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恋愛編
-1°F(金髪ピアス)
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「気持ち悪いですね」
忘れもしない、彼女と出会って一番最初に言われた言葉がそれである。
当時僕、田中 蓮はガチャ要素のあるスマホゲームにハマっていて、お目当てのSSSキャラを引き当てて喜んでいた最中に、彼女のその台詞である。
「いきなり横から失礼だな、あんた」
「だって所詮は絵じゃないですか。
何が良くて喜んでるやら」
無視すればいいのに思わず反応してしまった僕に、追い討ちの彼女の台詞。
いやうん、言いたいことは分からんでもない。
例えば立場が逆で、女子がBLっぽいゲームのガチャでニヤニヤしてたらちょっと引くかも。あえて声はかけないけどな!
だがそもそも、
「あんたアニメや漫画を見ないのか?」
「見ませんね。小説やドラマ、実写映画は見ますが空想物は全般的に嫌いです。
私の中で、あり得ない事はくだらない事なので」
何だこの人、明治とかその時代からタイムスリップでもしてきたのか?
写真撮られたら魂抜かれるとか言っちゃう系?
「だとしてもだ。
それが好きな人だっているんだ、それを気持ち悪いの一言で否定するのはどうかと」
そう僕が言うと、彼女は少し考えて。
「……そういう事ですか。
でしたら、その件については謝ります」
お?
ここで何故か僕は謝罪された。
「ため息つくのと『気持ち悪い』は私の口癖なので。魔除けにもなりますし」
「ま、魔除け?」
「……失礼します」
「あっおい!」
訳がわからないまま、彼女はその場を去ったのだった。
「あはは、そうか彼女に遭遇したか。
そりゃ災難だったな」
大学の先輩、木村 翔吾がそう言って笑う。
「えっ有名人なんすか?
何者なんすか彼女」
「何だ田中、本当に知らんのか?」
僕の言葉に木村先輩は肩をすくめる。
「この大学に来てるって、噂を聞いたことぐらいはあるだろう。
ほら、彼女は六華宮の……」
「霙子内親王殿下!
ああ、あの人がそうなんすね」
この国の天皇陛下と皇族は苗字を持たず、○○宮と言った名称が苗字代わりだ。
六華宮は陛下の弟にあたる宮家で、霙子内親王は次女になる。
姉で長女の霰子内親王殿下はニュースにも取り上げられるほどの気さくで慈愛溢れる女性なのに、姉妹でこうも違うものか。
「立てば芍薬、座れば牡丹。
なのに口を開いて出る言葉は雪嵐。
だもんだから、ついたあだ名がツンデレならぬツンドラ系女子」
ツンドラ……シベリア辺りの一年中氷点下の地域の事だっけ?
確かに言い得て妙かも。
そして、本来ならもう関わらない方が良いだろうし、関わって欲しくないオーラが全開だった。
でも。
『……魔除けにもなりますし』
気になるんだよなあ、あの一言が。
❄️ ❄️ ❄️
「気持ち悪いですね」
と言う言葉が聞こえて、振り返る。
声の主はあの六華宮 霙子であったが、今回は僕にかけられた言葉ではなかった。
見れば彼女が声をかけた相手は金髪で耳に幾つものピアス、袖なしの服から剥き出した肩にはタトゥーといういかにも半グレな奴。
ちょっと六華宮!
流石に喧嘩売る相手は選ぼうよ。
「何だとテメエ……」
ああほら、スゲエおっかない顔で睨んでる。それで全く動じない六華宮も凄いけど。
「ああダメですよ先輩、彼女はその……」
取り巻きと思われる後輩が、何やら金髪ピアスに耳うちする。
「ふん、高貴な方なのかアンタ。
……んじゃまあ、それ相応の責任の取り方をしてもらおうかね」
「それ相応、ですか?」
金髪ピアスの言葉に首をかしげる六華宮。
「要するに慰謝料か、その体でって事だよ」
「あら、慰謝料を頂けるのですか?」
「んな訳あるかいっ!
オメーが払うんだよ!?」
金髪ピアスが声を張り上げるが、六華宮は首をかしげたままだ。
どうやら嫌味でなく本当に理解していないらしい。
「先ほどから時間を拘束されて、不快感を感じているのは私の方なのですが」
「ああああ、もう面倒くせぇ!!」
そう言って彼が手を振り上げ、彼女を殴ろうとしたその刹那。
何故そうしようと思ったか自分でもよく分からないが、僕は彼女と金髪ピアスの間に割って入る。
結果僕が殴り倒され、地面に叩きつけられる。
「おい何してんだ田中ぁ、邪魔すんじゃねえ!」
金髪ピアスがまだ怒り収まらずといった口調で言う。
「いや、理由はどうあれ女性に暴力はダメっしょ」
と僕は言って、笑ってみせる。
「チッ、格好つけやがって」
金髪ピアスは吐き捨てる様に言い、
「なんか興醒めした、行くぞ」
そう言うと、取り巻きを連れてその場を立ち去って行ったのだった。
「田中くん……と言うのですか、あなたは」
と尋ねてくる六華宮。
「うん、田中 蓮ってのがフルネームだけど」
「田中 レン……」
と反芻するように彼女は言うと、
「……本当に馬鹿ですね、レンくんは」
いきなり辛辣な言葉を浴びせてきた。
えええっ?
助けたのに僕、罵倒される側なの!?
「レンくんは知らないかもしれませんが、私は柔道黒帯で合気道も段位持ちです。
もし殴られそうになったら投げ飛ばすつもりでした」
ええっ、そうなの!?
「おまけにこの大学には数人のSPが紛れ込んでいます。
万が一の事が起これば、そちらも動いたでしょう」
「……と言う事は」
「ええ、あなたの行為は全くの無駄で、ただ痛い思いをしただけですね」
「うわマジかあ……」
しかも彼女に無慈悲な言葉を浴びせられてな。
あー、何やってんだろ僕。
と思っていると。
チュッ。
何やら頬に柔らかい物が。
これはまさか、六華宮の、くくくく口付け?ナンデ?
「結果無駄足でしたが、その勇気に敬意を表してのご褒美です」
だからって頬にキスまでするか普通!
ああそうか。
多分皇族の間では頬にチュウなんて日常茶飯事……
「ちなみに私の父にもした事のない、特別な行為ですから」
ええっ!?
だったら益々意味が分からない。
「それじゃ」
と言って、気持ち足早にその場を去って行く六華宮。
いや説明っ!
納得行く説明をしていってくれぇー!!
忘れもしない、彼女と出会って一番最初に言われた言葉がそれである。
当時僕、田中 蓮はガチャ要素のあるスマホゲームにハマっていて、お目当てのSSSキャラを引き当てて喜んでいた最中に、彼女のその台詞である。
「いきなり横から失礼だな、あんた」
「だって所詮は絵じゃないですか。
何が良くて喜んでるやら」
無視すればいいのに思わず反応してしまった僕に、追い討ちの彼女の台詞。
いやうん、言いたいことは分からんでもない。
例えば立場が逆で、女子がBLっぽいゲームのガチャでニヤニヤしてたらちょっと引くかも。あえて声はかけないけどな!
だがそもそも、
「あんたアニメや漫画を見ないのか?」
「見ませんね。小説やドラマ、実写映画は見ますが空想物は全般的に嫌いです。
私の中で、あり得ない事はくだらない事なので」
何だこの人、明治とかその時代からタイムスリップでもしてきたのか?
写真撮られたら魂抜かれるとか言っちゃう系?
「だとしてもだ。
それが好きな人だっているんだ、それを気持ち悪いの一言で否定するのはどうかと」
そう僕が言うと、彼女は少し考えて。
「……そういう事ですか。
でしたら、その件については謝ります」
お?
ここで何故か僕は謝罪された。
「ため息つくのと『気持ち悪い』は私の口癖なので。魔除けにもなりますし」
「ま、魔除け?」
「……失礼します」
「あっおい!」
訳がわからないまま、彼女はその場を去ったのだった。
「あはは、そうか彼女に遭遇したか。
そりゃ災難だったな」
大学の先輩、木村 翔吾がそう言って笑う。
「えっ有名人なんすか?
何者なんすか彼女」
「何だ田中、本当に知らんのか?」
僕の言葉に木村先輩は肩をすくめる。
「この大学に来てるって、噂を聞いたことぐらいはあるだろう。
ほら、彼女は六華宮の……」
「霙子内親王殿下!
ああ、あの人がそうなんすね」
この国の天皇陛下と皇族は苗字を持たず、○○宮と言った名称が苗字代わりだ。
六華宮は陛下の弟にあたる宮家で、霙子内親王は次女になる。
姉で長女の霰子内親王殿下はニュースにも取り上げられるほどの気さくで慈愛溢れる女性なのに、姉妹でこうも違うものか。
「立てば芍薬、座れば牡丹。
なのに口を開いて出る言葉は雪嵐。
だもんだから、ついたあだ名がツンデレならぬツンドラ系女子」
ツンドラ……シベリア辺りの一年中氷点下の地域の事だっけ?
確かに言い得て妙かも。
そして、本来ならもう関わらない方が良いだろうし、関わって欲しくないオーラが全開だった。
でも。
『……魔除けにもなりますし』
気になるんだよなあ、あの一言が。
❄️ ❄️ ❄️
「気持ち悪いですね」
と言う言葉が聞こえて、振り返る。
声の主はあの六華宮 霙子であったが、今回は僕にかけられた言葉ではなかった。
見れば彼女が声をかけた相手は金髪で耳に幾つものピアス、袖なしの服から剥き出した肩にはタトゥーといういかにも半グレな奴。
ちょっと六華宮!
流石に喧嘩売る相手は選ぼうよ。
「何だとテメエ……」
ああほら、スゲエおっかない顔で睨んでる。それで全く動じない六華宮も凄いけど。
「ああダメですよ先輩、彼女はその……」
取り巻きと思われる後輩が、何やら金髪ピアスに耳うちする。
「ふん、高貴な方なのかアンタ。
……んじゃまあ、それ相応の責任の取り方をしてもらおうかね」
「それ相応、ですか?」
金髪ピアスの言葉に首をかしげる六華宮。
「要するに慰謝料か、その体でって事だよ」
「あら、慰謝料を頂けるのですか?」
「んな訳あるかいっ!
オメーが払うんだよ!?」
金髪ピアスが声を張り上げるが、六華宮は首をかしげたままだ。
どうやら嫌味でなく本当に理解していないらしい。
「先ほどから時間を拘束されて、不快感を感じているのは私の方なのですが」
「ああああ、もう面倒くせぇ!!」
そう言って彼が手を振り上げ、彼女を殴ろうとしたその刹那。
何故そうしようと思ったか自分でもよく分からないが、僕は彼女と金髪ピアスの間に割って入る。
結果僕が殴り倒され、地面に叩きつけられる。
「おい何してんだ田中ぁ、邪魔すんじゃねえ!」
金髪ピアスがまだ怒り収まらずといった口調で言う。
「いや、理由はどうあれ女性に暴力はダメっしょ」
と僕は言って、笑ってみせる。
「チッ、格好つけやがって」
金髪ピアスは吐き捨てる様に言い、
「なんか興醒めした、行くぞ」
そう言うと、取り巻きを連れてその場を立ち去って行ったのだった。
「田中くん……と言うのですか、あなたは」
と尋ねてくる六華宮。
「うん、田中 蓮ってのがフルネームだけど」
「田中 レン……」
と反芻するように彼女は言うと、
「……本当に馬鹿ですね、レンくんは」
いきなり辛辣な言葉を浴びせてきた。
えええっ?
助けたのに僕、罵倒される側なの!?
「レンくんは知らないかもしれませんが、私は柔道黒帯で合気道も段位持ちです。
もし殴られそうになったら投げ飛ばすつもりでした」
ええっ、そうなの!?
「おまけにこの大学には数人のSPが紛れ込んでいます。
万が一の事が起これば、そちらも動いたでしょう」
「……と言う事は」
「ええ、あなたの行為は全くの無駄で、ただ痛い思いをしただけですね」
「うわマジかあ……」
しかも彼女に無慈悲な言葉を浴びせられてな。
あー、何やってんだろ僕。
と思っていると。
チュッ。
何やら頬に柔らかい物が。
これはまさか、六華宮の、くくくく口付け?ナンデ?
「結果無駄足でしたが、その勇気に敬意を表してのご褒美です」
だからって頬にキスまでするか普通!
ああそうか。
多分皇族の間では頬にチュウなんて日常茶飯事……
「ちなみに私の父にもした事のない、特別な行為ですから」
ええっ!?
だったら益々意味が分からない。
「それじゃ」
と言って、気持ち足早にその場を去って行く六華宮。
いや説明っ!
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