ウェルテルの陰謀 －美少女と美少年(？)に囲まれた俺の運命やいかに？ー

第二章

71

「おはよ」

翌日、真啓の隣の席にさっと滑り込むと、公香はいつものように快活な笑みをひらめかせた。

つられてついこちらも微笑んでしまうような求心力と親和力のある笑顔だ。

そこだけ切り取ってみれば、まるで歯磨き粉のＣＭのように爽やかな朝の一場面と言えなくもなかった。

「おう」

真啓はひらひらと手を振って応じる。表情が硬くなっていることに気づかれなければいいのだが。

何か当たり障りのない話題を探していると、公香はさっそく切り込んできた。

「里香から聞いたんだろ？」

答えあぐねた真啓は、肯定とも否定ともとれる奇妙な唸り声を上げた。

「あー……うー……」

公香が呆れ顔になり、真啓の背を思いっきりたたく。一瞬、息が止まりそうになった。

「何だその返事は。珍獣にでもなったつもりか？」

「……ごめん」

何に対してどうして謝っているのか、自分でもよく分からなかった。

居たたまれなくて、顔を上げられなくなる。

公香は肩をすくめて特大のため息をつくと、

「情けないな」

そのとおりだったので、真啓はますます恐縮する。

「聞きたいって言ったのはお前だろ？今さらウジウジするな。それに何より、」

真啓の視線がのろのろと上がり、公香の表情の前でピントを結ぶ。

「私自身は全く覚えてないことだしな」

相変わらず、彼女は容赦ないほど強く美しかった。