魔導師が騎士と男娼を拾ったら卑猥な三角関係となる

如月紫苑

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第二章 強制と挑発

13 騎士は俺にキスをする

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    ◇
 何とか食べられるような味になった朝食を平らげ、気ままに出発する。夜間もずっと俺達の体の下敷きになっていたルキのシャツはあまりにも無残な状態だったので俺の着替えを渡す。彼には少し小さく、動く度に裾の隙間から見える肌に触れたくなる。
 次の街はすぐ近くだったらしく数時間歩いただけで着く。
 最初に魔導師情報館へ寄る。
 非魔導師対策の重い金属製のドアを魔術で開ける。
 俺に着いて二人が物珍しく見回す。
 館内には魔導師が五人ほどいる。全員こちらに注目している。なくはないが、複数の人が魔導師と同行を共にするのは珍しい。値踏みするような好色な視線を向けられ、二人はもう少し俺の近くに寄る。
 カウンターへ行き、誰もいないカウンターの籠の中に五匹の魔獣の核を入れる。すぐに核が消え、代わりの金貨三枚銀貨九十五枚が入ってくる。支払を受け取り、そのまま出ていこうとすると魔導師の一人が座ったまま笑う。
「貸出ししているか?」
「この二人はお触り禁止だ」
「勿体ぶっている理由はなんだ?」
 別の奴が違うテーブルからニヤつきながら聞く。
「気が立っているんだ。こいつらは、お触り禁止、ともうすでに一度言った」
 指先から火種がチリチリと空気を焼き始める。少しずつ火力を上げ始める。
「インカ様」
 ルキの怯えた声が後ろでする。
「インカ? インカ=インゴットか?」
 最初の男が笑っている。嫌な予感がする。
「ははは! お前の事か! ヨルアの町でお前がやった男、狂っていたぞ。あれじゃ男娼落ちすら出来ない。誰が突っ込んでもお前の名前をずっと呟いていやがる」
 
――――ヨルア……くそ、あの剣士か
 
「他の男は潰しといて自分の抱え込んでいる穴は専用かよ。ずっけーな」
「なんとでも言え。三度も言わせるのか?」
「はは。まぁいい。この街にゃ美形も多いし金にならん喧嘩には興味ねぇよ。お前の名前は違う方面でも聞いているしな」
 俺は無言で二人とドアの方へと移動する。出る直前にその男を見ると彼はニヤつきながら手を振る。

ギ…… ギィィイィイイイ
 
  重い扉が開き、俺達は情報館を出る。嫌がる二人に金貨一枚と銀貨三十二枚ずつ渡す。
「これは正当なあんた達の権利だ。俺と行動を共にしているんだから、ちゃんと受け取れ」
「おい、待て。計算が合わん」
 ヒュートが俺に銀貨一枚を渡してくる。
「インカ様が少なくってどうするんだ。せめてこういうのは多めに取ってくれ。正直に言えば、こんな大金はいらん」
「俺も金は腐るほどあるからいらないんだよ。取っておけ。何かいい物見掛けたら買え。あと美味しい物食べて、今夜はいい部屋に泊まろうか」
 ルキがまた泣きそうになっている。奴隷だったのだからきっと金貨自体見た事はなかったのだろう。俺は自分よりも背の高い頭を撫でる。
「自分の価値を下げる必要はない。潰れないでずっと俺の相手をしているんだ。ルキは本当に普通の人に出来ない凄い事をしているんだ。だからそれはルキの正当な取り分だ」
「落としそうで怖い……」
 俺は笑う。
「持つのが怖いのならば俺が収納しておいてもいい。欲しい時にはいつでも出してやるから」
 最初はカバン屋に入り、大きな金銭袋を二袋購入する。シンプルだけど力強い黒いデザインの袋はヒュートに、綺麗な緑と金色の細かな細工がある方はルキに渡す。
「一緒に旅し始めてからの初報酬のお祝い。すぐに一杯溜まるから楽しみにな」
 それから軽く店を覗きながら簡単に必需品を購入していく。服屋に入りルキの服や旅に適した靴を見て回る。今履いているズボンも細身できついタイプだ。もっと緩い物を見繕ってあげる。
「インカ様はどんなのが好みですか?」
「んん? 黒いの」
「インカ様?」
 ルキの困惑した表情に彼の前の商品を見る。短刀が二種類握られている。両方とも鋼色である。
「あぁ、悪い。少し考え事していた。刃物はヒュートに訊く方がいいよ。俺は料理以外には使わないからあまり詳しくない。……ちょっと散歩に出るからゆっくり買い物楽しんでな」
 俺はルキの顎を引き寄せて軽く掠めるようなキスをしてから店を出る。彼の視線が少し追いかけてくる。
 ブラブラと少し歩き回ってから狭い一角にベンチを発見する。座って、木の影からゆっくりと流れる雲を眺める。
「隣、いいか?」
 ヒュートが上から覗き込んでいる。俺が少し場所を開けるとすぐに隣に座る。肩が当たる。
「まだそのヨルアの男の事、考えているのか? ……強制したのか?」
「いや……強制じゃない。逃げ道がないような相当狡いやり方ではあったが。途中で止められてもいない」
「じゃインカ様が気に病む事じゃないだろ」
「……そうだな」
 溜息をついて目を閉じる。
 暫く街の声を聞いていたが隣でヒュートの動く気配がする。
 不意に少しカサついた唇が唇に押し当てられる。俺が口を開くと肉厚の舌が入り込んでくる。少し野生的なヒュートの香りに体内がぞくっとする。腕を彼の首に回すと唾液の濡れた音が絡む舌からする。
「……なんの褒美だ?」
「また助けたよな」
「別に助けた訳じゃない」
「それでも。ありがとう」
 彼が離れる。立ち上がって俺の腕を引っ張り上げる。
「多分ルキが探している」
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