許された危険

凪子

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【1】アリオン

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――再会は、思いがけない形でやってきた。

一年前、株式会社永和楽器に『一つ下の後輩』として入社してきた弥生を見て、英理は仰天した。

弥生が一年留年していたことも、自分の会社を受けていることも知らなかったが、彼女であることは顔を見た途端すぐに分かった。

なぜなら、彼女は卒業から十年近く経っているのに、中学生のころと少しも変わっていなかったのだから。

正直、ぞっとした。

十五歳から二十四歳までの九年間といえば、肉体的にも精神的にも最も変化の激しい時期だ。

人によっては、別人のようになってしまう場合も少なくない。

にも関わらず、弥生は一ミリたりとも変わらず、人形のようにそこにあった。

そして決められた席につき、決められた仕事を黙々と行っている。中学の時と同じように。

身長が伸びていないことと、不気味なほど童顔ということが原因なのかもしれないが、それだけでは説明がつかないような気がした。

普通なら真っ先に声をかけて旧交を温めるのかもしれないが、英理はどうしてもそんな気になれず、結局去年一年間を通じて誰にも打ち明けることなく、弥生本人にもそのことを話題にしなかった。

職場に着任したときの挨拶も普通に聞き、業務連絡はするが、初対面の人間と接するようにして接する。

そうするうちに言い出す機会を失してしまい、何となく日々は流れていった。

「……まさか、本人に直接打ち明けられるとはな」

一人暮らしのアパートに戻り、鍵を開けながら小さく呟く。

言い出さなければ失礼だろうかと逡巡しながらも、心のどこかで、このままでいいと思っている自分がいた。

認めてしまったら、動き出す何かがある。

よく分からない闇の中に手を突っ込んで、その手触りを確かめるのが怖かった。

今まで社内の誰にも気づかれていなかったということは、弥生自身も二人の関係性を人に打ち明けたことはなかったということだ。

それがなぜ、今になって言い出したのだろう。

電気をつけ、しんとした室内にこもる冷蔵庫の音を聞きながら、英理は我知らず身震いしていた。

――どうして、こんなに嫌な予感がするんだろう。

その時は大したことではないと思っていても、振り返ると、それが重大な意味を持つ出来事だったと分かることがある。

もしかすると、これがそうなのだろうか。

――考えすぎか。

冷蔵庫を開けてビールとカップ焼きそばを取り出しながら、英理はかぶりを振って思考を打ち消す。

だが、否定することのできない事実は、結晶のように硬く心の底に根づいていた。

――俺は、あの子のことが苦手だった。

ずっと目を背けてきたことだが、今となっては認めざるを得ない。

昔から英理は弥生が苦手だった。どうしてか分からないが、好きになれなかった。

だが女子はともかく、男子の間でそんな本音が受け入れられるはずがないと察して、ずっと封じ込めてきたのだ。

「お久しぶり」ですと言った、弥生の顔が脳裏をよぎる。

九年ぶりの再会を認め、これから何を始めようというのだろう。

甲高い音を立ててやかんが鳴き、水の沸騰を教えてくれる。

ガスコンロを切り、蓋をめくった容器にお湯を注ぎながら、英理は自動的に遡ろうとする記憶を引ったくって、自分の手で無理やり切断する。

――繋ぎ直したくなんかない。

そして闇を吸い込んだガラスに映る、自らの顔を目にして気づく。

自分は決して、決して彼女との再会を望んだことはなく、喜んでもいないのだと。






































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