風鈴

奈那美

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風鈴

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 あ・つ・い…
朝から何度つぶやいているだろう。
例年よりも長引いた梅雨がやっと明けたのは夏休み直前で。
夏休みに入ったとたんにうだるような猛暑が続いている。
これで夏期講習でもあって学校に行ってるなら、勉強するのはイヤだけど少なくともクラスの子たちとしゃべって気を紛らすこともできるし、なんといっても教室にはクーラーがついている!!ウチにもクーラーはあるんだけど、おばあちゃんがケチでつけさせてくれない。
『窓を開けてたら風が抜けるんだから、扇風機で十分』とかなんとか言って部屋のドアを閉めてるとわざわざ開けに来るんだもん、プライバシーも何もあったもんじゃない。おまけに『要らない』って言ってるのに窓に風鈴なんて下げちゃうもんだからうるさくてかなわない。セミの声だけでも鬱陶しいのに、ときたま風まぐれにリリ~ンとか鳴ってくれちゃうもんだからさらに鬱陶しさ倍増。…早くお父さん単身赴任から戻ってきてくれないかな。
 そう、私はお父さんが単身赴任で外国に行っているので同じ市内に住んでいるおばあちゃんの家でふたり暮らしをしているのだ。市内にはお父さんと住んでいたアパートもあるけれど、おばあちゃんが『コドモが一人暮らしなんて絶対ダメ』と言って鍵を隠してしまったのだ。ひとりで住めてたら、クーラー使い放題なのに。
「もう~~、暑いったら暑い!!」私は畳の上に寝転がってはだしの足をバタバタと動かした。お気に入りの麻のマキシスカートのすそが動きに合わせて舞う。
「ま~たそんなかっこうしてみっともない。宿題はやったの?勉強は!」おばあちゃんが通りすがりに部屋をのぞきこんで小言を言う。
「もう!まだ夏休みに入ったばかりじゃない。宿題とかちゃんとやるから放っといてよ」
暑いのもセミも風鈴もおばあちゃんのお小言も鬱陶しいから私のイライラの原因。
でも…
 
「由美、あなたヒマなんでしょ。だったらおつかい行ってきて」
「え~こんな暑い中を?」
「暑いのはみんな同じです。それとも庭の草むしりする?」
「…おつかい行ってくる。何を買ってくるの?」
「このメモに書いておいたから。お金はこれ。暑いから帽子かぶって行きなさい」
「やあよ。小学生じゃあるまいし」
「じゃあ、おばあちゃんの日傘使いなさい」
「それもイヤ。オバサンみたいだもん」
「日射病になってもしりませんよ」
「ならないも~ん。いってきま~す」
私はお金とメモをスカートのポケットにいれて商店街の中のスーパーに向かって歩いて行った。
(まったく…孫づかいが荒いんだから。みんな何してるかな。香織は合宿って言ってたし、久美は家族旅行に行くって言ってたし。あ~あ早く学校始まらないかな~。)
おばあちゃんが車の免許を持っていないから、ちょっと遠くにあるショッピングモールに連れて行ってもらえない。それどころか自転車にも乗れないので家に自転車もないから,借りてどこかにサイクリングに行くこともできない。
学校と家の往復…それはまだ我慢できるけれど、休みだというのにどこにも行かれず家にいるか、今日みたいにスーパーに行くかの毎日…うんざり。これもイライラの原因。
けれど…
 
スーパーでメモの品物を買い込み、重い買い物袋を提げて家路につく。
「…木元?」横を通り過ぎようとした自転車が止まり、私に声をかけた。
「あ、高橋くん?」声の主を確認してドキッとした。こんなところでクラスメイトに会うなんて。
「やっぱり木元だ。後ろから見て、そうじゃないかな~と思ったんだ。…買い物?」
「うん。おばあちゃんに頼まれたんだ」
「重そうだな…カゴにのせてやるよ」自転車を下りて私のほうに手を出す。
「いや…悪いよ」
「気にするなって」
「いいの?やさし~。ありがとう」私は遠慮しつつ買い物袋を手渡す。
高橋くんは私の買い物袋を自転車の前かごに入れて
「マジ重いな。どこだっけ?木元んち」
「あそこの交差点を左に曲がって…」と家の場所を説明する。
「高橋くんは?部活?」ユニフォーム姿に気づいたので聞いてみる。
「そそ。こんな時間から始めなくてもいいのにな」
「だよね。こんな暑いときにしなくてもね」
並んで歩きながら他愛ない話をしているうちに交差点が近づいてきた。
「悪い、木元。荷物ここまででいいか?」
交差点に着いたときに高橋くんが言った。
「俺、当番だったの忘れてたわ」
「あ、ごめん。ありがとう、おかげでたすかったよ」
荷物を受け取る…重い。
「じゃな」高橋くんは自転車に乗って交差点を直進していった。後姿を見送って、左に曲がりおばあちゃんの家まで帰る。
「ただいま。荷物、台所に置いておくね」
 
部屋に戻りまた畳に寝転がる。
…イライラが消えていた。
窓を見上げると、夏の青空の海にたゆたう海月のような風鈴がリリ~ンと涼しげな音を鳴らした。
 



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