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秋の章
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――ユリシス様をお護りしろ、が父の口癖だった。
フラクタル家はモルガン家の主筋の一、けれど家格としてはせいぜい中の下、なみいる貴族の中でさほど高い地位にあるわけではなかった。
取り立てられるようになったのは、レッドの父の功績によるところが大きい。
父は自分の人生の全てを捨てて主君であるユリシスの父に身を捧げ、奉仕の限りを尽くした。
自身が主君を狙った凶弾に倒れる、そのときまでずっと。
モルガン卿の忠実なしもべ。それ以外に父を表す記号はなかった。
個人としての喜びや望みを追求したことなど、レッドが知る限りでは一度もなかった。
自分の人生を、ひたすら影としてまっとうすることだけを選んだ父の内心を、レッドはいまだにはかりかねている。
「俺はユリシスと違って、最初から跡継ぎと目されてたわけじゃない」
呟くように言った、その言葉を耳に拾ってフィンが顔を上げる。
「跡継ぎって?」
「家族がいないんじゃ分からないだろうけどな」
レッドは前置きして、
「生まれた子供の中で、家の財産や権利を代表して引き継ぐ人間のことを跡継ぎっていうんだよ。エスペラント皇帝家じゃ、代々末子相続が行われてる。末っ子が全部をもらうってやり方だ。
逆に貴族とか、ほかの家では長子相続が一般的だ」
「一番上のお兄さんが、家の代表?」
「そういうこと」
レッドは頷いた。
「一番上が女だった場合は、その女が継ぐか次に生まれた男が継ぐか、それぞれ家ごとに決まりがある」
「ほかの兄弟はどうなるの?」
「何ももらえない」
レッドは両手のひらを返して天井に向けた。
「だから、ほかの男は別の家の養子になるか、跡継ぎの下について補佐する。女は嫁に行くか、実家で養ってもらうしかない。どちらにせよ、一生肩身の狭い思いをするわけ」
「それで、レッドは跡継ぎなんだね?」
フィンがきらりと目を輝かせた。
「……まあ、一応な」
しばらく間を置いて答えた、レッドの瞳は深淵だった。
フラクタル家はモルガン家の主筋の一、けれど家格としてはせいぜい中の下、なみいる貴族の中でさほど高い地位にあるわけではなかった。
取り立てられるようになったのは、レッドの父の功績によるところが大きい。
父は自分の人生の全てを捨てて主君であるユリシスの父に身を捧げ、奉仕の限りを尽くした。
自身が主君を狙った凶弾に倒れる、そのときまでずっと。
モルガン卿の忠実なしもべ。それ以外に父を表す記号はなかった。
個人としての喜びや望みを追求したことなど、レッドが知る限りでは一度もなかった。
自分の人生を、ひたすら影としてまっとうすることだけを選んだ父の内心を、レッドはいまだにはかりかねている。
「俺はユリシスと違って、最初から跡継ぎと目されてたわけじゃない」
呟くように言った、その言葉を耳に拾ってフィンが顔を上げる。
「跡継ぎって?」
「家族がいないんじゃ分からないだろうけどな」
レッドは前置きして、
「生まれた子供の中で、家の財産や権利を代表して引き継ぐ人間のことを跡継ぎっていうんだよ。エスペラント皇帝家じゃ、代々末子相続が行われてる。末っ子が全部をもらうってやり方だ。
逆に貴族とか、ほかの家では長子相続が一般的だ」
「一番上のお兄さんが、家の代表?」
「そういうこと」
レッドは頷いた。
「一番上が女だった場合は、その女が継ぐか次に生まれた男が継ぐか、それぞれ家ごとに決まりがある」
「ほかの兄弟はどうなるの?」
「何ももらえない」
レッドは両手のひらを返して天井に向けた。
「だから、ほかの男は別の家の養子になるか、跡継ぎの下について補佐する。女は嫁に行くか、実家で養ってもらうしかない。どちらにせよ、一生肩身の狭い思いをするわけ」
「それで、レッドは跡継ぎなんだね?」
フィンがきらりと目を輝かせた。
「……まあ、一応な」
しばらく間を置いて答えた、レッドの瞳は深淵だった。
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