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第三章
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「それで」
公香の声が冷ややかに言った。
「それでどうしたって言うんだ」
すらりとした白い脚を組む。
威圧的な視線に負けて――いや、端から勝負になどなっていないのだが――輝男はさらに低くこうべを垂れた。
「私は……私は、あなたを殴って眠らせ、約束のホテルへ行き、別室に待機していたその少女と男に引き渡しました。すると男はあなたに催眠剤のようなものを打って、催眠術のようなものをはじめたんです」
「催眠術?」
真啓が問い返すと、輝男は水を得た魚のように早口になった。
「催眠術というものがどういうものか、私もよくわかりません。ですが、あの男は昏睡状態のあなたに巧みに暗示をかけているように見えました」
カタカタと何かが鳴っている。公香の歯の根が合わず震えているのだ。
恐怖や哀しみではなく、怒りで。
真啓はテーブルの下で公香の手に自分の手を重ね、静かに問うた。
「それは……どのように?」
楓がこくりと唾を飲む。
「よく分かりませんでした。ですが、その語りかける様子があまりにも異様で、私は怖くなって逃げ出しました。誰も追ってくることはありませんでした」
『お姉ちゃんは死んだのよ。昔は――あんなふうじゃなかったのに』
『僕が公香ちゃんに告白した日、あの事件は起こったんだ』
どこかで誰かから言葉がぐわんぐわんと頭の中で鳴り響いた。
「洗脳――しようとしていたのか」
低く押し殺した、自分のものとは思えない乾いた声がそう言った。
「その男も、恐らくは少女の顧客だと思います。二人でホテルに入っていたし、親密な様子でした」
「その男と少女の名前は?」
「……分かりません」
「しらばっくれんな」
公香が悪辣に罵った。
「本当に、本当に知らないんです。少女は優と名乗っていましたが、それも本名ではないようだったし」
「チッ。役立たずが」
「まあまあ。その、優って人に連絡は取れるんですか」
「あのことがあって以来、連絡はしていませんが……」
「何とかしてつなぎとめてください。後は俺がなんとかします」
あくまでも穏やかに、だが有無を言わさぬ声色で真啓は言い封じた。
ほぼ反射的に輝男が頷く。
そうやって命じられたまま従うことが唯一、自分の名誉を守る術だと信じてでもいるかのように。
「それと、この手紙に見覚えはありませんか?」
公香の声が冷ややかに言った。
「それでどうしたって言うんだ」
すらりとした白い脚を組む。
威圧的な視線に負けて――いや、端から勝負になどなっていないのだが――輝男はさらに低くこうべを垂れた。
「私は……私は、あなたを殴って眠らせ、約束のホテルへ行き、別室に待機していたその少女と男に引き渡しました。すると男はあなたに催眠剤のようなものを打って、催眠術のようなものをはじめたんです」
「催眠術?」
真啓が問い返すと、輝男は水を得た魚のように早口になった。
「催眠術というものがどういうものか、私もよくわかりません。ですが、あの男は昏睡状態のあなたに巧みに暗示をかけているように見えました」
カタカタと何かが鳴っている。公香の歯の根が合わず震えているのだ。
恐怖や哀しみではなく、怒りで。
真啓はテーブルの下で公香の手に自分の手を重ね、静かに問うた。
「それは……どのように?」
楓がこくりと唾を飲む。
「よく分かりませんでした。ですが、その語りかける様子があまりにも異様で、私は怖くなって逃げ出しました。誰も追ってくることはありませんでした」
『お姉ちゃんは死んだのよ。昔は――あんなふうじゃなかったのに』
『僕が公香ちゃんに告白した日、あの事件は起こったんだ』
どこかで誰かから言葉がぐわんぐわんと頭の中で鳴り響いた。
「洗脳――しようとしていたのか」
低く押し殺した、自分のものとは思えない乾いた声がそう言った。
「その男も、恐らくは少女の顧客だと思います。二人でホテルに入っていたし、親密な様子でした」
「その男と少女の名前は?」
「……分かりません」
「しらばっくれんな」
公香が悪辣に罵った。
「本当に、本当に知らないんです。少女は優と名乗っていましたが、それも本名ではないようだったし」
「チッ。役立たずが」
「まあまあ。その、優って人に連絡は取れるんですか」
「あのことがあって以来、連絡はしていませんが……」
「何とかしてつなぎとめてください。後は俺がなんとかします」
あくまでも穏やかに、だが有無を言わさぬ声色で真啓は言い封じた。
ほぼ反射的に輝男が頷く。
そうやって命じられたまま従うことが唯一、自分の名誉を守る術だと信じてでもいるかのように。
「それと、この手紙に見覚えはありませんか?」
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