魔導師が騎士と男娼を拾ったら卑猥な三角関係となる(『1』完結+『2』連載中)

如月紫苑

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『1』第三章 傲慢で自分勝手で軽い男

15 他人はいつもこんな態度だ

 国境に近付くにつれ、魔獣が強くなってきた。国境の向こう側は魔国だからだ。
 俺はヒュートと共に魔獣を打つ。少しずつタイミングが合わせやすくなり、彼も俺の戦い方やタイミングを覚えてきた。
 ルキは精力を消耗していてもしていなくても求めてくる。お陰で数週間空腹を感じた事がないなんて魔導師として覚醒して以来初めての経験だ。こんなに毎日何度セックスをしてもルキは潰れるどころか以前よりも伸び伸びとリラックスしている感じがする。驚異的な体力と精神力だ。そして本当に可愛い。素直に俺に好意を示してくる。
 ヒュートとはあれから数回キスをした。どれぐらい好かれているか分からないがもう嫌われてはいない。でも抱かれていないしまだ抱いてもいない。脳裏には潰した兵士の事を考えて珍しく踏み切れない俺がいる。
 
ヒィヤァァアアアアアアア
 
「ヒュート、下がれ!」
 鳥型の大型魔獣が頭上で威嚇をしながら羽ばたく。俺はそれを見上げながら術式を組んでいく。声が低くなる。
「神が宣う業火の――――」
 ガサガサと音がする。
 鋭い痛みが顔で爆発する。
 術を組んでいる最中に隠れていた一体が飛び掛かってきて俺の顔を爪が裂いた。術式は途中で解消されてしまう。
「インカ様!」
 ヒュートが俺と狼型魔獣の間に飛び込んで剣でその強靭な爪を受け止める。硬質な物のぶつかり合う嫌な音が鳴り響く。
 
――――この術式は痛いからあまり好きじゃないんだけどな
 
 彼の後ろで手を叩き合わせる。激しい風が髪を撫で上げる。
「神が宣う紫雷の如しその唸り在らん事を」
 
バチッ バチチチ バチッ バチッ バチ
 
 体から稲妻が出る。感電するような痛みが皮膚を這い回る。
 雷が前方にいる狼型と空の鳥型に炸裂する。魔獣の全身を包むように白光する電気が走っているのが見える。焦げるような異臭が鼻を突く。
 一般人の真横にいるトカゲ型は巻き添えになる可能性があるから稲妻は使えない。
 俺は小さく舌打ちをする。
 時は十分前。
 俺達は道沿いを相変わらず自分達のペースでのんびりと散歩でもするように歩いていた。今日も天気はいい。涼しいはずの季節なのに暑いぐらいだ。
 複数の人の悲鳴と興奮した魔獣達の鳴き声が聞こえてきた。
 道沿いを走り、緩やかな丘を越えてすぐに大木のある広場へと出た。そこで肥大した鳥型とトカゲ型の大型に四匹の小型蟻魔獣に囲まれている商人のグループを見付けたのだ。
 そして、今。
 えぐれた頬がズキズキと痛む。
 手の甲で軽く頬を撫でると真っ赤な血が服を染める。
「ヒュート!」
 ヒュートが飛び上がり、力強く体を捻らせ、剣を深くトカゲ型の目に突き入れる。透明な眼液が飛び散る。
 手を叩き合わせる。
「神が宣う氷塊の如しその視線在らん事を」
 氷が地を高速で這って行く。通った場所に鋭い氷の刃が突き出る。氷はヒュートを避け、トカゲ型を内側から引き裂く。
 ヒュートは残った一体の蟻型の足を薙ぎ払い、頭部に深く剣を突き刺す。蟻の黒い体液が飛び散る。
「すっ……げぇよ。インカ様……連投速いよな」
「満腹だから術式が制限されていないんだよ。それよりもヒュートの身体能力は見ているのは楽しい。滞空時間めちゃくちゃだよね」
 俺は商人達が囲んでいる人に近付く。二人ほどトカゲ型の毒液が掛かったらしく、皮膚は溶け、骨が露出し始めている。
「退いて」
 俺が近付くと商人達がそそくさと周りから離れる。青いシャツを捲ると変色が早い。患部は腹部一面にもう広がっている。俺は屈んで患部に口を付けようとすると俺の腕を強く引っ張る女商人がいる。
「夫に、近付かないで!」
 泣きながら俺を睨み付ける。俺の腕を掴んでいる手が恐怖で震えている。
 少しだけ彼女に微笑む。
「大丈夫。解毒して治すだけだ」
「治すの?」
 彼女の腕が離れると俺は男のシャツを持ち上げたまま腹部に直接口を付ける。体内の魔力の籠った毒をゆっくりと吸い込んでいく。全てを飲み込むと息を吹きかけて掌で撫でながら傷痕を治していく。
「あなた! 痛みは? 痛み、ない? になっていない? 大丈夫⁉︎」
 そっと男の側から離れるとすぐにその女商人が側に寄って男に抱き付いている。俺は横のもう一人の商人の傷を見る。首と顔に毒が広がっている。彼の顔を手で支えながら頬に口を付けて同じように治していく。治してから顔を放すと商人達が俺から目を逸らす。治した商人も怯えた目で俺に頭を下げる。体が俺から逃げている。
 無言で立ち上がるとヒュートは俺の顎に指をかけて自分の方へと顔を向けさせる。
「インカ様、これじゃ顔すっげー痛ぇだろ。最初に自分の傷を治せばいいのに」
 ヒュートのタコだらけの硬い指が俺の頬を優しく撫でる。
 俺は無言で自分のえぐれた頬を撫でながら治す。ヒュートが剣に付着した魔獣の体液を草に拭っている。
「あの、騎士様、本当に助かりました。ありがとうございます!」
 助けた商人達が怯えた顔で俺を横目で見ながらヒュートに礼を言う。俺はそれを見て苦笑する。
 
――――これが魔導師に対する普通の人の反応だよな
 
「……おい。あんた達を助けたのは私じゃない。彼だろ。なぜ彼には礼を言わねぇ」
 ヒュートの声は抑えているが怒りに満ちている。
「いや、そんな、魔導師様も、その、助かりました! ありがとうございます!」
 商人達が慌てて俺に礼を言う。
 それでもなかなか目が合わない。
「インカ様がいなければ死んでいたくせに」
 少し離れた場所のルキも物凄く不機嫌そうな強い声で商人達を睨む。彼が機嫌悪いのは初めて見る。
 
――――本当に噂通り美人って怒ると怖いんだな
 
 いつもはエロい視線が怖いぐらい商人達に突き刺さっている。彼等は睨まれてばつが悪いのか慌てて何度も俺に頭を下げる。
「今更かよ、クソが」
 相変わらず俺の騎士の口は悪い。
 
――――なんか……嬉しい
 
「気にしなくていい」
 俺は微笑みながらヒュートの肩を叩く。ヒュートと一緒にルキの方へと歩きながら指を鳴らす。七つの核が魔獣の遺体を突き破って浮かび上がり、俺の方へと浮遊してくる。ルキの背中を軽く押して歩き出す。
 ルキは俺の治した頬を軽く撫でて眉毛を顰める。
 先程の道に戻る。
 歩きながら右にヒュート、左にルキ。最近落ち着いたポジションだ。
「二人とも、さっきのは嬉しかった。ありがとう」
「……初めて会った時の自分の態度を思い出した。今更ながらマジで恥ずかしい。本当に、すまなかった」
「いや、あれが普通の反応だ。気にしていない。それにあれはあれで面白かった」
「あんな態度が面白いのかよ……。ルキのインカ様に対する態度は最初から一貫しているよな」
「インカ様は最初から俺には最高の男ですから」
「買い被り過ぎ」
 俺を見て微笑むルキに苦笑する。
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