ウェルテルの陰謀 -美少女と美少年(?)に囲まれた俺の運命やいかに?ー

凪子

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第三章

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コンビニで買い込んだお菓子類には一切手をつけず、酒に申し訳程度口をつけただけで、公香は真啓のベッドで横になった。

腹ばいになって床を探っているので怪訝な顔をすると、

「エロ本がないぞ」

「何当たり前の顔してエロ本要求してるんだよ!ないから!」

「ふーん」

公香の横目が冷たい。真啓は背中に冷や汗をかいていた。

それでも、口をつぐんで横になっている様子はしおらしい。

心細そうに、いささか緊張した面持ちは普通の女の子だ。

「最近、視線感じることが多かったろ」

唐突な口火の切り方だったが、真啓は頷いた。

「多かったな」

「視線なら、ちっとも困らなかったんだ。見てるだけの奴は行動なんか起こせやしない、振り払ってしまえばいいと思ってた。だけど、」

そう言って口ごもる。吐きだした息が震えていた。

「公香」

真啓はベッドの上で小さくなる公香を見つめる。

「ずっと、ぴったり誰かが後ろをついてきて……怖くて逃げることもできなかった。何もできなかった。私は、」

何をされたか分からない空白の時間を抱えて、誰かの視線を感じて。

「平気なわけないよな」

公香は思わず両手で顔を覆う。壁に背を向け、筋張った肩が小刻みに揺れる。

「本当は……怖かった。ただ逃げ出したくて、目を背け続けていたかった。何も解決しなくても、黙って見ないふりしたままやりすごせば、これ以上ひどいことは起らないんじゃないかって」

潤んだ瞳を見て、真啓は思わず公香の肩を抱く。

「気づかなくて、ごめんな」

お前が強さも弱みも持っている、ただの女の子なんだってこと。

「そんなことも気づかなくて、本当に、ごめん」

公香は泣き笑いの表情を見せた。

「お前は謝ってばかりだな」

手のひらに肩の丸みを感じ、予想以上に近い距離に心臓が暴れ出す。

やましい気持ちなんてないと言い聞かせる度に体温が上がっていく。

「公香。三上君の父親には、俺が会って話を聞くよ」

「そう言うと思ったよ」

公香はさらに顔を寄せ、眉をしかめた。

「だけど、私は行く。やっと掴んだ手がかりなんだ。それに、」

「それに?」

「合格発表を友達に見てもらうのは性に合わないからな」

確かにそのとおりだ。

自分の知っている公香は、満身創痍になっても独りで立ち上がるだろう。

たとえ戦う相手がどんな者でも、自分自身でも。

「分かった。じゃあ一緒に行こう」

「それは構わないが」

言って公香は鼻を啜り、肩を抱く真啓の手首を掴む。

「この手は何だ?」

「痛い痛い痛い痛い!ギブ!ほんとギブ!」

「何だと聞いている」

「すいません俺が悪かったですそういうつもりじゃ……うわーっ!!!」

視界が反転したかと思うと、腕ひしぎを極められていた。

真啓はギブアップを示すためにベッドを何度もたたく。

「ごめんって!何もしないから!」

「当たり前だ。何かあってたまるか。百歩譲って死刑だ、馬鹿野郎!!」

その後、静まりかえった夜中の空気に、断末魔の悲鳴が響いたことは言うまでもない。




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