通りすがりの龍喰らい

ヨルムンガンド

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第二章

道中にて

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 俺たちは村を出たあと、取り敢えず近くにある大きな街、ドナセスを目指すことにした。

 「ライトっさ、どこから来たの?」

 きっ、来た!異世界系テンプレである「あんたどこ住み?」が!

 作品によっては、正直に答える奴もいれば、『極東の地』というパワーワードを使いこなす輩もいる。

 ど、どうすれば……っ、仕方ねぇ、こうなったら!

 「ベ、ベルセルクはどこに住んでたんだよ?」

 「えっ、僕?まさか、質問に質問で返されるとは思ってなかったよ…」

 俺だって正直に答えたいんだけど、信じてくれるか微妙なとこだからな…
 
 悪ぃな、ベルセルク。俺にも「言えないこと」が出来ちまったみてぇだ。

 「うーんと、僕はね、龍の里で生まれたんだ」

 「いきなりだけどちょいまちー、それどこ?」

 「ああ、ごめんごめん。ここら辺から、ずっと北北西に進んだ所にある山脈に囲まれた土地だよ。山が険しすぎて、人間には存在すら認知されてないこと、忘れてた」
  
 わざわざ、詳しい説明をしてくれた。龍の里どころか、この世界の様子すら知らないので、とても助かる。

  俺は首肯し、話の続きを促す。

 「それで、僕の家族構成なんだけど………」

 ここでベルセルクは、急に言葉が詰まってしまった。何故だろうか、言えないことでもあるのだろうか。

 「うん、ライトにはちゃんとしたことを言うよ。僕はね、半人半龍なんだ」

 「ええっ!?」
 
 信じられなかった。自分の中での半人半龍のイメージは、ところどころに鱗が浮かんでいて羽も生えてるけど、姿形は人みたいな感じだ。

 そのことを伝えると、

 「ああ、それは僕のだね」

 「兄貴いたんだ」

 さっきほどではないが、驚いた。でも言われてみれば、村を抜け出す時にみせた妹の演技は、とても完成度が高かった。

 まさか、本当に妹だったとは。

 「あっ、これも言ってなかったっけ。そうそう、いるんだよ。だけど、僕と違って『完全変身』が出来なかったんだ」

 「なんだその、スーパー戦隊モノみたいなやつは」

 もしくは、仮面被ってバイク乗る方々か。ともかく、転生前の世界でそんなことを言ってるのは、小学生ぐらいのものだろう。

 「ごめん、また知らん単語が。ご教授のほどを」

 「やっぱ、人に説明したことがなかったから、伝えるのは大変だな……『完全変身』ってのは、僕みたいに人と龍の姿を自由に変えられることを言うんだよ」

 「へぇー」

 つまり、先程俺が言った特徴は、『完全変身』が出来ていない半人半龍に当てはまるのか。

 「お前は、里を追い出されたって聞いたけど、兄貴はどうだったんだ?」

 「……僕よりも幼い頃に村を追放されたよ。だから、兄がいたことすら親に教えてもらうまでは知らなかった」

 「そう、だったのか…」

 想像していたよりも、ヘヴィーな話だった。自分が言いたくないがために、彼女に話を振ってしまったことを後悔。

 ベルセルクだって、言いたくないはずの過去を話したんだ。俺が言わない訳には、いかなくなった。

 「じゃあ、俺も過去の話をするよ。信じてもらえるか、分からないけど」

 「ホント?やったー、ライトってどんな生活してたか、気になるんだよねー」

 自分の話をしていた時は暗かったベルセルクの表情が、目に見えて和らいだ。どうやら、正しい選択をしたようだ。

 「俺はな、『転生者』なんだ」
 
 「あ、そうだったの」

 「あ、ここの異世界だったのか」

  俺の言うとは、その異世界に沢山の『転生者』が来ており、所謂転生者慣れしていることだ。

 つまり、俺の心配は杞憂に終わった。

 「ならば、話が早い。俺は日本から来たのだよ、ベルセルク君」

 「ああ、日本か。確か、人口1億人強、公用語は無し、海洋に囲まれた島国で、食料自給率の低下と高齢社会が課題となっている、だったかな?」 

 「え、何それ俺より詳しいじゃんてか公用語日本語じゃねぇのかよ」

 なんで、俺より俺の出身国のこと詳しいんだよ。でも、これで話しやすくなった。

 「じゃあ、NEETという単語に聞き覚えは?」

 「Not in Education, Employment or Trainingの略。正しい定義は、十五歳から三十四歳までの、家事・通学・就業をせず、職業訓練も受けていない者。通称、自宅警備員。平たく言えば」
 
 「待て待て待て、それ以上言うな、俺が死ぬ」

 危なかった。NEETについては知らなくていい事まで、知っているみたいだ。

 まあ、英語とかこっちの異世界でどう言えばいいのか、気になるところではあるが。

 話題を転換しないと、こちらの豆腐心メンタルが持たない。

 「あ、後どれぐらいでドナセスに着くか、分かるか?」

 「ええと、あと15分位で着くよ。そんなに都市部って訳では無いけど、結構貿易が盛んなんだ」

 「貿易かぁ。この世界の食べ物とか食ってみてぇな。まだ木の実としか食ったことないからな」

  「僕も楽しみだよ。まぁ、木の実も好きだけどね」

 そんな他愛もない会話しているさなかだった。



 「や、野盗だァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 「!?」
 
  突如として、前方から悲鳴が上がった。

  俺は場違いながらも、またテンプレかと思ってしまった。
 



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