずれ母親にも迷惑がかかるのですよ」
「・・・・・・どういう事だよ」
「あなたの異能力は“カタストロフィ”といいます。これは、周りの人を不幸にする能力なのです。それは今日の朝の出来事で十分承知していると思っていました。あなたは母親をもあのような目に合わせる気ですか?」
「やめろ!言うなよ。思い出させるな、あれが私のせいなんて。言わないでくれ」
私は立ち上がり、拳を強く握りしめた。
「わかったよ。私入るよ」
「・・・・・・まこと?」
お母さんが寂しそうな目でこちらを見る。目を合わせていては、泣いてしまいそうだったからすぐに黒スーツに視線を移した。
ごめんね。お母さんだけは私が守るってお兄ちゃんと決めたの。
「・・・・・・うるせえ。さっさと帰れよ」
「まこと!」
お母さんも立ち上がった。今にもビンタされてしまいそうなほどお母さんは怒っていた。
「お母様、こういう事ですので。まことさんの意思を尊重して下さい」
母はぐっと下唇を噛む。そして泣いていた。私の手を掴んで。
「まこと。それがあなたの意思なら。私は帰るわ」
最後に少しだけ私の手を強く握って、お母さんは部屋を去っていった。
「・・・・・・良かったのですか?こんな言い方で」
「いいの。で、私はこれからどうすればいいの」
「そうですね・・・・・・。髪を切りましょうか」
黒スーツはくすりと笑った。
「は?なんでよ」
常備しているのか、腰あたりにあるポケットから散髪用のハサミを取り出す。
そして私にゆっくりと近づいてきた。
「先程も言いました通り。あなたには学園で男として生活していただきます。まあ詳しい理由は後ほど」
黒スーツは私を椅子へ誘導すると、さっそく容赦なく髪を切り始めた。
はらはらと茶色い髪が落ちていく。
「まあ別に髪なんかどうでもいいんだけどさ・・・・・・」
髪を切られながら、先程の自分の態度を反省した。
「私どうせここから出られないんでしょ」
「あら、よくわかっていらっしゃいますね」
もうしばらくお母さんには会えない。さすがに冷たくしすぎた。
「・・・・・・ならますます髪なんてどうでもいいわ」
今日は晴天。はらはらと舞う私の茶色と目から一滴溢れた涙が、太陽に照らされて明るく光った。
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