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第一章

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そのとき、突き刺すような視線を感じて、真啓は思わず振り向いた。

だが、こちらを見ている者はおらず、通りを行く人々に怪しいそぶりは見られない。

誰かが隠れて様子を窺っている気配も感じられない。

気のせいか。

打ち消しつつも、真啓は首筋のあたりがちりちりと焦げるような心地がした。

「あのー」

油断していたところを、いきなり背後から声をかけられ、真啓は地面から数センチ飛び上がった。

真啓のあまりの驚きぶりに、声をかけた本人もびくっと肩を強張らせて目をみはっている。

栗色に髪を染め、ブレザーをおしゃれに着崩した、今どきっぽい高校生だ。

「あ、いらっしゃいませ」

真啓は反射的に営業スマイルで取り繕って頭を下げた。ビビりすぎた自分が恥ずかしい。

「あの、これ」

と言って、彼は窓ガラスに張られた紙を人差し指で示した。

【アルバイト募集、時給1000円(夜勤は1200円)曜日時間応相談。】

「あ、アルバイト募集の。今ちょっと店長いないんですよ。よかったら電話番号教えてもらえますか。また改めてこちらからかけ直しますんで」

「え?あ、いや」

そう言うと、突然、彼は目に見えてうろたえた。

「いいっす。また来ます」

そして真啓の胸元あたりをじっと見つめ、それから帰っていった。

アルバイトをしたいわけじゃなかったのだろうか。

後姿を見送りながら、真啓は凝視されていた胸元にちらりと目をやる。

首から下げられた小さなプラカードに、自分の名前が書かれているだけだった。
















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