許された危険

凪子

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【1】アリオン

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連休明けの出勤日は、いつにもましておっくうなものだ。

体は職場にいても脳みそはまだお休みモードで、大きなものから小さなものまでミスが多発する。

あまりの眠さにトイレに立っていた英理は、フロアに戻る途中で甲高い声を聞いた。

「えーっ。いいんですか?」

一瞬びくっとして辺りを見回すと、給湯室に備え付けてある冷蔵庫の傍で女子社員が五、六人固まっている。

制服を着ている三人は派遣社員で、残りは弥生と冴島慶子だった。

「部長が出張帰りに買ってらしたんだけど、人数分はないから女子だけでって。生ものだし、今食べちゃって」

てきぱきと場を仕切る慶子の影で、弥生は小さなあくびをしており、うっすらと目が潤んでいる。

いかにもだるそうな様子に、英理は苦笑した。

派遣社員三人娘はいずれも若くきゃぴきゃぴとしており、お互いが目配せし合ったりくすくす笑ったりと忙しそうだ。

「ほら。いいから、手づかみでいっちゃって」

業を煮やした慶子が白い箱から取り出したのは、美しいこげ茶色にコーティングされた、とても高価そうなチョコレートケーキだった。

透明のセロファンをばりばり剥がして大きく口を開けて頬張ったものだから、派遣社員たちは甘い歓声を上げた。

「じゃあ、私たちも」

「いただきまーす」

次々にケーキを手に取って口に放り込むと、幸せそうに目を輝かせる。

「おいしい~。めっちゃ濃厚ですね」

箱を見た派遣社員の一人が、

「これ、プリムローズじゃないですか」

もう一人が首を傾げていると、慶子がすかさず言った。

「そ。長野にある超有名な高級洋菓子店。二時間並んでようやく買えたって部長言ってたわ」

――仕事しろ、おっさん。

心の中で英理は突っ込んだ。

「これ一個千円以上するんじゃないですか」

「かもね」

「超太っ腹ー。ありがとうございます」

「お礼は、ちゃんと後で部長に言いに行きなさいよ」

慶子は腰に手を当てて言い、「ほら、あなたも取りなさいよ」と弥生にも勧めた。

弥生は何を思ったか、硬直したようにその場を動かない。

派遣社員の一人が面白がって言う。

「江本さん、もしかしてまた、電池切れちゃいました?」

「電池切れ?」

慶子が目をすがめる。

「いや何か、いきなりフリーズすることあるじゃないですか、江本さんって」

「言えてるー。ウケる」

と、もう一人がやけに大きな笑い声を上げた。

そのやり取りが眼前に繰り広げられている最中も、弥生はまばたきすらせず、どこにも焦点を結ばない瞳のまま、置物のように停止している。

さすがに気味が悪くなってきたのか、慶子が声をかけた。

「ちょっと。要らないなら要らないって言いなさいよ。別に強制じゃないんだから」

すると弥生は口に手を当て、軽く首を振った。

「何?」

ますますわけが分からないといった様子で、慶子が眉を吊り上げる。

「喉の調子でもおかしいんですかね」

派遣社員の一人が心配ごかしに言うが、目は好奇に光っている。

青ざめた弥生の顔色を見て、思わず英理は声をかけていた。

「すいません」

五人の視線の集中砲火を浴び、軽く目まいを覚えそうになる。

勇気を振り絞って近づくと、言った。

「すいません、冴島さん。そのお土産、俺、代わりにもらってもいいですか」

慶子はたじろいだ。

「私は別に構わないけど……」

ちらりと視線を弥生に向ける。

「江本さんも、いいかな。それで」

弥生は重そうに首をもたげると、英理のほうを向いて頷いた。

「ありがとうございます」

と言い、英理は拝むようにしてケーキの箱を受け取った。

同時に、入れ替わるようにして弥生が廊下を小走りで去っていく。

「……何なの、あの子」

慶子は理解不能といった顔つきで蔑む。

「結構、不思議ちゃんですよねー。江本さんて」

派遣社員の一人が、毒の混じった相づちを打つ。

英理は再び白い箱の中に目を落とした。

つややかな黒い三角形をした、甘い匂いのするチョコレートケーキが一つ、行儀よくそこに居座っていた。













































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