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第一章 記憶喪失の男
1 山から生まれた男(挿絵)
しおりを挟む傀儡師。人間やモンスターの身体を操る魔導師の一種。
傀儡師達はその非人道的な能力の為、人間に忌み嫌われている。だが国王や軍隊には重宝されている存在。傀儡師によっては操れる人間が一人だったり二人だったりする。記録されている最多の同時傀儡は三人である。公にされていない同時傀儡は五人だが、それを知る者は国家の王家のみである。直接的な攻撃力は持たないとされているが、傀儡を使った攻撃や操りは可能だと記録されている。
魔導師の中でも異質な能力だが、他の魔導師との関係は良好である。形は違えど同じ魔導師、忌み嫌われ者同士だからだ。
「魔王の事は聞いたか?」
そいつの小さな呟きに頷いて空になりそうなグラスをテーブルに置く。
「あぁ、討伐されたってな。道理で去年からモンスターが大量に発生していた訳だ。負のエネルギーが暴発しちまっている」
「リーダーがいなくなるとモンスター共が見境なく暴れ始めてしまうって何故先に考えねぇんだろうなぁ。魔王討伐なんて余計な事をしでかしたよな、勇者ってのは。最もそれを命令したのは王だけどよ」
「本当にな。国王も一般人も実際の世の中の流れを分かってやしねぇ。それでとばっちりはいつも俺達魔導師にきちまう。エライ迷惑だ」
目の前の溜息を吐いて座っている魔導師が少し身を乗り出す。
「傀儡師、山の谷間の村が滅びたのは聞いたか?」
俺も身を乗り出し、声のボリュームを下げる。
「いや、聞いてない。何があったんだ?」
「スタンピード。オークの大群が押し寄せたらしい。なんでもその村が隣山で新しい洞窟を発見したんだって聞いた。もしかしたらオークの巣を突っついてしまったんじゃないかって噂だ」
「また面倒なのを突っついたな。というか、普通は一匹二匹モンスターに出会ったらその場所の採掘を止めるもんじゃねぇのか?」
「王が採掘停止の拒否をしたんだとよ」
「あぁ、なるほど。あの馬鹿王らしいな。そのオーク達は今どうしているんだ?」
「散ってあっちこっちに出没しちまっているらしい。まじで勘弁してくれって」
「強いのか?」
「らしいぜ。……ああ、傀儡か」
「あぁ、前のを解放しちまったしな。ちょうど新しいのを探していた」
「行くんだったら気をつけろよ。そこら辺一体本当に色んな強いのがうようよしていてヤバいぞ。グールまで出たらしい」
「……グールか。そりゃ付近の村は一溜まりもねぇな」
「あぁ、行くんだろ? 幸運を祈る」
「情報をありがとう。お前さんにも幸運を」
俺は会計を済ませるとその安くって潰れかけている食堂を後にする。
傀儡師、ジーク。そう名乗り始めてからもう何年も経つ。嫌な思い出を連想させる幼少期の名はもう何年も前に捨てた。
俺はずっと住処を持たずに放浪の旅をしている。大した理由はないが、一カ所に留まるのは性に合わない。俺の事を知る人間が俺の近くにいるのは苦手だ。
傀儡達やモンスターは好きだが、人間は嫌いだ。
面倒な人間のしがらみは嫌いだが、セックスは好き。
闘いは好きだが、傀儡を盾にする考えは嫌い。
この世は好きと嫌いが入り混じっていて面倒だ。
◇◇
山の動物が騒いでいる。烏が大きな声で危険を知らせている。狼も、それよりもひと回り小さな獣達も、警告を発している。
――――山が警戒している……。何に、だ?
深夜にここまで動物達が騒いでいるのは非常に珍しい。
俺は寄り掛かって寝ていた幹から周りを見渡す。
何も見えない。真っ白な世界が広がっているだけだ。
毛布から出てそっと起き上がる。
周りは一面濃厚な霧で覆われている。山の香りがいつもよりも重く漂っている。湿気で髪が首に貼り付く。まるで自分がどこにいるのか、なぜここにいるのかも分からなくなるほど周りが全く見えない。
焚火を消さず、何も持たずに山の深くへと足を進める。
ここはモンスターが住み着きやすいからと昔から人間が寄り付かない山の中腹だ。例のオークのスタンピード被害に遭った村の近くの山。人間に出会う事もなければ検索される事もない。動物やモンスターを傀儡にして自分の術を好き勝手に磨いていられる都合の良い場所で以前にもこの山に暫く立て籠もっていた。肉食動物は俺を怖がってか、俺には近寄らない。邪魔されない。
パキッ
霧が濃厚過ぎて足元ですら見えない。気を付けながらゆっくりと周りの気配に意識を向ける。どこか近くでモンスターの遠吠えがする。四方から木の枝の折れる音や寒気が入り混じるような異様な気配がする。
慎重に霧の中を進んでいくと狼の群が威嚇をしながら何かに飛びかかったところだ。狂ったように吠えながら何か大きな物に噛み付く。鋭い犬歯が肉に沈み込んでいく音。
俺が近くにいても気付かないほどにその獲物に集中をしている。
霧の遥か上空を飛んでいる傀儡を急下降させながら一気に体当たりをさせる。
キャンッ キャィン
狼は口を離しながら逃げていく。他の狼達もびっくりして逃げ出す。
――――……人間か
若い男だ。
意識を失い、狼に噛まれた足から出血している。頭部からも滴るほどの血が流れている。だが頭部の怪我は狼が原因ではなさそうだ。
俺は彼を抱き上げるとまた慎重に来た道を戻って行く。鷹は上空から辺りを見張ってくれる。
男をそっと焚火の横に横たえ、ズボンを脱がす。
思っていたほど狼は深く噛んでいなかったらしい。本当に襲い始めたばかりだったのだろう。この男は運がいい。
簡単に傷口を洗い、処置をする。俺の持っている上級の傷薬を塗りつける。魔導師といっても傀儡師は普通の魔法は使えない。傀儡のみだ。治癒魔法は使えたら便利だとは思うが残念ながら習得出来ない。傀儡師の魔術は全て心と頭に働きかけるものだからだ。
――――これは……頭割れてるな
手当てをしていて頭蓋骨が少し陥没している事に気付く。最初思っていたのよりも相当深刻だ。体を揺さぶっても起きる気配がない。
傷薬を大量に塗り込み頭部に布をキツく巻きつける。
彼はまるですぐそこの家から出てきたような服装をしている。高山では寒い薄手のシャツを羽織って緩いズボンを履いているだけだ。靴はどこかで脱げたのか、足裏も傷だらけだ。石で相当切っている。まるで何かから暫く逃げていたかのような違和感がある。
男を見る。
よく引き締まった体だ。均一にオールラウンドに鍛えられている。つまりは日常生活で出来た筋肉ではなく、見せる為の磨かれた筋肉。上流階級の性格だ。
彼の服もとても上質な触り心地だ。下着に包まれた股間に触れ、その柔らかな感触に目を細める。
――――美味そうだ。目が覚めるといいけどな。最も頭の怪我の度合いは起きるまではなんとも言えん
ズボンを脱がせたまま毛布を掛け、俺は焚火の反対側で再び眠りにつく。
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