黒覆面の若旦那は嘘つき花嫁をほだして愛する

ワタリ

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第34話:旦那様の意地悪

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「一葉さん、まだ?」

 保胤はベッドの背もたれに身体を預け、足を広げてゆったりと座っている。

「ねぇ、早く」
「ちょっと黙っててもらえませんか! 心の準備ぐらいさせてください……!」

 眉間に皺を寄せて保胤を睨むが睨まれた本人は嬉しそうだった。

(うぅ……結局弱みを握られただけな気がする……)
 
 一葉はおずおずと手を伸ばして保胤の肩に手を置く。膝立ちでベッドに乗っている態勢のため、保胤からは一葉を見上げる形となった。

「さっきからずっと僕の言い付けを守って偉いね」

 目線を外さず自分を見つめている一葉を保胤は褒める。

「……褒められても嬉しくないです」
「そうなの? じゃあどうすれば嬉しい?」
「何もしてくれなくていいです! ちょ、さっきから変なところ触らないで……! 今は私からなんでしょう!?」

 ハイハイと大して反省の色も見せずに保胤は両手を上げた。

(こ……この後どうすればいいのかしら……)

一葉は保胤の肩に手を置いたまま固まっている。

「そのまま僕を跨いで上に乗ってよ」
「で……でも……」

 それだとお互いの身体が密着することになってしまう。

「ご褒美まであと少しだよ。君が欲しがっている、製鉄所建設の情報。聞きたいでしょう? そのためにこんな格好をしてるんだから」

 するりと手が伸びて保胤は一葉の腰に触れる。先ほど肩に掛けられたシャツははぎ取られ、再び裸にされてしまった。

(こんなことなら聞くんじゃなかった……)

 保胤からの誠意を問われて何をしたらいいのかと一葉は聞いた。聞いたのがまずかった。

『一葉さんから僕に触れて』

 そう保胤から提案された時、自分は結局この男の掌に転がされる運命にあるのだと一葉は悟った。

「あっ……! 触らないでって言ったのに!」
「触ってないよ。支えてるだけ」

 腰を掴まれて後ろに引くことが出来ない。一葉は意を決して両腕を保胤の首に回した。腰を上げて保胤を跨ぐ。

「そのまま座って」
「で、でも……重いですから!」
「こんな細い身体してよく言うよ」

 跨いだものの座るのを躊躇っている一葉を見かねて保胤は腰に添えていた手に力を込める。ぐいと下げて一葉を自分の太ももの上に乗せた。

 抱っこの形でぎゅっと二人の身体が密着する。保胤の首筋に一葉の頬が当たる。保胤の肌の匂いと微かな煙草の匂いが一層濃くなり一葉はなんだか眩暈がした。

「あ……ッ」

 保胤は腰を掴んでいた手を下にのばして一葉の丸みに触れる。

「じゃあ今度は僕からね」

 保胤は一葉の双丘の表面を指の腹でひっかくようになぞっていく。

「一葉さん、これ気持ちいい? 好き?」
「わかっ……わからないです……!」
「ふふ、初めてだもんね。僕がひとつひとつ教えてあげるから一葉さんは自分の好きなところ少しずつ覚えていこうね」

 保胤はすっかり上機嫌になり一葉の呼び名も“さん”付けに変わっていた。

「製鉄所を建てる場所には絶対条件があるんだ」

 一葉に触れる手を休めることなく保胤は淡々と語り出した。

「製鉄の過程で必要となる石灰石と大量の水が入手しやすい立地であること。どんな場所だと思います?」

 保胤から与えられる刺激で頭が朦朧とする。それでも、一葉は必死で考えた。

(た……大量の水……水…………)

「う…………海……ですか?」
「正解です」
「ッ!」

 それまで優しくなぞるような手付きだったのに、突然ぎゅうううっと力強く握られた。

「保胤さ……いたい……!」
「あ、これは嫌い? ごめんね、嫌ならもうしないよ」

 慰めるようになでなでと双丘を撫でる。緩急をつけた刺激についていけない。

「製鉄には冷却水として大量の水が必要だし、原料となる鉄鉱石を海外から運搬するには船が停泊しやすいことも重要です。ただ広い場所であればいいというわけじゃないんだ」

 ちゅ、ちゅっとわざと水音を立てながら一葉の首筋を啄ばむ。

「そこでうちが第一候補としてあげている場所が、京都です。京都には舞鶴という港町があります」

 自分の言葉に耳を傾けて施される愛撫にうぶな反応を見せる一葉を満足げな笑みを浮かべながら保胤は言葉を続ける。

「ただ、舞鶴は軍港があります。海軍の鎮守府として国が統括している土地が多くて、そこで事業を行うには色々と手続きが必要なんです。その辺りの交渉を堂薗に任せているんですよ」


 ――緒方商会ですら勝算が読めんこともあるしね。まあ、そのあたりはうちの会社がうまいことやらせもらうから心配ないけど


(勝算が掴めないことって……軍関係のことだったのね……)

 一葉はバルコニーでの堂薗の言葉を思い出した。

「きゃうぅっ!」

 身体がビリビリと痺れるような感覚に一葉の身体は跳ねた。

「一葉さん……今、堂薗のこと考えていたでしょう」

 突然、保胤は一葉の双丘を両手で強く掴んだ。鷲掴みにしてそのまま握りつぶすように力を込める。

「感心しないなぁ。僕に抱かれながら他の男のことを考えるなんて」
「やっ……さ、さっき……も、もうしないって言ったのに……!」
「気が変わった」

 保胤の目がきゅっと細くなる。一葉は保胤から逃げようとした反対に抑えつけられる。

「コラ。逃げちゃだめでしょう。まだ話の途中ですよ」
「やだっ……いや……いた……痛いです……!」
「痛い? 本当? もう痛いだけじゃないんじゃない?」

 保胤は揉みしだいていた手を双丘の割れ目に沿って奥へと忍ばせる。

「あっ! 保胤さ……!」

 一葉は肩に置いていた手をおろして保胤の腕を掴む。しかし保胤を止める手段にはならず手はどんどん奥へと侵入していく。一葉はいやいやするように首を振った。

「そこ……ッ! 怖い……ッ! へ、へんになる……ッ」
「変になってください。他の男のことなんて一瞬でも考えられないぐらい……僕のことだけを見てて」

 保胤は一葉の顔を覗き込む。荒い呼吸をあげながら一葉は保胤の顔を見た。

(また……そんな……顔……してる……)

 意地悪な笑みを浮かべているのに保胤の目には余裕がない。どこか苦しそうな、寂しい目。

(どうしたら……いい……?)

 一葉が堂薗のことを考えていただけで保胤は嫉妬する。意地悪な言葉と行動で一葉を追い詰めていくのに苦しんでいるのは保胤の方だと一葉は思った。

(どうしたら……安心してもらえる……?)


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