120 / 147
第三章
119
しおりを挟む
「二人は腕を組んで笑いながら、ある方向へ歩いていきました」
話が見えないまま、真啓と公香は頷いた。
「そこには、派手なネオンのついた変な形の建物がありました。ラブホテルです」
楓は自嘲する。
「よく分かっていなかった僕は、それでも何かしら嫌なものを感じて、母の前に飛び出そうとしました。だけど、できなかった」
「どうして?」
「見てしまったからですよ。二人よりも先にラブホテルへ入って行く車、その中に乗っている父親と、あなたの顔を」
真啓の全身が総毛立った。
公香は目を瞬かせ、何かを堪えるような顔をした。
「じゃあ、間違いないんだな?お前の父親の車に乗せられて、私はラブホに入っていったと」
「そうです。あなたは眠っているようだった」
「そりゃそうだ。なんせ気絶してたんだからな」
公香は乾いた笑い声を立てる。
真啓は強い後悔の念に襲われた。
公香が望んだこととはいえ、この話を目の前で聞かせるんじゃなかった。
「混乱しきった僕は、怖くなってその場を逃げ出しました。母と父が鉢合わせになることはなかったようで、それから何事もなかったかのように日常は続いていった」
だけど、と楓は言葉を上乗せした。
「僕は忘れることができなかった。どうして父とあなたは一緒にいたのか。父は父で浮気をしていたのか。それとも」
「事件の加害者だったのか」
公香が言葉を引き取った。
「あなたは蒼白な顔で眠っていた。とてもドライブに疲れて眠ってるような顔じゃなかった。それに、あの日帰ってきた父は明らかに動転していた。
だから僕は、あの後、偶然あなたを電車で見かけたときに後をつけて、あなたが通っていた予備校に行った」
当時、公香は高校三年生。
予備校に問い合わせれば、名前も住所も分かる。
「そして、吉村和臣を選んで、あなたを調べさせた。万引きのことはどうでもよかった。ただ、きちんと言うとおりに動いてくれればそれで」
「事件のことは和臣から聞いたんだな」
公香は静かに尋ねた。
「そうです。宇都宮の男子と聖蘭の女子は交流が盛んですからね。あなたが誘拐されたという噂は広まっていた」
「それで手を打った。自分の父親がやったことを隠すために」
「でも予想外だったのは、公香さん、あなたが事件のことを本当に何も覚えていなかったことです」
楓は淡々と言った。
「里香さんや有澤さんは目立った動きがあったのに、あなただけは、ほとんど何も行動していなかった。だから余計に怖くなった。忘れたままでいてくれるのならいい。だけど、突然思い出したら、何が起こるか分からない。
ずっと、あなたの記憶が戻ることに怯えていた。だからいろいろ小細工をしたんですが、どうやらやぶへびだったみたいですね」
「そうだな。逆効果だったとも言える。お前が脅迫状なんか出さなきゃ、里香はともかく、真啓はあんなに慌てて犯人探しはしていなかっただろうよ」
「後学に役立てたいですね」
楓は年に似つかぬ諦念のこもった口調でそう言った。
話が見えないまま、真啓と公香は頷いた。
「そこには、派手なネオンのついた変な形の建物がありました。ラブホテルです」
楓は自嘲する。
「よく分かっていなかった僕は、それでも何かしら嫌なものを感じて、母の前に飛び出そうとしました。だけど、できなかった」
「どうして?」
「見てしまったからですよ。二人よりも先にラブホテルへ入って行く車、その中に乗っている父親と、あなたの顔を」
真啓の全身が総毛立った。
公香は目を瞬かせ、何かを堪えるような顔をした。
「じゃあ、間違いないんだな?お前の父親の車に乗せられて、私はラブホに入っていったと」
「そうです。あなたは眠っているようだった」
「そりゃそうだ。なんせ気絶してたんだからな」
公香は乾いた笑い声を立てる。
真啓は強い後悔の念に襲われた。
公香が望んだこととはいえ、この話を目の前で聞かせるんじゃなかった。
「混乱しきった僕は、怖くなってその場を逃げ出しました。母と父が鉢合わせになることはなかったようで、それから何事もなかったかのように日常は続いていった」
だけど、と楓は言葉を上乗せした。
「僕は忘れることができなかった。どうして父とあなたは一緒にいたのか。父は父で浮気をしていたのか。それとも」
「事件の加害者だったのか」
公香が言葉を引き取った。
「あなたは蒼白な顔で眠っていた。とてもドライブに疲れて眠ってるような顔じゃなかった。それに、あの日帰ってきた父は明らかに動転していた。
だから僕は、あの後、偶然あなたを電車で見かけたときに後をつけて、あなたが通っていた予備校に行った」
当時、公香は高校三年生。
予備校に問い合わせれば、名前も住所も分かる。
「そして、吉村和臣を選んで、あなたを調べさせた。万引きのことはどうでもよかった。ただ、きちんと言うとおりに動いてくれればそれで」
「事件のことは和臣から聞いたんだな」
公香は静かに尋ねた。
「そうです。宇都宮の男子と聖蘭の女子は交流が盛んですからね。あなたが誘拐されたという噂は広まっていた」
「それで手を打った。自分の父親がやったことを隠すために」
「でも予想外だったのは、公香さん、あなたが事件のことを本当に何も覚えていなかったことです」
楓は淡々と言った。
「里香さんや有澤さんは目立った動きがあったのに、あなただけは、ほとんど何も行動していなかった。だから余計に怖くなった。忘れたままでいてくれるのならいい。だけど、突然思い出したら、何が起こるか分からない。
ずっと、あなたの記憶が戻ることに怯えていた。だからいろいろ小細工をしたんですが、どうやらやぶへびだったみたいですね」
「そうだな。逆効果だったとも言える。お前が脅迫状なんか出さなきゃ、里香はともかく、真啓はあんなに慌てて犯人探しはしていなかっただろうよ」
「後学に役立てたいですね」
楓は年に似つかぬ諦念のこもった口調でそう言った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる