護国の鳥

凪子

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冬の章

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「最後通告だ。今すぐ武器を捨てて投降しろ。そうすれば、自害できるよう上に嘆願してやる」

「面白い冗談だね」

ラグランジュは哄笑したかと思うと、目を細めて言った。

「それはこちらの台詞だよ。無駄な抵抗はやめて、大人しく僕らに下るといい。そうすれば、この名誉ある革命の末席に加えてあげよう」

「……駄目だ。完全に狂ってやがる」

レッドが小声でわずかな可能性を破り捨てる。

「ほかの連中は捨て駒でしかない。だが選ばれた諸君らなら、僕らに加わることを許可しよう。正義への忠誠を誓い、この国を浄化するという使命を共に果たそうじゃないか」

ルートはフィンを見つめた。

目が据わっており、それでいて爛々と輝いている。全く話に反応しない。

ルベリエも気味の悪さを感じているのだろう、ラグランジュと正対しながらも、余念なくフィンを警戒している。

「あいにく、素直に人の説得に応じるような性分じゃない。俺も、こいつらもな」

ルベリエは言い、剣を抜いた。

「監視と隔離」

ラグランジュも同じく剣を抜き、構えて背後の者を下がらせた。

「インフィニティの行動を逐一見張ること、一般社会から遠ざけること。サイクロイドは、その目的に適う唯一の場所だった。もとよりここは彼のための檻にすぎない」

可哀想にね、と猫なで声で言う。

「フィン、おいで。ここから解放してあげるよ。僕と共に行こう」

フィンが顔を上げ、碧すぎる瞳がラグランジュを捉える。

「行っちゃだめだ!」

ユリシスは叫んだ。

「目を合わせるな、チビ」

レッドが顔を掴んで右方向に捻る。

ルベリエは溜息をつき、痛切な瞳で言った。

「まさかお前を、殺さなければならない日が来るとはな」

「小細工抜きの勝負がしたい」

ラグランジュは部下に命じた。

「お前たちは手を出さなくていいよ」

二人は剣を正眼に構え、雪の中で間合いを測っている。

降りしきる雪が視界を狭くし、体温の低下が指先をかじかませる。

今のうちに、逃げられるものなら逃げておきたい。

ルートは振り向いてフィンの様子を見るが、レッドは首を振る。

再び人形と化したフィンは、まるで置物のように静止している。

「教官が死んだら、お前だけでも逃げろよ」

レッドが言い、ユリシスは「嫌だ」と言い張った。

「僕はインバースを止める。そして、全員で生きて帰るんだ」

その目は丘の上から見える本土、首都州エスペラントを見据えている。

「な?馬鹿だろ、こいつ」

レッドはルートを肘で小突いて言った。

「この状況でも、お前はお前なんだな」

ルートの思いがけず優しい声に、ユリシスは瞠目した。

レッドが吹き出し、頭の後ろに手を回す。

「まあ俺も?余裕で生きて戻るけどな。こんな薄ら寒い、男だらけのむさ苦しいとこで死ねるかっての。俺は死ぬときは美人の腕の中って決めてるんでね」

ルートは今なぜか、四人でいる状況を心強く思う自分に気づいていた。

「フィン、お前はどうなんだ」

魂が遠くへ行ってしまったような抜け殻に向かって問いかける。

揺さぶると、金の髪に積もった雪がはらはらとこぼれかかった。

いつのまにか血は固まり、制服の胸元から腹部にかけてがどす赤く染まっている。

三年前、軍によって滅ぼし尽くされた一族の生き残り。

引き取られた施設で人体実験を受け、士官学校では監視され、記憶は闇の中。

痛みを感じない体で、今何を思うのか。

「このまま何も知らず、何も分からないまま利用されていていいのか」

ルートはフィンの手を握って、心をこめて語りかける。

「思い出せよ。本来の自分に戻れ。どんな過去でも記憶でも、俺が受けとめてやるから」

およそルートらしからぬ物言いに、レッドとユリシスは驚いた表情で目を見交わせた。

がらんどうだったフィンの瞳が揺れ、澄んだ空のような瞳から静かに涙が溢れるのを見て、三人はぎくりと背筋を硬直させた。

フィンは薄紅の唇を開き、右手を招くように空に伸ばし、か細い声でその名を呼んでいた。

「ハミル……」






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