秋月の鬼

凪子

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一、

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朝日に照らされた白い肌、肩先まで伸びた黒髪、意志の強そうな瞳、聡明を刷毛で描いたような眉。

「おはようございます。母様」

「行くのかい」

と、静かな声で問われれば、神妙な顔で頷く。

土間に膝をつき、ぴたりと三本指をついて、

「長らくの間、お世話になりました。これよりどうぞ、常盤ときわのことはお忘れください。今まで育てていただいた御恩を仇で返すのですから、血のつながりも家族の縁も切られること、覚悟しております」

痩せこけた母の頬に、つうと一筋の涙が流れる。

分かっちゃいるけれど、と嘆きを噛み殺しながらも、母は繰り返す。

「もう一度考え直しはしないか」

常盤は硬く沈黙を貫く。

「行かないでおくれ。誰のためにもなりゃしない。……あそこは鬼の棲む城だ。一度入れば最後、生きて出られやしない地獄の釜だ」

「承知しております」

常盤は目を伏せる。

不帰ふきの城、白骨がうず高く積まれた死の楼閣。

都の恐ろしい噂は風となって、ここ暮里村のような貧農の村にもあまねく轟いていた。

「行ったものはことごとく帰らない、骨まで食いつくされてしまいだよ。それもお前の会おうとしているお方は、その悪鬼巣窟の城主ときた。そんなところに一人で出かけていって、無事に帰れるはずがない。命をどぶに捨てるようなもんだよ。

誰が好きこのんで秋月の鬼に会いに行くかい。誰が望んで鬼の嫁になろうというのかい。
現にあそこに嫁いだ御大臣の姫が、何年か前、見るも無惨な死にざまをさらしたというのに」
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