秋月の鬼

凪子

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一、

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山鳥のさえずりが高らかに響いていた。

早春だというのに霜の降りた畑を見つめながら、少女が手に吹きかける息は白い。

見上げれば、村と呼ぶにはいささか小さすぎる集落の背後、緑の山々が屏風のようにそびえ立ち、吹き下ろす風は凍えるように冷たかった。

山々の谷間を鉈で削り取ったようにして、点々と家の並んだ目立たぬ寒村。

畑と田園、小川と森。それ以外にほとんど何もない。

のどかと言えば聞こえはいいが、要するに忘れられ、見捨てられた集落なのであった。

その集落もほのかに明るく曙光に包まれており、村人達が起き出すまでにはまだ一刻ほどの猶予があった。

集落の一つの家――ほったて小屋に近い、泥と木とわらでできた粗末なもの――から、少女が出てきた。

年の頃は十二か三か。あどけない頬の線、小柄な背に粗末な着物を着ている。

泥のように眠り続けている家族を背に、少女は小屋の裏手に回ると、手早く釣瓶を落として井戸水を汲み上げ、何度か家を往復する。冷水で顔を洗うと、ぼろ布でそれを拭った。

家に戻った少女は、しばらく何やら考え込むように土間の机の前に座っていたが、やがて筆と硯を取り出すと、紙にさらさらと何事か書きつける。

まだ幼い彼女の、年齢にそぐわぬ流麗な筆跡であった。

振り向けば、土間とさして広さの変わらぬ板の間に、身をくっつけるようにしてひしめき合い、眠りについている家族が五人。

少女はそっと、身じろぎもせず眠りこけている家族らを起こさぬよう、極力物音を立てずに戸口まで歩いていった。

春先の淡い光が、くり抜いただけの明かり取りの窓から差し込んできて目を細める。

その時だった。

常盤ときわ

不意に呼びかけられた声に驚く風もなく、常盤と呼ばれた少女はゆっくりと振り向いた。
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