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第三章
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授業を終えた小学校の教室は閑散としている。
生徒たちはそれぞれに、クラブ活動や塾や遊びへと繰り出していく。
黒のつややかなランドセルに、几帳面に教科書を揃えて入れると、三上楓は後ろを振り向いた。
今まさに声をかけようとしていた少女が、びくりとして立ちすくむ。
「何?」
「あ……」
少女は手を口許へ持って行き、もじもじした様子で口ごもる。
楓は醒めた目でそれを眺め、ランドセルを背負って通り過ぎざまに言った。
「用がないなら帰るから」
「あ、待って!」
少女は今にも泣き出しそうな目で呼び止めた。
「えっと……あのね……きょ、今日、三上君……」
どうにも要領を得ない返事に、楓は眉を寄せる。
「あのあの今日はありがとう!」
「はあ?」
楓は怪訝な顔で言った。
「君にお礼を言われる覚えないんだけど」
廊下を歩き、下足室に向かう間も、少女がびくつきながらもずっと後ろをついてくる。
「……まだ何か?」
校門のところまできて、うっとうしさと気味悪さがピークに達し、楓は切り口上になった。
少女はひっと声をあげ、卑屈に身をかがめた。
「あ、あの、私、昼休み、た、助けてもらって」
どもりながら言われて、ようやく合点が行った。
「……ああ」
昼休み、渡り廊下を渡って図書館に行こうとしていると、中庭でドッヂボールをしていた男子生徒のボールが飛んできた。
すぐ前を歩いていた女の子にぶつかりそうだったので、軽く肩を押してかばったのだった。
ボールは壁をバウンドして、魔法のように楓の手に収まった。
突き飛ばした拍子によろめいた、怯えたウサギのような目を思い出す。
「大丈夫だった?怪我しなかった?」
おろおろとした顔つきと口調は、かなりイライラさせられる。
「平気だから」
楓が邪険に振り払うと、
「おーっとお。邪魔しちゃったかな?」
ちっとも悪びれない声が降ってきた。
楓はちっと舌打ちして、声のした方向を見つめる。
北大路公香の尊大な顔と、有澤真啓の苦笑いがそこにあった。
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「あ……」
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「用がないなら帰るから」
「あ、待って!」
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「はあ?」
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「あ、あの、私、昼休み、た、助けてもらって」
どもりながら言われて、ようやく合点が行った。
「……ああ」
昼休み、渡り廊下を渡って図書館に行こうとしていると、中庭でドッヂボールをしていた男子生徒のボールが飛んできた。
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ボールは壁をバウンドして、魔法のように楓の手に収まった。
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「大丈夫だった?怪我しなかった?」
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「平気だから」
楓が邪険に振り払うと、
「おーっとお。邪魔しちゃったかな?」
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楓はちっと舌打ちして、声のした方向を見つめる。
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