ウェルテルの陰謀 －美少女と美少年(？)に囲まれた俺の運命やいかに？ー

第二章

79

「すみません」

声をかけられ、真啓は激しく動揺したまま顔を上げた。

品のいいスーツに身を包んだ青年が、闊達な笑顔で立っていた。

差し出された手に集めた書類を手渡す。そのついでに、不躾にならないよう、何気なく観察する。

思った以上に若い。がっちりとした肩幅に逞しい体躯は、何かのスポーツをやっていることを窺わせる。

くっきりとした精悍な顔立ちをくしゃりと笑ませ、

「ありがとうございます」

思わず引き込まれてしまうような、人なつっこく魅力的な笑顔だった。

青年は育ちがいいのか、とても礼儀正しくお辞儀をした。

それからもう一度丁寧に礼を述べて、背を向けて歩き出そうとする。

呆然と後姿を見送っていた真啓だが、

「あの！」

とっさに駆け寄って声をかけていた。

振り向いた青年は、真啓を見て、わずかな戸惑いを浮かべる。

「何でしょう？」

「アレ、どういうことですか」

「は？」

言わんとしているところが全く飲み込めない様子で、ぽかんとする青年。

真啓はうろたえながらも焦れたように言った。

「さっきの書類、ちらっと見えたんです」

青年の顔が、戸惑いから怪訝にゆっくりと色を変える。

疑惑の目を向けられ、その口が開く前に、真啓は先制した。

「あの、詩の文章。愛しのシャルロッテ。何であなたがあれを持ってるんだ」

愛しのシャルロッテ。

狂信的に連ねられたあの文字の並び、忘れるはずがない。

青年はぎょっとしたように硬直したまま、言葉を発さなかった。

一瞬にして場の雰囲気が変わり、立ち位置が逆転する。