物語のない人生なんて!~とにかく面白い物語が読みたいんや~

凪子

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「待ってるだけじゃ、救えない命があります」ーーー日曜劇場『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』

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※ネタバレ注意です

劇場版をネトフリで観た後、ドラマに戻り、感動し、そしたら映画第二弾があるっていうじゃないですか!!!
まじで不覚、観に行くしかない!!

◇あらすじ
東京都知事・赤塚梓の肝いりで誕生した救命救急医療チーム、「TOKYO MER」。
彼らは最新の医療設備を備え、車内で手術も行える、走る緊急救命室・ERカーを駆り事故、災害、事件現場へ急行する。 
都知事から託された使命はただ一つ。それは出動した現場で「死者を一人も出さない事」である。


東京MERは、数多く溢れる医療ドラマの中で、間違いなく新しい局地を切り開いた作品だと思う。
1クールに1本、多ければ2-3本ある医療ドラマ、「もういいよ」と食傷気味だった。

医療ドラマに欠かせない御涙頂戴の展開、亡くなる描写、血も怖いし、極悪院長とか院内政治とかーーもう見飽きたよって思っていた。

東京MERの切り口は、「医療と政治」だ。
そしてテーマは、「いのちの選別」。
医師として、極悪人の命を救いますか?
命は平等と言うけれど、綺麗事ではないですか?
あなたの大事な人を殺した人間を、なぜ助けなければいけないのですか?
そんな真摯で重いテーマが描かれている。

でも、暗くなりすぎずに見ていられるのは、そこにリアルと希望が共存しているからだ。
このバランス、ドラマとして見事ーーというほかない。

主人公の喜多見幸太は、めちゃ分かりやすい人間だ。
どんな人間でも救う、それが医者。
この信念を胸に、危険な現場に突っ込んでいく。
そのあまりに無茶なやり方は、どこか破滅願望を感じさせる。
幼いころに銃撃事件で両親を失い、いつ死んでもいい、この世に繋ぎ止める存在理由は医者であることーーだけなのかもしれない。

猛スピードで飛び交う医療用語や、オペの緊迫感は、これまでの医療ドラマとは一線を画している。
実際、現場ではこれぐらいのスピードでやってるんだろうなという説得力がある。
かといって、細かい手術の説明はない。ないのに、めっちゃすごいことをしているとか、危機感とかは伝わってくるのがすごい。
鈴木亮平さん、こんな医師がいたらマジで患者としてはありがたい!一家に一台、いや一人置いてくれ!!(誰w)

MERのメンバーにもそれぞれ過去と理念があり、成長して絆が深まっていくところもいい!
菜々緒さん、中条あやみさんなど、美人揃いなのも目の保養!!
賀来賢人さん演じる音羽尚も最たるもので、官僚と医師の信念の狭間で揺れるところが描かれている。
最初から、いい人やん!だって医師やもん!と思いつつ、安心して見れた。
レスキュー隊(要潤さん!)消防、警察などとの連携も見所だ。
個人的には公安警察の月島しずか、演じるのは稲森いずみさん、が素晴らしい!!格好良い!!!

全員がプロフェッショナルであると同時に、ヒーローではない。
誰かに応援されるためではなく、ただ目の前の命を救う、そのシンプルな理念のために突き進む。
彼らが強いのは、その信念に一点の曇りもないからだ。
人を助ける、命を救うーーそれはどこからどう見ても美しく善たるもので、迷いは生じないーーはずだった。

ところが、それが覆される事件が起こる。
喜多見チーフが命を救ったテロリスト・椿による事件だ。

椿のせいで喜多見チーフはテロリストに加担した罪で逮捕され、その上、たった一人の身内である妹の涼香を失ってしまう。

皮肉なことに、これまで数多くの人の命を絶対に救ってきたのに、どんなに絶望的な状況からも蘇生させていたのに、1番守りたい人を守ることはできなかった。
これは、あまりにも残酷すぎて、声を失うほど絶望的なシーンだった。

もうMERは解体しようーーとなる。
そこには政治的圧力もある。
「政界と医療は繋がっている」ということを描いたドラマは、意外とない気がする。
院内政治や医療や難病の難しさ、医療費、医療ミス、医師としての倫理ーーこれまで医療ドラマは病院の中で繰り広げられてきた。
ところがMERは患者のもとへ駆けつけることで、舞台を大きく広げた。
そして都知事直轄、補助金や税金を使っているということ、国家権力がなければ入れない場所、責任を取るのは都知事であることなどが描かれる。

だからこそ、MERの存続にとって、喜多見幸太の存在こそが希望でもあり、最大のアキレス腱だった。

最終的には、MERのまっすぐな信念が勝利し、周りの良心や善意に働きかける。
だが、失われた命は戻らない。
そして、テロリスト椿への敵討ちは銃弾ではなく、医療行為によって行われた。

このシーンがドラマ最大の見どころだと思う。
「こいつはまた人を殺すかもしれない。こんなことに意味はあるのか」
妹を殺した犯人を治療する喜多見チーフに、音羽は投げかける。
「分かりません。でも今は、命を救えてよかったと思います」

なんて後味の悪い最後だろう、そこには達成感も満足感も何もない。助けたい、助かりたいなんて、誰も思っていなかった。椿本人さえも。
社会的にも、積極的治療には値しないと思う。
喜多見チーフを動かしたのは、医師としての誇りですらない。
ただ、今まで自分がやってきたことは正しかったんだと、その証明のために、ある意味、自己満足のために治療したように私は思えた。
そうしなければ、自分を保てないからーーと。
喜多見チーフの医師としての仮面に隠された、狂気と業の深さを感じる、鳥肌の立つシーンだ。

政治と医療を描き、医療ドラマを院内から広いフィールドに展開した。
もう一つ新しい点は、「自然な女性リーダーの活躍」だ。

東京MERに出てくる女性は、マジでみんなかっこいいし、自然体だ。

MERのメンバー女性はもちろん、
東京都知事の赤塚さん(石田ゆりこさん)は柔らかな笑顔の裏に強い意志を秘めた政治家で、白金大臣は医系技官出身のクールな策謀家、私のイチオシ月島しずかさんは冷徹で有能で、どんな手段を使っても国家国民を守る警察官、そして劇場版の横浜MERの鴨居チーフ(杏さん!)は渡米して腕を磨いた凄腕の医師。

よく女性リーダー=感情的になるとか、男まさりとか、女性活躍推進のための数合わせとか、テンプレ的な描かれ方をしてきた。
でもMERでは彼女らの活躍が、ごく自然な形で描かれている。
女性だからすごいのでも特別なのでもなく、ただ医師や政治家や警察官として優秀であり、素晴らしい手腕を持っていることが、変なバイアス抜きで描かれている。
男性の補助、みたいな役どころは全くない。
ここが令和の新しいドラマだなと思った。

あとは、「MERのみんながこんな出動して命懸けの思いしないように、そもそも事故とかテロとかなくそうよ!!」と思ってしまったwそれやとドラマにならないんやけどw
でも、どんな災害も未然に防ぐのが一番。ヒーローの出番がないのが一番平和だ。
誰も悲しみ痛い思いをしないことを、切に願う。

MERには希望がある。
それと同時に、危うさも孕んでいる。
どんな命でも救うーー時にその美しい理念は諸刃の刃となって、彼ら医療従事者に突き刺さる。
それでも彼らは、諦めずにできることを一つずつやっていく。
どんなに危険でも、決して患者さんを見捨てない。
ヒーローだからじゃない、それが仕事だから。
誰かに押し付けられた役割でなく、自分の意思でやっているから。


極限状態でその理念を貫き通すときーー彼らの「仕事」は、「使命」に変わる。

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