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【1】アリオン
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「江本さん」
エレベーターのドアが開いたところで、引き留めようと思わず肩を掴んで驚いた。
直に骨に触れているような、片手で握りつぶしてしまえそうな細さと脆さに。
無人のエレベーターは音を立てずに閉まり、ランプは下の階へと一つ一つ明滅を開始する。
物言わぬ瞳がこちらを見上げ、間近に相対して言葉に詰まった。
江本弥生は、美少女なのだ。
二十四にもなる女性に対して、こんな表現を使うことは不適切だというのは分かっている。
だが、そうとしか言いようがない雰囲気を弥生はまとっていた。
あどけない少女のまま、時を止めてしまったような。
見下ろすと、長い睫毛がびっしりと扇のように生えている。
血管が薄く透けて見える白い肌に、小さな唇は桜色に潤っている。
百四十センチそこそこという背丈の低さと大きな垂れ気味の瞳が、彼女を実年齢より五歳も十歳も年下に見せていた。
――あの日から、何一つ変わらず。
「手」
掴みっぱなしの腕を指さし、弥生は淡々と言った。
「離してください」
「あ、ごめん」
火傷でもしたかのように、慌てて手を引っ込める。
すると背中を向け、弥生は再びエレベーターのボタンを押した。
「どうしても駄目かな」
半ば諦めながらも、縋るような思いで言葉を重ねる。
「冴島さん、言い方はきついかもしれないけど、いい人なんだ。俺もよく営業で面倒見てもらって、お世話になってる。でも合コンだから、代わりに俺が行くっていうわけにも行かないし。参加してくれたら、すごい助かるんだけど」
弥生は振り向かず、黙ってエレベーターを待っている。
気詰りな沈黙に、機械の稼働音が虚しさを呼んでくる。
仕方がない、諦めよう――英理は頭を下げた。
「分かった。引き留めてごめん。じゃ、お疲れさま」
歩き出したところで、静かな声が言った。
「向井さんは、向井君ですよね。美咲が丘中学の」
息が止まった。
喉を凍りつかせたまま振り向くと、開いたエレベーターに乗り込んだ弥生と目が合った。
「お久しぶりです」
悟り澄ました顔の弥生と扉によって隔てられた後も、しばらくの間、英理はその場に立ち尽くしていた。
エレベーターのドアが開いたところで、引き留めようと思わず肩を掴んで驚いた。
直に骨に触れているような、片手で握りつぶしてしまえそうな細さと脆さに。
無人のエレベーターは音を立てずに閉まり、ランプは下の階へと一つ一つ明滅を開始する。
物言わぬ瞳がこちらを見上げ、間近に相対して言葉に詰まった。
江本弥生は、美少女なのだ。
二十四にもなる女性に対して、こんな表現を使うことは不適切だというのは分かっている。
だが、そうとしか言いようがない雰囲気を弥生はまとっていた。
あどけない少女のまま、時を止めてしまったような。
見下ろすと、長い睫毛がびっしりと扇のように生えている。
血管が薄く透けて見える白い肌に、小さな唇は桜色に潤っている。
百四十センチそこそこという背丈の低さと大きな垂れ気味の瞳が、彼女を実年齢より五歳も十歳も年下に見せていた。
――あの日から、何一つ変わらず。
「手」
掴みっぱなしの腕を指さし、弥生は淡々と言った。
「離してください」
「あ、ごめん」
火傷でもしたかのように、慌てて手を引っ込める。
すると背中を向け、弥生は再びエレベーターのボタンを押した。
「どうしても駄目かな」
半ば諦めながらも、縋るような思いで言葉を重ねる。
「冴島さん、言い方はきついかもしれないけど、いい人なんだ。俺もよく営業で面倒見てもらって、お世話になってる。でも合コンだから、代わりに俺が行くっていうわけにも行かないし。参加してくれたら、すごい助かるんだけど」
弥生は振り向かず、黙ってエレベーターを待っている。
気詰りな沈黙に、機械の稼働音が虚しさを呼んでくる。
仕方がない、諦めよう――英理は頭を下げた。
「分かった。引き留めてごめん。じゃ、お疲れさま」
歩き出したところで、静かな声が言った。
「向井さんは、向井君ですよね。美咲が丘中学の」
息が止まった。
喉を凍りつかせたまま振り向くと、開いたエレベーターに乗り込んだ弥生と目が合った。
「お久しぶりです」
悟り澄ました顔の弥生と扉によって隔てられた後も、しばらくの間、英理はその場に立ち尽くしていた。
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