黒猫奇譚<キミと歩む壊れたセカイ>

すてら

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キミのこと

知ってた?

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「……なんで、ヨルはそんなに悲しい顔をするの?」

「え?」



迷子のような。期待してなんとなく裏切られたようなそんな顔をしてた彼を見てわたしは思わずたずねた。

「気の…所為せいなんじゃないの。」

彼はハッとした顔をしてふい、とそっぽ向く。

「げっ、げんき出そうよ!何となくというかヨルが元気ないのかなって思うと、大丈夫かなって、この辺モヤモヤするの…。」

わたしが胸をおさえてそう言うと、ヨルの顔は苦しそうに

「…キミが…___。」




「ん?」







聞き返すと、急に彼は泣き出しそうな顔に変わる。

「なんで…匂いは一緒なのに…。なんでアンタはそう呑気のんきなわけ!?怖くないの!?記憶無くなってんだよ!?…っ、僕の…心配してる場合かよ…。」




「えっと___……。」



何も、言えなかった。

図星ずぼしだった。考えないようにしてたんだ。楽しいことと難しくないこと以外は考えないようにしてて。

だって、1度考えてしまったら。

また考えちゃったら。



ぐるぐるがとまらなくなっちゃう。



(わたしは何故ここにいるの?)

(何故外に出ちゃダメなの?)

(お父さんとお母さんに何があったの?)

(わたしは何を忘れてるの?目の前の子を見ると苦しくなるのは?わたしはこれから、わたしはワタシはわたしはワタシは…___。)





いつだってそうだった。

周りに迷惑かけないように、自分をいつわって。


なんとかなる。


私が何とかしなくちゃって。


でも、私は誰か分かんなくって、自分すらも頼れなくなって。

足場が崩れるような、そんな絶望感。







わたしは。ダレ?
「しっかりしろって!!」


はっと私は気づく。何が起きたんだろう。問いかけられて、考えてそれから___…。

(くるしい)

ハッ、ハッ…ハッ、ハッと不規則ふきそくに聞こえるなにかの音。

(くるしい)

「息吸って、落ち着いてってば…!」


まるで不安定な足場の上で宙ぶらりんにでもなってるような気分。

「ああもう…!!!」

ハッハッとしか吐き出せない。苦しくて吸いたくてもゲホっとしかむせられない。
わたしの視界もいよいよ暗くなってくるそんな時、頭が何かに支えられて、それと同時にわたしの目いっぱいに青空が広がった。


それはゆっくりと隠れて、見えて。
(違う、これだ。)




ゆっくりとした瞬きと同じようなスピードで、声色でヨルはく。






「“めをとじて”」






なんだろうこの言葉、心地よくてすっと耳に入ってきて、まぶたが自然と…___。





「“ゆっくり深く吸って、それから吐いて”」





子守唄みたいな優しい言葉。
繰り返すうちに私はいつの間にか呼吸が出来るようになっていて。


「はぁ……。キミねぇ…」

じとり。とわったようなを向けられる。というか目の光どこ行ったの。

(なんだろうこの目、すごく逆らっちゃダメな気がする。)

「何思い詰めてるか知らないけど、少し肩の力抜いたらどうなの。」

脱力したように私の頭を支えていた手をだらんと下げて、ため息を着くヨル。そして心配そうに、悲しそうに聞いた。

「ごめん……、あせってたからつい精神魔法を使ったけど、なんともない?」


過呼吸の後遺症こういしょうかめがうつろなまま、こくんとうなづいた。

「やっぱり記憶を無くしてもアンタだね。馬鹿なとこも1人で頑張るとこも、何も変わってない。」

まただ。

よくわかんない話なのに、ヨルは悲しい顔で、なんでかその顔は何処かで見た事あるような気がして。

〝にゃ……!〟

その声は何処かで聞いたような気がして。

「ヨル……、そんな顔、しないで。」

ヨルは私のその声と、突然ほほに当てられた私の手に驚いたのか目を見開みひらいて固まったけれど、突然




「僕にそんなふうに触るな……!!」

ハッとしたように私の手を払った。




「ヨル……?」

どうしたのだろうか。

「だからそういうとこが!お気楽きらくだって言ってるんだよ!僕がどんなに我慢して……!!アンタはもう傷つかなくていいのに、僕までアンタの重荷おもにになりたくないのにさ……!そんな風に無防備むぼうびにばかみたいに。」






ずっと泣きそうな顔で、怒ったような声で、逃げてってに叫んでるようで。






でも1人にしちゃダメな気がしたから。
だから言ったのに、それは逆だったらしい。いやどうなんだろう。だって






「ヨルが何に怯えて、何に怒ってるのか分からないよ。でも、それが1人になりたいって事なら、はヨルを1人にしたくない。」




そう言った私の腕を器用に前足で引いて地面に押さえつけその上に乗っかるヨルが、

もう知らない。と呟いてから、




「だからアンタは馬鹿だって言ったんだよ。」逃げればよかったのにって、

わたしの首筋を噛んでそう言ったんだ。

知ってた?猫ってすごく所有欲とか独占欲が強いんだよ。

くるしさが消えて何となく色気が出たヨルの顔はとてもあどけないなんて言えなくて、嫌ではないけど。なんだかよく分からない気持ちになったのだもの。

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