黒猫奇譚<キミと歩む壊れたセカイ>

すてら

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キミのこと

イラつくような気持ち 《視点変更。

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ああ。また僕のせいで。

僕はただあの人を助けたかったんだ。
だからせっかく逃げたのに。

あの暖かいだまりみたいな匂いの人は、ここまで来てしまった。

いや違う。そもそも僕があんなところになんか行こうとしなければ、こんな事態は免れてたかもしれないのに。

___不吉ふきつの存在として産まれた時からあしらわれ続けた。

時として迫害はくがいされることもあった。僕はいつも傷を抱えていた。痛くない時なんてあるはずもない毎日続きで。

その日も僕は安心する場所を探していたんだ。何とか気配のない場所を探して。隠れて。

そんな時だった。僕がそれを見つけたのは。

文字の読めない僕でもわかる。明らかに入ってはいけなさそうなそんな場所。

(ここなら、誰にも見つからない。)

暗くてもいい。せまくてもいい。とにかく安心出来るそんな場所に。

そう僕はそこに入ったつもりだった。





けれどそんなことは決してなくて。

明かり一つない部屋だと思ってたそこは、月明かりに照らされた外の世界だった。

それと同時に僕は力が抜けてしまった。
それでもなにかの本能からなのか、せめて、せめて安全な場所へと、おのがゆくままにいずって歩いた。

途中、足の傷口が開いたのか血はしたたり落ちてしまったけれど、何とか明るい場所へとたどり着いたんだ。

すると別の感覚がおそいかかってきたんだ。

(からだの中が空っぽな感じがする。)

それは産まれて始めて味わうものだった。とても苦しかった。

(寂しい。くるしい。だれか。だれか。)

そう思いながら無意識に声がれてたんだと思う。

もうなんだか目はあかないし、くるしいしで諦めそうになってた時だった。


「猫……?」

なにかの声が聞こえて僕は持ち上げられた。何言ってるかは分からなかった。

終わったなって。その時は思ったんだ。




けど違った。そいつは僕の足を治しただけでなく〝ごはん〟をくれた。

意味は分からなかったけど。
それを口にすると何となく身体が満たされた。
そうするととても幸せな気分になるんだ。けど問題があった。

(こいつ。なにがしたいんだ?)

僕には分からなかったんだ。
何故こいつは僕にこんなにするのか。


分からなかったけど、分かったことがある。

「うわあ!!また指切った!!」

それはこいつがとてつもなく変な奴だということだ。

僕が怪我をしたら大袈裟おおげさなまでにうるさいのに、こいつは自分の事になると途端とたんに馬鹿になる。

(また治してない。)

下手すると放置してる時まである。
いや治せよって僕がにらみつけると慌てて手当しに行くけど。

仕方ないから道具を持ってってやったこともある。それにしてもここの道具はどれも鼻が曲がりそうになるけど。

へらりと笑うこの生物はとても〝変な奴〟だ。

忌み嫌われる僕をかまって嬉しそうにする。

怪我すると涙を流す。
僕はそんな顔が何となくだけど見たくなくて。

おかげで前までは傷なんて平気だったのにこいつのせいで傷つくのが怖くなってしまった。

こいつが僕の方を向いてその音を言う度に鳴き返すときの、その笑顔があまりにもまぶしいから。

僕が傷つくと、こいつは泣いてしまうらしいから。

「僕が守らないと。」そう思うようになった。







それから何回かの夜が来る時。
あいつが来たんだ。

「美味そうな匂いがする……。」

ヨダレを垂らし、目は正気なんてものは持っていないとばかりに薄暗い空気をかき分けあやしく光り。

「あっちに行け!ここは僕のだ!!」

それでも僕はえたんだ。
小さくたって生き抜いてきた。

これまでと同じ痛いのなんて平気だって。

「エサが何か言ってんなよ。嫌われ者がよ!!」

こい。僕が返りちにしてやる。



身構えてうなったその時だった。

いつか感じたあの浮遊感。
あいつが僕を抱き上げたんだ。

(馬鹿!何してんだよ!)

そう言いたかった。けど僕は身動きひとつ取れなかった。

身体が緊張してたんだ。

(怖……かったのか、僕。)
今頃になって震えが来た。
ここに来てから僕は臆病おくびょうになってしまっていたらしい。

バタン。
扉がしまると同時に僕の意識は帰ってきた。

すると余裕が戻った僕の鼻に、嗅ぎなれた匂いが漂うのを感じた。



ぽたり。

音のした方を観ると液体が滴り落ちていた。





(血……!こいつまた怪我を……!!)

「大丈夫。包帯巻いとけば___……」
なんか言ってたけど。こいつがこの顔してる時は良くない時だ。それだけは分かった。自分を大事にしない時この顔をする。

さすがに何となくイラついてきた。

(手当しなよさすがに。悪化したらっていつも僕にさわいでるだろ。いつもみたいに騒ぎなよ。)

ヘラりとした顔から僕の目を見るなり挙動不審きょどうふしんになるなら最初からそうしてればいいのに。

僕がこうしないとこいつは自分を大事にしない。



だから。




(僕が守るんだ。僕が守らないと、なのに。)



そこでさっきの光景こうけいを思い出す。



為す術なく助けられて。守るべきものは傷ついた。なにが、守るだ。

(僕がいたからアイツは怪我したんだ。)



僕のせいで怪我をさせたって言うのに。


何故だろう。僕は僕が傷つく以上に悲しくなった。






(ここに居てはまた同じ目にわせるかもしれない。……あいつ、死ぬんじゃないかって思った。)

思い返す度に僕の方が凍りつく。だからそんなのはもう嫌だ。終わりにしようって。




色んなアイツが浮かんだけど。

あいつの気配が遠くに行ったことを確認してから僕は。

色んな思いをかかえて。












僕は。強くなる為にを後にしたんだ。
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