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——ある従魔視点——
その日、ご主人様はいつもと同じように依頼を選びに冒険者ギルドへ入っていった。
私たち従魔と呼ばれる者らは様々な境遇から主人を得る。
それは屈服かもしれないし、里親かもしれないし、刷り込みかもしれない。
私の場合は、猟師が作った罠に引っ掛かり、そこに偶々見かけた男によって救われた過去が存在する。
その後、冒険者ギルドという建物に招かれ、私が男に懐いている事を示すと、男は私の主人になった。
始めの頃は緑色の肌をした小鬼を倒す手伝いをしたり、主人が何かの草を見つける間を護衛したり、ペットを誘き寄せる役を引き受けた事なんかもあった。
主人は冒険者ギルドで依頼を受け、依頼人の言葉を聞き、依頼を達成すると讃えられる。
私はそれが自慢だった。
年を重ねる内に、主人には仲間が増え、受ける依頼の難易度も高くなった。
それでも私は主人の役に立とうと振る舞い、落ち込む主人に寄り添い、主人が怪我を負えば昔教えられた臭い草を見つけ出して差し出した。
だがある日、私は失敗を冒してしまった。
主人の命令通りに動き、敵を撹乱しようと試みたが、敵は見向きもせず主人へと向かっていった。
主人の危機を目に、私は主人に迫る敵から逸らすため、敵に体当たりを繰り出した。
私が来ることを予期出来なかった主人の仲間の魔法によって、私は意識を失った。
目覚めた時には目に涙を浮かべて、これまで見たことがない程に歪んだ顔をした主人の顔がそこにあった。
そして私は自身が横たわっていることを知り、立ちあがろうとしたが上手く立てなかった。
自身の足へ目を向けると、そこにある筈の私の片足の先が存在しなかった。
主人の仲間が止血したのだろう。
流血はしていなかった。
街へ戻る道中も主人は私を抱えて、嘆いていた。
その時、一瞬垣間見えた決意の籠った眼差しに「あぁ、とうとうこの日が来てしまった。」と察してしまった。
従魔の間でも主人が冒険者なら絶対に起きるだろう出来事は噂以上に知られていた。
主人となる人間はどの種族であろうと怪我や病に罹っても治療することはできる。
だが従魔は人間の使うポーションが効かず、薬も効かないため、治療法が存在するかも怪しいと。
そして私を抱えた主人は城塞都市に着いた日の夜、主人の仲間が見守る中、路地へ私を置いた。
更にそれまで取ることのなかった従魔の証で、主人と私を結ぶ絆と言っても過言ではないスカーフを外された。
泣きながら主人は仲間と共に背を向けて去っていくのを、私はただ眺めることしか出来なかった。
途方に暮れた私は見えなくなった主人の行き先を見ていたが、そこへ影が差した。
「捨てられてしまったの?私と…来る?」
声のする方に見上げた私は、赤毛が印象的な少女を見つけた。
主人に捨てられたことにショックを受けていた私は彼女が出した手に触れると、不思議と眠りにつくのは同時だった。
その日、ご主人様はいつもと同じように依頼を選びに冒険者ギルドへ入っていった。
私たち従魔と呼ばれる者らは様々な境遇から主人を得る。
それは屈服かもしれないし、里親かもしれないし、刷り込みかもしれない。
私の場合は、猟師が作った罠に引っ掛かり、そこに偶々見かけた男によって救われた過去が存在する。
その後、冒険者ギルドという建物に招かれ、私が男に懐いている事を示すと、男は私の主人になった。
始めの頃は緑色の肌をした小鬼を倒す手伝いをしたり、主人が何かの草を見つける間を護衛したり、ペットを誘き寄せる役を引き受けた事なんかもあった。
主人は冒険者ギルドで依頼を受け、依頼人の言葉を聞き、依頼を達成すると讃えられる。
私はそれが自慢だった。
年を重ねる内に、主人には仲間が増え、受ける依頼の難易度も高くなった。
それでも私は主人の役に立とうと振る舞い、落ち込む主人に寄り添い、主人が怪我を負えば昔教えられた臭い草を見つけ出して差し出した。
だがある日、私は失敗を冒してしまった。
主人の命令通りに動き、敵を撹乱しようと試みたが、敵は見向きもせず主人へと向かっていった。
主人の危機を目に、私は主人に迫る敵から逸らすため、敵に体当たりを繰り出した。
私が来ることを予期出来なかった主人の仲間の魔法によって、私は意識を失った。
目覚めた時には目に涙を浮かべて、これまで見たことがない程に歪んだ顔をした主人の顔がそこにあった。
そして私は自身が横たわっていることを知り、立ちあがろうとしたが上手く立てなかった。
自身の足へ目を向けると、そこにある筈の私の片足の先が存在しなかった。
主人の仲間が止血したのだろう。
流血はしていなかった。
街へ戻る道中も主人は私を抱えて、嘆いていた。
その時、一瞬垣間見えた決意の籠った眼差しに「あぁ、とうとうこの日が来てしまった。」と察してしまった。
従魔の間でも主人が冒険者なら絶対に起きるだろう出来事は噂以上に知られていた。
主人となる人間はどの種族であろうと怪我や病に罹っても治療することはできる。
だが従魔は人間の使うポーションが効かず、薬も効かないため、治療法が存在するかも怪しいと。
そして私を抱えた主人は城塞都市に着いた日の夜、主人の仲間が見守る中、路地へ私を置いた。
更にそれまで取ることのなかった従魔の証で、主人と私を結ぶ絆と言っても過言ではないスカーフを外された。
泣きながら主人は仲間と共に背を向けて去っていくのを、私はただ眺めることしか出来なかった。
途方に暮れた私は見えなくなった主人の行き先を見ていたが、そこへ影が差した。
「捨てられてしまったの?私と…来る?」
声のする方に見上げた私は、赤毛が印象的な少女を見つけた。
主人に捨てられたことにショックを受けていた私は彼女が出した手に触れると、不思議と眠りにつくのは同時だった。
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