ウェルテルの陰謀 -美少女と美少年(?)に囲まれた俺の運命やいかに?ー

凪子

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第三章

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「二人は腕を組んで笑いながら、ある方向へ歩いていきました」

話が見えないまま、真啓と公香は頷いた。

「そこには、派手なネオンのついた変な形の建物がありました。ラブホテルです」

楓は自嘲する。

「よく分かっていなかった僕は、それでも何かしら嫌なものを感じて、母の前に飛び出そうとしました。だけど、できなかった」

「どうして?」

「見てしまったからですよ。二人よりも先にラブホテルへ入って行く車、その中に乗っている父親と、あなたの顔を」

真啓の全身が総毛立った。

公香は目を瞬かせ、何かを堪えるような顔をした。

「じゃあ、間違いないんだな?お前の父親の車に乗せられて、私はラブホに入っていったと」

「そうです。あなたは眠っているようだった」

「そりゃそうだ。なんせ気絶してたんだからな」

公香は乾いた笑い声を立てる。

真啓は強い後悔の念に襲われた。

公香が望んだこととはいえ、この話を目の前で聞かせるんじゃなかった。

「混乱しきった僕は、怖くなってその場を逃げ出しました。母と父が鉢合わせになることはなかったようで、それから何事もなかったかのように日常は続いていった」

だけど、と楓は言葉を上乗せした。

「僕は忘れることができなかった。どうして父とあなたは一緒にいたのか。父は父で浮気をしていたのか。それとも」

「事件の加害者だったのか」

公香が言葉を引き取った。

「あなたは蒼白な顔で眠っていた。とてもドライブに疲れて眠ってるような顔じゃなかった。それに、あの日帰ってきた父は明らかに動転していた。
だから僕は、あの後、偶然あなたを電車で見かけたときに後をつけて、あなたが通っていた予備校に行った」

当時、公香は高校三年生。

予備校に問い合わせれば、名前も住所も分かる。

「そして、吉村和臣を選んで、あなたを調べさせた。万引きのことはどうでもよかった。ただ、きちんと言うとおりに動いてくれればそれで」

「事件のことは和臣から聞いたんだな」

公香は静かに尋ねた。

「そうです。宇都宮の男子と聖蘭の女子は交流が盛んですからね。あなたが誘拐されたという噂は広まっていた」

「それで手を打った。自分の父親がやったことを隠すために」

「でも予想外だったのは、公香さん、あなたが事件のことを本当に何も覚えていなかったことです」

楓は淡々と言った。

「里香さんや有澤さんは目立った動きがあったのに、あなただけは、ほとんど何も行動していなかった。だから余計に怖くなった。忘れたままでいてくれるのならいい。だけど、突然思い出したら、何が起こるか分からない。
ずっと、あなたの記憶が戻ることに怯えていた。だからいろいろ小細工をしたんですが、どうやらやぶへびだったみたいですね」

「そうだな。逆効果だったとも言える。お前が脅迫状なんか出さなきゃ、里香はともかく、真啓はあんなに慌てて犯人探しはしていなかっただろうよ」

「後学に役立てたいですね」

楓は年に似つかぬ諦念のこもった口調でそう言った。
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